主催者の失態を自治体に押しつけた「ゆるキャラグランプリ」 - 渡邉裕二
※この記事は2018年12月05日にBLOGOSで公開されたものです
「流行語大賞」が話題となっている。今年も、さまざまな言葉が流行語として挙がっていたのだが、個人的には、やはり引退した安室奈美恵の「安室ロス」がなぜノミネートされなかったのかとか、「組織票」もインパクトがあったように思えたのだが、まあ、それは時期の問題や審査員の琴線に触れなかったのだろうから仕方のないことなのだが…。
ゆるキャラ“組織票”報道のタイミングに疑問
ところで「組織票」というのは、恒例化されてきた「ゆるキャラグランプリ2018」でいきなり問題視され、出てきた〝言葉〟だった。しかし、なぜこの〝組織票〟という言葉がここにきてクローズ・アップされたのか、今でも疑問でならない。 この問題が出てきたのは、11月9日付の毎日新聞だった。
社会面のトップに掲載された「四日市市が大量組織票」「首位獲得へ市長号令 万単位ID配分」という記事によると、
全国のご当地キャラクターが集う『ゆるキャラグランプリ(GP)2018』で、三重県四日市市が、市のマスコットキャラクター『こにゅうどうくん』をグランプリにしようと、市職員を動員して組織票投じていることが、毎日新聞が入手した内部資料で判明した
ゆるキャラGP 四日市市が組織票 市長号令、ID配分 - 毎日新聞
確かに「度を越している」と言ってしまえば、そうかもしれないが、かといって一般紙の全国版で社会面トップにするようなネタではないだろう。もっとも同時期に毎日新聞系のスポニチでも社会面のトップで掲載していたことを考えると、何やら意図的に仕掛けられた記事だったようにも見えてしまうのだが、それにしてもなぜ「今回なの?」という疑問符もつく。
ちなみに、この「ゆるキャラグランプリ」については、この欄で1年前にも記した。
言うまでもなく、ゆるキャラは過渡期にさしかかっている。
今回のGPは大阪・花園中央公園で11月17、18の両日に行われた。「ご当地部門」と「企業・その他部門」で競われたが、その盛り上がりが年々減少傾向にあることはエントリー数からも分かる。一昨年は1421体のエントリーがあったものの、昨年は1158体となり、今大会では909体と、ついに1000体の大台を切ってしまった。
組織票が問題視されたのは2015年
そういった中で、今回は鬼の首を取ったように「組織票」が問題視されたわけだが、GPは基本的に〝人気投票〟でトップを競い順位づけするのだから、ここで各自治体の組織票を云々するのはおかしいだろう。そもそも、投票の仕組みが、ネット投票で、そのルールは「1人1日1回」とされているだけで、組織票を規制してはいない。
ただ、組織票を問題視するというのなら、2015年の「出世大名家康くん」(浜松市)の方だったはずだ。この時のGPは、過去最高の1727体が参加して競われたが、その結果「家康くん」の獲得票は698万6647票となった。2位は愛媛県の「みきゃん」(691万7787票)、3位は埼玉県深谷市の「ふっかちゃん」(401万2474票)。
今回のGP1位は「カパル」(埼玉県志木市文化スポーツ振興公社)だったが、その獲得数は88万9346票だったことを考えると、「家康くん」の年のトップ争いは熾烈だったことが分かる。
浜松市は「考えられる全ての手段で応援をお願いしている。官民が一丸となって準備を進めてきた。市としては〝1日5万票が目標〟300万票で1位が確実になる」とオール浜松で取り組んだが、当然ながら、この「家康くん」には批判が相次いだ。裏で大手の広告代理店がプロモーションをかけ、市民には毎日1票を投票するように呼びかけたこともあって、「無理矢理に票を獲得しようとしている」といった苦情が出たという。
こういった組織票問題もあって、昨年、実行委員会はGPを2020年で終了することを決めたが、現実的にGPを盛り上げるためには、自治体や企業の熱意と組織票は重要なポイントだったと言えなくもない。事実、GPではプロモーションや組織票のために動く広告代理店も多く存在し、実際に依頼していた自治体もある。
ただ、四日市の場合は、独自にフリーアドレスでIDを大量取得し、役所の職員に投票を振り分けたことに不満や疑問を抱いた職員がいたということだろう。それにしても「市長が投票を指示するのはパワハラと同じ」という職員もいたらしいから、よほど投票することが苦痛だったのだろう。そういった不満や疑問を、すぐにメディアに訴えるというのも考えものだが、役所内の投票を呼びかける掲示板をわざわざ写真に撮ってメディアに送るというのは、投票する以上にパワーのいることだとは思うのだが…。
主催者のご都合主義に見え隠れする思惑
それはされおき、今回のGPで不可解だったのは、四日市のこにゅうどうくんばかりが目立ったことである。まるで意図的に狙い撃ちされたような感じだった。これには、さすがに他のGP出場の自治体から「不公平」という声もあったようだが…。 もっとも、こにゅうどうくんの活躍は一目置かれていた。今年は、俳優の京本政樹が監督した市のプロモーション映像にも登場したこともあって、多くのメディアが取り上げた。そればかりか都内の街頭ビジョンでは1000回以上もその映像が流され、知名度はゆるキャラの中でも群を抜いただけに、何かとターゲットになりやすい部分があったことは確かだ。
ところが、GPの最終的な投票結果ではトップ3の「こにゅうどうくん」、「ジャー坊」(福岡県大牟田市)、「一生犬鳴!イヌナキン!」(大阪府泉佐野市)のネット投票が「組織票だった」ことを理由に大幅に減らされたのだ。理由はどうであれ、ルールに沿って獲得した票であるはずが、「批判が出たので」ということなのか、主催者の事情で減らすのは、どう考えてもご都合主義過ぎないか。
そういったことから今回の騒動を振り返ると、全ては主催者の無責任さから生じてきたとしか思えない。8回も運営してきた割には仕切りが悪過ぎるのだ。ネット投票も曖昧で、しかも最終結果も曖昧。GPでトップになることを煽るだけ煽っておいて、そこでの出来事や失敗は全て自治体に押し付けているとしか思えない。あまりにも無責任だろう。
1位となった「カパル」は6回目の挑戦で人気も高い。しかも「人気ゆるキャラの〝ふなっしー〟が駆け出しの頃から交流があり、〝ふなっしー〟がボーカルを務めるバンド〝キャラメル〟ではベースを担当する仲間で、〝ふなっしー〟ファンからの支持もあった」(ゆるキャラのウォッチャー)だけに、トップ獲得に不思議はないが、しかし、トップ3の、あまりにバランスのとれた減数には違和感があった。
「カパル」の1位獲得は、確かに「組織票に勝った」「4位からの大逆転」と、意外性をアピールすることに成功しただろう。しかし、ここに実行委員会の思惑が見え隠れしてならない。表向きは「もう、ゆるキャラの役割は終わった」と言いながら、実は、2020年のラストに向けてゆるキャラ・ブームを、もう一度演出したいと考えた策略だった…なんてことはないだろうけど。
その「カパル」は、志木市の市民祭りで、香川武文市長から「特別住民票」を交付された。「優勝おめでとう」と祝福されたが、香川市長は「〝おめでとう〟の連絡は、私の市長選当選よりも多かった」と満面の笑顔。「カパルの力で志木市のPRに共に頑張りたい」。
なんだかんだ言っても、やっぱり、みんな〝ゆるキャラ〟に期待を寄せている?