いくらなんでもアダルトサイトはないだろう - 赤木智弘
※この記事は2018年12月16日にBLOGOSで公開されたものです
今年8月に、大阪府警富田林署で拘留中の容疑者が逃走し、9月29日に山口県で逮捕された問題。
逃走当初から、人の出入りを知らせるブザーの電池が抜かれたままだったり、富田林署が市に注意喚起を要請したのが、逃走が発覚してから16時間も後になったことなど、富田林署のずさんな対応が問題になった。
そして10月に、大阪府警は7名を懲戒処分にしたが、そのとき、スマホを持ち込みニュースを見ていたとされた巡査部長が、実はアダルトサイトを見ていたということが、12月になってようやく明らかになったという。
これに対して大阪府警の関係者は「スマホを持ち込んだことが処分の対象であり、サイトの内容は関係がない」と、アダルトサイト閲覧を公表しなかった理由を説明しているという。(*1)
会社を舞台にしたドラマなどで「全く仕事をしていない窓際社員」が描かれることがある。
一日中窓際の自分の席に座り、パソコンでソリティアなどをしている。5時になったらすぐに帰り、誰にも相手にされないというのが、もはやなんの責任感もなく、たるみきった窓際社員のステレオタイプである。
そんな窓際社員でも、自分のパソコンでアダルトサイトを見ているというのは考えられない。
会社という多くの人がいる場所で、ツイッターをしていたり、ゲームをしている人はいるのかもしれないが、アダルトサイトを見るというだらけ具合は、いくらなんでもありえない。
そんなありえない状況が、実際の警察で、現実として存在していたのである。アダルト関連の仕事場でもないのに、アダルトサイトを見ている職員がいる職場など、だらけた職場ランキングというものが存在するなら、ナンバーワンではないだろうか。
働いている人は、自分の職場で仕事中にアダルトサイトを見る人がいるかどうかを考えてみて欲しい。そのような状態がありえるだろうか? そしてそんな状態を放置していられるだろうか?
それが放置されていたのが富田林署なのである。
そりゃ、それだけだらけていれば、ブザーの電池も変えなければ、事件発覚の後もすばやく関係各所に連絡ができないのも、当然だろう。
宿直で食べたカップ麺もロクに片付けず、署内で臭いを発しているレベルなのではないか?
そして、ひょっとしたら、接見室のアクリル板も、誰でも気づくくらいに壊れかけていたのではないか?
おや、もしかして鉄格子の錠も開いてるんじゃね?
そのくらい想像しても差し支えないレベルの、だらけっぷりであると言えよう。
さて、事件が発覚した当初「接見が終わった後に弁護士が署員に声をかけなかった」ことを問題視した人たちがいた。
元大阪府知事の橋下徹氏も「接見が終わったことを告げるのが弁護士のマナー」とし、弁護士に問題があったと糾弾している。(*2)
こうした「弁護士の行動がおかしい」という意見はネット上で賛同を集め、やがて「弁護士が逃走の手助けをしたに違いない!」と、弁護士を犯罪者呼ばわりする人たちも、たくさんあらわれた。
そのような批判は、少なくとも「警察がちゃんと仕事をしている」ことが前提となっていた。
「警察がちゃんと警備をしているのに、容疑者が安々逃走できたのはおかしい」という疑問から「弁護士が逃走の手引きをしたに違いない」という憶測が産まれたのである。
しかし今回、富田林署が「仕事場でアダルトサイトを見ているような人間がいる職場」であったということが明らかになり、警察がちゃんと仕事をしていたという前提は完全に失われた。
もし、その弁護士が声をかけようとしたとして、一番近くにいたのがアダルトサイトを見ている巡査部長だったらどうするつもりだったのか。もし、右手がデスクの下でもぞもぞ動いていたら……それでも声をかけろと?
なにが「接見が終わったことを告げるのが弁護士のマナー」だ。職場でアダルトサイトを見るとか、弁護士にマナーを説く以前の問題だろう。
今回の逃走で容疑者は、逃走用の自転車を盗み、怪しまれないように自転車日本一周を装い、行く先々で万引きを繰り返してやりくりをしていたようだ。
容疑者が万引きをしたときの動画を見たが、これから万引きをするのに店員にわざわざ話しかけるなど、非常に手慣れた様子であった。
最終的には万引きがバレて逮捕されるのだが、ある意味で、日頃の万引きがうまく行っていたからこそ、容疑者は窃盗以上の罪を犯す必要がなかったといえる。
もし、容疑者がもっと不器用で万引きがうまく行かず、食料も逃走資金もなかったとしたら、近くの家などに押し入り、現金を奪おうとしたかもしれない。
そしてそこに出くわした人に暴行、さらには殺害に至る可能性もあったのかもしれない。
長期にわたる逃走で、傷つけられる人がいなかったことは、不幸中の幸いである。しかしそれは警察の失態をいささかたりとも軽減するものではない。
「収容者の逃走を許す」というのは、多くの市民を命の危機に晒すことである。だからこそ、警察は気を引き締めて仕事をしなければならないのである。
そして、だからこそ日本に暮らす人達は、気の緩んだ警察に対してしっかりと糾弾をしなければならないのである。
しかし今回の問題では、元大阪府知事の橋下徹氏を始め「警察はしっかりと仕事をしているはずだ」という思い込みのもとに、多くの人たちが警察を甘やかし、擁護してしまった。
元大阪府知事という「お上」も、そうした上の言うことを鵜呑みにする「市民」も、その両者が警察を甘やかしたのである。
とりもなおさず、それは市民の命を危機に晒すことに繋がったのである。
警察はもちろん、勝手な憶測で警察を甘やかした人たちの猛省を望む。
*1:樋田容疑者の逃走時に留置担当がアダルト動画視聴(日刊スポーツ Yahoo!ニュース)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181213-00418348-nksports-soci
*2:富田林署の容疑者逃走事件に橋下氏、「接見が終わったことを告げるのが弁護士のマナーだ」(AbemaTIMES BLOGOS)https://blogos.com/article/324430/