※この記事は2018年12月09日にBLOGOSで公開されたものです

昨年6月、東名高速道路で一家4人が乗るワゴン車に対してあおり運転を行い停車させた結果、そこにトラックが追突事故を起こし、夫婦を死亡させたとして、危険運転致死傷罪に問われた26歳の被告の裁判が始まった。(*1)

直接、被害者を轢いたわけではないが、その原因となったあおり運転を行ったことで、被告に対するヘイトは極めて強いものになっている。特に典型的な「DQN」、すなわち大きな顔をして威張っている人物であると見られていることから、ネットでのバッシングは極めて強いものになっている。

また、産経新聞記者に送った「自分のことをネタにするために面会するなら30万円以上払え」という趣旨の手紙は、被告の酷さを物語るものとして、それこそ「ネタ」にされている。(*2)

さて、僕が論点にしたいのは、被告ではなく「あおり運転」である。

ドライブレコーダーが普及し、あおり運転の被害に遭った映像をYouTubeなどの動画サイトで見ることも珍しくなくなった。

事故の可能性が増えるだけで、百害あって一利なしのあおり運転。あおり運転をする人はどうしてそのような運転をしてしまうのだろうか?

それはきっと「運転が楽しいことだと考えている人がいるから」だと思っている。

面白い映像を見つけた。

日産がドライバーの脳波を言語化して、地面に投影して走る車両を作ったというプロモーション映像だ。(*3)

スピードを出す時に「ウォオオ!」とか「ぐいーん!」とかいう、漫画風の吹き出しが表示されている。

重要なことは、それがドライバーの思いなのかというよりも、メーカー側がこうした感情を「良いもの」として宣伝に利用しているということである。

バブルが崩壊して以降、日本では車が売れず「若者が運転の楽しさを理解しなくなった」というような主張が時折見られる。

楽しさとか関係なく、若者にお金が行かなくなったからこそ、車が売れなくなったわけだが、その一方で、車が好きな人や車を売りたい人は、先程の映像と同様「運転は楽しい」という価値観を持っているし、それを良しとしていることがわかる。

しかし、スピードを上げたり、自分の思い通りに車が動くことを「楽しい」と感じるということは、その一方で、ノロノロ運転せざるを得なかったり、自分の思い通りに車を動かせない状況があることが「苦痛」であるということでもある。

想定した楽しさが得られなければ、それは苦痛に変化する。楽しさと苦痛は裏表なのだ。

あおり運転の話でよく聞くのは「その車に抜かれたから、あおり運転をした」というケースである。

単に道路を走っていて、追い抜き車線から車を抜かれた。たったそれだけのことで、苛立ちから怒りを感じ、それがあおり運転という行動になるというのだ。

正直、沸点が低すぎるとしか思えない。

これが徒歩であれば、誰かに抜かれたとしても、その程度のことで苛立つことはない。

もし、そんなことで苛立っていれば、人々が目的の電車に乗ろうとバラバラに動く新宿駅構内など、いつも殴り合いの喧嘩が耐えないであろう。

そんな徒歩ではありえない沸点の低さは、歩くことそのものが大して楽しくない一方で、運転そのものを楽しいと感じるからこそ、発生しているのではないか。

僕はもっと運転がつまらなくなれば、このようなあおり運転は起こりづらくなると考えている。

日産も運転手の脳波をとって「うぉおおおお!」とか思っていることがわかるなら、その場でエンジンストップしろとしか思えない。

そのような異常な精神状態にある人間に、運転などしてほしくはない。

公共交通である電車やバスの運転手は「楽しく運転」などしていない。

時刻表を確認し、予め定められたルートを想定された速度でシステマティックに走る。全く楽しくないが、それが一番安全なのである。

安全のためには「運転の楽しさ」など、不要なのである。

車は軽くても600kg。そんな重い物体を時速数十キロで走らせているのだから、感情的に楽しく運転することはとても危険であるという自覚を、運転手にはもちろん、自動車業界にも持ってもらいたい。

運転をもっとつまらなく。

自動運転の実現、そして手動運転の禁止が一日も早く実現し、交通事故が世界から撲滅されることを僕は望んでいる。

*1:東名あおり運転裁判、石橋被告「『ボケ』と言われムカついた」 涙で謝罪も遺族席を直視せず(zakzak)https://www.zakzak.co.jp/soc/news/181206/soc1812060013-n1.html
*2:「面会なら30万から」 東名あおり運転被告からの手紙(産経新聞 Yahoo!ニュース)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181201-00000563-san-soci
*3:ドライバーの脳波を分析して運転感覚を路面に投映 特製「日産リーフ」の未来感がすごい(ねとらぼ)http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1604/14/news138.html