半沢直樹だけじゃない!大ヒットドラマに共通する「赤目メイク」のインパクト - 松田健次
※この記事は2020年09月25日にBLOGOSで公開されたものです
「愛の不時着」「梨泰院(イテウォン)クラス」「MIU404」「半沢直樹」・・・どれも今年を代表するドラマだ。これらを観ていて気付いた共通点がある。のだが、この共通点を認識するにあたり、これはドラマ好きの間で既に「掘られている」トピックのひとつなのでは? と思い、その界隈を見渡してみたが、活字方面でドラマウォッチャーやコラムニストが言及していたり、ネット方面でまとめサイトがアップされていたり、ということもなく、ちょっと曖昧な話ではある。
その中でひとつ挙げるなら「半沢直樹」に関しては、その点を俎上に挙げる個人ブログが数件だけあった。のだが、あくまで「半沢」単体での気づきにとどまり、複数のドラマを横断する指摘ではなかった。
で、いったいどんな共通点なのかと言うと、上記のドラマはどれもメインキャストの目が赤い、「赤目」であるということだ。
メインキャストの目の周りに赤みがさした「赤目メイク」
ここで言う「赤目」は「目の周り」赤い、赤っぽい、赤みがさしている、ということで、眼球そのものが血走っているような「赤目」ではない。基本的に、上下のまつ毛に沿った内側のアイラインが赤く、具合によってはまつ毛の外側や、目尻に赤さが広がっているパターンもある。
で、目の周りが赤いというのは、基本認識としてその人物が置かれている状態が「寝不足」「過労気味」「泣きはらした」「激昂している」など、何かしらの背景がある時の「目」であり、そうであればここでこんな話をひろげはしない。ではなく、なんだか四六時中、登場人物が「赤目」で目の周りが赤いのだ。
おや? どうしてみんな目が赤いんだ? 納得できる答えのない違和感は、不意に「新しい日常」へと放り込まれたような感覚だ。
赤目メイクはヒロインだけでなく男性キャストにも
「赤目」の扉を開いたのは春先にハマった「愛の不時着」だった。ヒロインのセリ役を演じるのはソン・イェジン。まず、彼女の「目の周り」が妙に赤いことに目が行った。だがその赤さに違和感は無い。セリは若き実業界の成功者で、有名人と浮名を流す美女で、自らモードの最先端をいくセレブというキャラであり、目の周りが赤いメイクはそういう女性の現代的なセンスなのだと自然に受け止めた。
だが、ソン・イェジンの相手役であり、イケメン主役のヒョンビンを眺めているうちに、じんわりとモヤつき始める。ちょっと待て、「目の周り」が妙に赤いぞと。ヒョンビンが演じるのは北朝鮮の将校リ・ジョンヒョク大尉だ。彼の目の周りが妙に赤いのはいったいどういうことだ?
監視国家に生きる軍人としての日常的な緊張、ストーリー上で何度も訪れるピンチへの緊迫、最愛の兄を不慮の事故死で奪われた過去への恩讐・・・等々、キャラクターの人物造形としての「赤目」は納得できる。だが、なんだか、そうでもない場面でも基本的に「赤目」だ。なぜ? どうして?
それから6月下旬「MIU404」(TBS)がスタートする。「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」「コタキ兄弟と四苦八苦」など傑作連発中の脚本家・野木亜紀子の新作だ。見ない選択肢はない。「MIU」は刑事としてバディを組む星野源と綾野剛がダブル主演。ドラマは既視感が薄くてオリジナル度の刺激が高い傑作だった。で、星野源と綾野剛、ふたりとも目が赤かった。
7月半ばに「半沢直樹」(TBS)の新シリーズが始まる。さすがの高視聴率で反響も大きく、ネットは香川照之、市川猿之助、片岡愛之助らの大芝居やインパクトある台詞で即座にバズっていた。だが、そんなことより堺雅人の目が赤い。念のため2013年放送の「半沢直樹」第1期を確認してみる。赤くなかった。
赤目メイクでキャラクターの目力アップ?
モヤつく。どうして彼らの目は赤いのだろうか? 女性の赤目はメイクセンスの範疇なのだろうと納得がいく。だが、男性の赤目はメイクセンスというより、キャラクター造形につながっているという印象だ。「愛の不時着」のヒョンビンなら前述のように「緊張、緊迫、恩讐」、星野源は「トラウマ」、綾野剛は「野生」、堺雅人は「闘争心」あたりが「赤目」に連動するだろう。
「赤目」には、そういうキャラクターの造形に深みを増す効果がある。その際に赤くない目よりも赤目のほうが「目の演技」にゲタをはかせるというか、なにかとても使いやすい特効薬なのかも?
範囲を広げて、HDDに残っていた今年のドラマを幾つか見直す。佐藤健&上白石萌音の「恋はつづくよどこまでも」(TBS 2020年1月~3月)、佐藤健の目は赤くなかった。多部未華子&大森南朋の「私の家政夫ナギサさん」(TBS 2020年7月~9月)、ナギサさん(大森)の目は赤くなかった。
ということは今、ドラマでの男優メイクは「赤目」派と「ノーマル」派が混在する何かしらの過渡期にあるのか?
あらためて「赤目」と「メイク」について検索してみる。2017年あたりから女性のメイクの新たな兆候として、目の周りを赤くする「赤目メイク」「うさぎメイク」「泣きはらしメイク」などのワードが現れ始めていた。派手めなレベルの「地雷メイク」というのもあった。
赤目メイクは主に韓国発のトレンドとして日本にも伝わり、現在もファッション誌では「赤目メイク」のあれこれが進行中のようだ。言うなればこのリアルモードが「愛の不時着」のソン・イェジンのメイクにつながっているのだろう。
そして、自分が見ていない2017年以降の韓流ドラマや韓国映画の中で、同時代を反映した女性の「赤目メイク」が既に出ていることも推測される。のであるが、男性の赤目はいったいどこから来て、なぜ頻出しているのだろうか?
現在は赤目メイク混在中の過渡期か
以下は私的推論だ――、
ドラマの男性メインキャストがなぜ赤目になったのか?
1 2017年頃から女性の赤目メイクが韓国で流行りだす
2 韓国ドラマの女優メイクにそれが広がる
3 赤目女優とノーマル男優が並んでアップになったときの画面の違和感に気づく
4 男優の目も赤くしたほうがバランスがいいだろうとなり採用される
5 男優の赤目がキャラ造形にプラスアルファをもたらす効果に気づく
7 日本のドラマ界もこの赤目効果を取り入れだす
8 日本では赤目とノーマルが混在中 ←今ここ
実際に男優に赤目メイクを用いるようになったのはなぜか? そこにどういう経緯があったのか?ドラマ撮影の現場でメイクを担当している専門家に話を伺えば腑に落ちる説明を得られるだろう。他にもその答えを知っている方がいれば、このモヤつき気味のバトンをお渡しします。「赤目」についてご教示ください。
そして9月、見始めたらハマりそうだったので余裕ができるまで敬遠していた「梨泰院クラス」を視聴開始。主役のパク・セロイを演じるパク・ソジュンの目は、シーンの状況によって赤みを増減する変動型の赤目だった。
で、もうひとつ気がかりな「赤」が浮上した。冬の寒さを強調するメイクなのか、メインキャストが屋上野外でのシーンになると耳の外側半分がやたらと赤い「赤耳」が・・・。「梨泰院クラス」を観た方、そうでしたよね? で、この「赤耳メイク」、どこからどう来たんでしょうか?
それとも、赤目も赤耳も単なる個人的錯覚の見当違いな話で、自分が眼科に行けばいい話なのか・・・。