※この記事は2019年02月26日にBLOGOSで公開されたものです

2013年3月3日、北海道立高校1年生の悠太(享年16)が地下鉄の電車にはねられ死亡した。悠太が自殺したのは、所属していた吹奏楽部の顧問によるパワハラが原因だとして、母親が北海道を訴えている。2月14日、札幌地裁(高木勝己裁判長)にて本件の裁判が開かれ、結審した。

原告の母親は意見陳述で、「尋問で顧問の話を聞くと、何もかも曖昧なまま、あれほど酷い扱いをされていたことを知りました。顧問が事実を捻じ曲げて言い訳を続け、息子の人生を上書きして汚すことを、これ以上許してはいけない」と訴えた。判決は、4月25日。

訴状などによると、悠太は13年1月、他の部員との間でメールをめぐりトラブルを起こしていた。この時、お互いが言いすぎたものになっていたが、指導を受けたのは悠太のみ。一方の相手は指導されていない。その後、部内で別の問題が起き、3月2日、悠太のみが指導された。翌日は日曜日だったが、悠太は部活のために登校したものの部活の練習には参加せず、地下鉄の駅に行って自殺した。

争点は、顧問の行為がパワハラかどうか、自殺との因果関係、自殺の予見可能性、安全配慮義務、事後対応の違法性だ。原告側は最終的に、指導は部員に対する悠太の「孤立化・排除命令」であり、教員によるいじめ、パワーハラスメントであったこと、それにより、悠太にとっては「堪え難い苦痛となって、一気に自殺に追いこまれた」と主張した。遺書などから、「3月2日の顧問による盲目的かつ一方的な『叱責』と制裁以外に考えられない」「叱責と自殺の因果関係は明白である」としている。また、「高校の教員であれば、圧迫的言動等を生徒に対して行うことで、生徒が自殺しかねないということは一般的に予見可能であった」とした。

高木裁判長は双方にもう証拠は出し尽くしたかを聞いた。原告は、「吹奏楽部員に確認が必要なこと」「吹奏楽部員の記述・学校が確認したこと」、悠太と「教科担任等のやりとり」を提出。すべてが黒塗りとなっている。このほか、指導記録、吹奏楽部の年間スケジュールを提出した。また、公文書開示決定された「部活動指導整理簿」も出し、悠太が自殺した当日、学校に悠太が来ていたにもかかわらず、確認をしないまま部活動を行っていたことや、他の部活動顧問も学校に出勤していたことを示した。他の部活動の顧問がいながらも所在確認を行ってないことを証明するものだ。

原告側は最終準備書面で、3月2日の叱責についてこう主張する。

顧問は、叱責の理由になった行為について、2年生部員の前で悠太に対して「世の中では立派な犯罪だ」「自分の娘についてそういうことを言われたら、俺なら黙ってない。お前の家に怒鳴り込んで行く。名誉毀損で訴える」などと詰問、叱責し、悠太を、十分な事実確認をしないまま、思い込みで犯罪者と決めつけた。

その上で顧問は、1)部員には一切メールをしない、2)1年生部員をこれ以上振り回さない、3)パートからの連絡に対しても返信してはならない、4)明日、2年生から条件を言うーーとの4つの“条件”を提示した。この点について、「教諭と生徒、部活動顧問と部員、大人と子どもという絶対的な上下関係が固定された閉鎖環境の中、音楽準備室で先輩部員の前で行われている」として、「パワハラ」、かつ「いじめ」だとした。

これに対して被告側はこう反論する。

3月2日の叱責した経緯は、一年生部員から相談された内容に基づくもので、「悠太が発言を繰り返しているのかどうかを確認し、仮に事実であれば指導が必要だと考えたもの」である。「悠太は発言した旨を認めた」こともあり、1月のメールトラブルから短期間の出来事のために指導した。それは「適切であり、パワーハラスメント等の違法と評価されるものではない」としている。

自殺の予見可能性について、原告側は、

顧問は、メールトラブルの際に行った指導(2月1日)でも、3月2日の叱責でも、吹奏楽部内で追い詰められることを当然認識、予見しながら、3月2日のような叱責、制裁を悠太に行った。高校の教員であれば、圧迫的な言動等を生徒に行うことで、生徒が自殺しかねないということを一般的に予見可能だった、と主張した。その根拠に、文科省の「部活動指導のガイドライン」で、体罰等が禁じられており、文化部も除外されるものではない。

と主張した。

被告はこれに対しても反論する。

「言うまでもなく、予見可能性の判断は、通常人の注意能力を基準とすべきであり、顧問のような一般教員の知見ないし注意義務を求めるべきではないことは当然」であり、「事故前に、悠太から自殺などのサインや予兆はまったくなかった」として、顧問を含め学校関係者が、自殺を予見することは不可能であった、とした。

なお、被告側の準備書面では、進行上、プライバシーを考慮し、匿名にしていた同級生の部員の名前を上げている。

原告の母親は意見陳述の冒頭で、

「息子は16歳という年齢で命を経ちました。息子は、自殺する前日、顧問からされたことを話してくれました。現実を口に出して話すことは、どれほど苦しかったことか。息子が抱えたまま死んでいった疑問や混乱を、解決させなくてはいけないと思いました」
「学校関係者に息子から聞いたことを伝えたのは、息子がなぜ死んだのか知ろうとしてほしい、調べてほしい、そして知り得たことに見合った対応をしてもらいたいという思いからでした。しかし、実際は、こちらの情報提供には取り合ってくれる様子もなく、積極的に調べる様子もなく、知り得たことへの対処もする様子はありませんでした。このままでは、息子の死の真相に近づけないと思い、息子がどのような扱いを受けたのか、知りたい、知ってもらいたいという思いから裁判という選択をしました」

と述べた。加えて、山口県周南市の県立高校2の男子生徒が自殺した問題で、「県いじめ調査検証委員会」が、同級生からのいじめだけでなく、教員からの『いじめに類する行為』を認めたということに触れた。教員による指導とも言えない行為によって、生徒が亡くなることがあることを示唆し、次のように話した。

「息子の顧問がしたことも、生徒の心にどのような影響を与えたのか、しっかり分析していく必要があったはずです。しかし、息子の事件に関しては第三者による調査委員会も設置されず、検討さえしていただけませんでした」

さらに、文科省から「対応が不適切」と道教委への電話指導があったことや、事後のアンケートの原本を学校側が破棄したことにも触れ、

「息子が亡くなった後も、教師から追い詰められて亡くなる子どもが後を絶ちません。何人の子どもが命を断てば真摯に向き合ってくれるのでしょうか」

とした。その上で、悠太の遺書にも触れて、

「息子は、何が嘘なのか、何が犯罪なのか?と遺書にも書き、なぜ自分がこのような扱いを受けるのか納得できずに、でも、誰からも理由を教えてもらうことも、弁明することもできずに死んでいきました。自分が何をしたとされ、どんな人に仕立てあげられているのか、それすら自分ではわからなかったのです」

とまとめた。