スーパー銭湯でクラスター発生 今後、行うべきコロナ対策とはなにか - 赤木智弘
※この記事は2020年09月24日にBLOGOSで公開されたものです
広島県のスーパー銭湯で、公演を行っていた劇団のメンバーと観客やその家族を合わせた9名が新型コロナに感染し、クラスターが発生したという。(*1)
僕が知る限りだと、銭湯やサウナ施設といった温浴施設が新型コロナのクラスターになったというのは初めてのケースだ。この一件に注目せざるを得ないのは、僕自身がサウナが好きで週1、2位サウナに行くからだ。
コロナ禍で細心の注意を払っていた温浴業界
新型コロナウィルスの発生以降、本当に温浴業界は細心の注意を払って営業していたと言っていい。 緊急事態宣言時、東京都では一般公衆浴場は「社会生活の維持に必要な施設」として営業は認められたが、スーパー銭湯やサウナ施設などには休業要請がされた。(*2)
「一般公衆浴場」とは街中のいわゆる私たちがよくイメージする「銭湯」のことであり、スーパー銭湯やサウナ施設などは「その他の公衆浴場」と定義され、法的に区別されている。
ただし、銭湯の営業が許されたとはいえ、街中の銭湯にコロナウィルスの影響が無かったということではない。
当然、多くの人々が危機感を持ったことにより、客の数は激減した。
また、サウナを併設した一般浴場ではサウナを休止した。公衆浴場法により入浴料が統制されている一般浴場にとって、サウナの稼働は数少ない客単価向上のための手段であり、サウナを休止せざるを得ないということは、当然客単価の減少に繋がる。
さらに、湯上がり後にのんびりと休憩する客も減り、飲料などの売り上げも減ったという。
もちろん、休業要請が出されて営業自体が難しくなったスーパー銭湯などは、さらに厳しい状況に置かれていたことはいうまでもない。
緊急事態宣言が解除されて以降も、なかなか客足が回復しない中で、衛生管理をしっかりしながら、今回の店を含むすべての温浴施設が、マメな清掃や消毒などを行ってきた。
多くの人が裸で利用する温浴施設には何よりも「清潔」のイメージが大切なのであり、新型コロナの感染というのはそのイメージを著しく傷つけかねないということで、細心の注意を払っていた。それでも残念ながら、今回のようなクラスターが発生してしまったのである。
「慣れ」ではなく「無関心」がリスクを高める
ただ、今回のことで温浴業界に対するネガティブイメージが付くかといえば多分付かないだろう。理由は2つある。
1つは今回の件は温浴施設における新型コロナリスクによってクラスターが発生したのでは無いからだ。
報道では「スーパー銭湯でクラスターが発生した」と報じられているが、これは少し事実と異なる印象である。
というのも、今回新型コロナのクラスターとなってしまったスーパー銭湯で提供していた演劇は、スーパー銭湯によくある、宴会場でビール片手に劇や歌を楽しむスタイルでは無い。
大衆演劇用に舞台が整備されており、客は観劇用の別料金を払って、旅回りの劇団の芝居を楽しむ。そんなスタイルの店であるからだ。
つまり今回のクラスター発生は温浴施設の特性からの新型コロナリスクというよりは、かねてより言われている劇場の新型コロナリスクにより発生したと考えられるのである。
もう1つは、もはや大半の人が新型コロナに対する興味を失っていることが挙げられるだろう。
今月19日から22日のシルバーウィークには、全国の観光地が混み合った。高速道路では全国で100カ所以上の渋滞が発生したという。(*3)
そこには、今年のゴールデンウィークのような自粛の空気が無いどころか、むしろゴールデンウィークを取り戻せとばかりに、出掛ける人たちの姿が見られた。
これは人々が「新しい日常に慣れた」というよりは、延々と続くコロナ騒ぎの中で、ただただ無関心になっているのである。
それこそ、新型コロナ騒ぎの最初期に「絶対にここがクラスターの発生源になるに違いない」と目され、悪意の籠もった視線を受け続けたパチンコ店だったが、長い間クラスターが発生することは無かった。
8月になって、新潟県の改装のために休業中だったパチンコ店で社員など関係者数名の感染があり、クラスターが発生したが、休業中のため来客への感染なども無かったことから、まったく騒ぎになることも無く忘れ去られている。(*4)
今後求められるのはコロナリスクの許容ライン
パチンコ店のクラスター化ですら忘れ去られているのだから、今回の件もほとんど注目されること無く、程なく忘れ去られるだろう。
結論としては「だから温浴業界は安心していい」という話では無い。
なぜなら、コロナ騒ぎに無関心になった国民が、今後とも無関心であり続けるかといえば、その保証はないからだ。
無関心になった人たちは、決してコロナ感染を高いリスクと見なさなくなったり、定量的な評価から感染によるリスクを判断しているわけでも無い。ただそこにある問題を注視しなくなっただけである。
だからこそ、彼らがまた何かしらの問題を見いだせば、再び騒ぎになることもあるだろう。
いわば、現状の新型コロナ騒ぎは「実弾が入っているかどうかも分からないロシアンルーレット状態」になっていると言っていい。もしも爆発したら、その業界が社会全体から敵視されかねないのである。
もちろん、温浴施設であろうと劇場であろうと、現場でやることは「密にならない」「飛沫を防止する」「除菌を徹底する」などの、これまで言われたとおりの対策でいい。
しかし、社会で行わなければならない新型コロナ対策は、「Go Toだ!シルバーウィークだ!」と国民を煽って、新型コロナを気にさせなくすることでは無く、徹底した情報公開と議論によって、新型コロナのリスクをどこまでであれば許容し、どれ以上であれば許容しないかという線引きを少しでも明確にすることではないか。
これをしない限り、いつまでも業界はクラスターの発生に怯え、必要以上の騒ぎになりはしないか、社会を敵に回しはしないかと、戦々恐々とするしかないのだから。
*1:広島市で8人感染 スーパー銭湯でクラスター 大衆演劇の劇団員ら 新型コロナ(中国新聞)https://this.kiji.is/680965079964599393
*2:スーパー銭湯は休業、銭湯は営業 要請の詳細公表―都(時事ドットコム)https://www.jiji.com/jc/article?k=2020041300870&g=eco
*3:全国100カ所以上で渋滞 シルバーウィーク3日目(FNNプライムオンライン)https://www.fnn.jp/articles/-/87023
*4:《新型コロナ》「パチンコ店でクラスター」 新潟県上越市の20代男性会社員 一度は“陰性”も発熱…(NST)https://www.nsttv.com/news/news.php?day=20200804-00000004-NST-4.xml