女性100人にヒアリングをして開発 なぜ男性が「生理管理アプリ」を作った? - 工藤まおり

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※この記事は2020年09月09日にBLOGOSで公開されたものです

小学生の時、担任の先生から「女性は教室で保健体育の授業。男性は体育で」と伝えられ、女性だけの空間で「生理」の授業を受けたことが記憶にずっと残っている。

高校生の時は、ソフトボール部の男性顧問に「今日生理2日目なんで、長距離走るの辛いんですよね…」とため息混じりに話したら、目を逸らされて気まずそうにされた。

思春期のそのような経験から、女性である筆者がなんとなく考えついたのは、「どうやら、『生理』という現象は男性に話してはいけないものらしい」ということ。

ある程度大人になった今でも、「生理」は「男性は知る必要のないもの」というイメージが強く残る。PMSや、人によって痛みや症状が違うということも、知っている男性は少ないだろう。

※PMSとは、生理前3日~10日の間続く身体的・精神的な症状のこと。月経前症候群とも呼ばれる。

そんな中、男性が作ったという生理管理アプリが今年誕生した。

従来の生理管理アプリに多い、ピンクや赤色とは全く異なり、淡い緑色がキーカラーの「ケアミー」(https://healthandrights.jp/careme/)だ。

生理日を入力すると、記録にあわせて産婦人科医が監修した体調に関する記事がレコメンドされ、月額300円(税込)を支払えば、生理の悩みをいつでもチャットで相談できる機能がつく。生理日を記録するだけではなく、正しい知識を提供することにも注力している点が特徴だ。

今回は「ケアミー」を運営する株式会社ヘルスアンドライツの代表取締役・吉川雄司さんに、なぜ男性である吉川さんが生理管理アプリを作ったのか、その背景について話を伺った。

日本の社会課題に携わりたい

「2016年頃に今の共同経営者と、『日本の未来のためになるビジネスを作ろう』と話していて、毎日ビジネスアイデアを出し合っていました。その時から、妊活や女性のキャリアについての課題を解決したいという想いは強くありました。」

今から4年前、まだ株式会社ヘルスアンドライツが立ち上がる前の話を少しずつ思い出しながら、吉川さんは丁寧に語った。

見せてもらった当時のビジネスアイデアを書き溜めているスプレッドシートには、日常にありふれている何気ない困りごとから生まれたものや、教育における課題を解決できるもの等、多様なビジネスアイデアがズラリと並んでいた。

結果的に742個のアイデアの中で目立ったのは、妊娠出産や女性の健康、教育等についてのアイデアだった。

「不妊治療で困っている人をサポートするサービス」
「子作りに関する情報がまとまったサイトがほしい」
「乳がん検診が自宅でできるサービス」

・・・等。

吉川さんは当時を思い出しながら、こう語った。

「私自身、親から『あなたは苦労して生まれてきたんだよ』と、不妊治療の話を聞いていたので、その辺に関してはとても興味深かったですし、若い時に知っておくべき妊娠等の情報が全く浸透していないということに課題を感じていました。」

「また、当時読んだ『日本再興戦略2016』に、不妊治療に関することが含まれていなかったことも疑問に思ったんです。

晩婚化が進んでいく社会の流れがあり、きっと今後日本でも不妊治療は注目されてくるはず。日本の将来のためにも絶対に必要となるサービスだと思いました。」

妊活夫婦の「もっと早く知りたかった」という声

しかし、吉川さんは「不妊治療における課題を解決しよう」と決意し事業を進めていった中で、もっと解決するべき課題にぶつかることになる。

「妊活している夫婦から、『もっと早く身体のことを知りたかった』という声が非常に多かったんです」と吉川さん。

「女性の卵子の数は生まれた瞬間に数が決まって、後は増えることなく年々減っていくということも、生殖機能が年齢に応じて衰えていくということも知らない方が多くて…。

不妊に悩む方々と向き合う中で、なるべく若い時に知っておくべき身体の知識を得られることが、将来的に不妊に悩む人を減らしていける根本的な解決策だと思いました。

そして、今の若い人たちに将来のために知っておくべき知識を届けるべきだと考えるようになりました。不妊治療という領域で課題を解決しようと思っていたんですけど、それよりも今の若い人たちに将来のために知っておくべき情報を届けることが大切だなと思いました。」

そして、行き着いた先が「生理管理アプリ」だった。


「若い方にヒアリングしてみると、WEB上に色んな情報があふれていて、正しい情報も、どれが正しいのかわからないという声が多く、不安が顕在化していたんです。

そのために、必要な時に医師が監修した正しい知識を届けることが重要だと思いました。」

吉川さんは市場調査をするべく、すでに存在していた生理管理サービスをすべて使ってみることにした。しかし、それらは吉川さんの思い描いた"生理管理アプリ"とは大きく異なっていた。

「学校で習った"月経"と、私が知っている"生理"は違う」

まず、アプリ内に表示される広告記事が、「彼氏を気持ちよくさせるためにするべきこと」といった内容のものが多く驚いたという。

「もっと月経期であれば生理痛排卵痛に関して取り上げたり、排卵と共におりものが増える等、自分の周期に合わせたコンテンツがほしいと思いました。」

吉川さんはサービスを構築しながら、100人以上の女性にヒアリングを行った。その中には、「学校で習った『月経』と、私が知っている『生理』は違う」と話した女性もいたという。

「彼女は『私の生理は食欲が増えるし、ニキビもできるしお腹だって痛い。学校で習った月経とは全然違う。私一人だけで向き合っていて、誰も何が正しいのかを教えてくれない。何を知るべきかどうかもわからない』と話していました。」

PMSによるイライラを自分の性格だと思いこみ、自己肯定感が低くなってしまったという女子中高生にも出会った。

「そんな方にも、自分が悪いんじゃなくて、月経前症候群(PMS)というものがあるということや、低用量ピルやサプリ等で改善できることもあるということを、ちゃんと伝えていく必要があると思いました。」

女性100人以上にヒアリングしていく中でたどり着いたのが、「生理管理しているだけで、正しい身体の知識が自然と増えていくサービス」だった。

それを作って浸透させていけば、嫌という程聞いた「もっと早く知りたかった」という不妊治療を受ける夫婦の悲しい声を減らせるのかもしれない。

生物学的な身体のメカニズムとして「生理」を捉えてほしい

ケアミーは、生理管理アプリでよく使用されている赤色やピンク色等の女性向けアプリで使用されているカラーを使用せず、淡い緑色がキーカラーになっている。

実はこれも、吉川さんが、従来の生理管理アプリのロゴカラーに違和感を覚えたことがきっかけだという。

「10年後の未来を考えた時、生理自体へのタブー視がなくなると思ったので、"女性のアプリ"みたいな印象をつけたくなかったんです。

緑にしちゃえば、『女性のもの』という性別を感じさせるものではなく、女と男というポジションじゃなく、ヘルスケアアプリという印象になると思いました。ペアリング機能(生理がきた時に、設定した第三者に知らせる機能)もついていて、男性や母と娘で使用することもできます。」

生理管理アプリをイメージしやすい赤やピンクといった従来の色ではないことに不安を感じつつも、いざサービスを公開したところ、世間からは思った以上に肯定的な声が多かった。

「あるトランスジェンダーの方は、『従来の生理管理アプリは女性という性が主張されている感じがして使用できなかった。ケアミーは、生理は女の子のものではなく、子宮を持っている人のものだと思えたから嬉しい』と言ってくださったんです。」

生理を「女性だけのもの」としてではなく、「子宮を持っている人の生物的なメカニズム」として捉え、正しい情報をフラットに伝えたい。

これこそが、吉川さんがケアミーの開発を通して描きたい世界観だった。

「私は男性だからこそ、フラットに生理についての情報発信ができると思っています。自分自身が生理を経験すると、意識せずとも自分の症状が基準だと思ってしまいますが、生理は人それぞれ症状も痛みも全く違う。

そういった症状の基準がわからないからこそ、正しい情報を適切なタイミングで得られるようにできると思っています。」

「生理」を無視しない世の中にしたい

「まだまだサービスとしては未完成なので、これからどんどんアップデートしていきたい」と意気込む吉川さんの頭の中には、いくつもの新しい展開が描かれている。

「でもまずは、『生理の悩みや不安に寄り添い続け、誰もが健康で幸せな毎日をおくれるように』をブランドビジョンミッションに掲げているので、すべての方が生理と上手く付き合いQOLを高められるようにしていきたいです」と話す。

吉川さんが思い浮かべる未来は、「月経をケアすることが当たり前の世の中」だという。

今までの社会は、生理をタブー視し、見ないように、触れないようにしていた。その風潮は、社会に出て働く女性を無理させてしまうこともあったはずだ。

「『10年前、生理って女性だけのものだと思われていたんだよ』と母親が話すと、子供が『えー!男女で知ってるものじゃないの?変だねー』って言いながらびっくりするような。そんなふうになったらいいですね」と笑顔で吉川さんは語った。

生理を女性だけのもの、タブー扱いするものでもなく、男女共にフラットに考えられる社会へ。そんな社会を作っていけたら、きっと今より少しだけ、女性が生きやすい世の中になるのかもしれない。