放送業界で悪人に付け込まれ…フリーランスの憂鬱 - 西原健太郎

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※この記事は2018年12月03日にBLOGOSで公開されたものです

年末に向けて少しずつ慌ただしくなってきた今日この頃。みなさんいかがお過ごしでしょうか?

私はというと、先月のコラムでも書きましたが、先日韓国で行われた『Anime×Game Festival 2018』に参加してきました。韓国は日本の隣国ですが、アニメの声優に注目する文化はまだまだ一般的はありません。そんな韓国で声優のイベントを行えたというのは、とても感慨深く、そして勉強になりました。今回の経験を胸に、2019年も声優コンテンツの普及に向けて、更なる活動に励みたいと思います。

ところで、この時期日本では、サラリーマンは『年末調整』を行います。払いすぎた税金が戻ってくることがあったりして、書類を書くのは大変ですが、ある意味楽しみにしている人も多いのではないでしょうか?でも、年末調整ができるのはサラリーマンや公務員などの「給与所得者」だけです。

私が働くラジオ業界は、放送局の社員を除けば給与所得者の割合は低く、特に放送作家は、ほとんどが『フリーランス』です。そして、フリーランスには良い事も悪い事もあるわけでして…今回はそんな、ラジオ業界におけるフリーランスを取り巻く状況を書いてみようかと思います。

番組を支える「フリーランス」の存在

ラジオ業界に限らずどの業界でも、フリーランスという立場の人間が生きていくのは大変です。『フリーランス』とは、組織に属さず、自らの力で仕事を受注し、納品し、報酬を得る人々の事を指します。また、制作会社などの組織に所属している作家も、現場では個人として扱われ、個人に対して仕事を振られることが多いので、ある意味フリーランスの人と立場は変わらないと言っても良いかもしれません。組織に所属していてもしなくても、誰かに「能力が評価され」、「仕事を振ってもらうことで」生活ができる…それがラジオ業界におけるフリーランスです。

フリーランスの人間が業界で生きていくのは大変です。まず、スケジュールは自分で管理しないといけませんし、ギャラ交渉も自分でやらないといけません。でも、休みたい時は自分でスケジュールを決められますし、ギャラ交渉では自分で自分の価値を決められます。しかも、税金関係を抜いて、もらったギャラはすべて自分のものにする事が出来ます。能力を評価されさえすれば、フリーランスはとてもやりがいがあります。

もちろんデメリットも存在します。まず、フリーランスの人は仕事数が減ると収入に直結するので、とても不安定です。また、社会保険が充実しているサラリーマンと違い、フリーランスは国民年金・国民健康保険に加入しないといけません。収入によって月々に支払う金額も変わりますし、何よりサラリーマン(厚生年金)に比べると、老後にもらえる年金額にもかなりの差があります。「仕事のやりがい」と「安定した収入」をトレードオフしたのが、フリーランスという形態であると言えるのですが、それ以外にも、フリーランスには避けては通れない、もっとも大きなデメリットが存在します。それは、基本的に使われる側なので、『立場が弱い』という事です。

立場が弱い。つまり、「守ってくれる人がいない」…。先ほども書きましたが、フリーランスの人間は、仕事を振ってくれる人がいるから生きていけるわけで、仕事を振ってくれる人がいなければ、即無一文になります。そうなると、必然的に『業界内で仕事を振ってくれる人』を見つけなくてはならないのですが、ここでタチが悪いのが、そんなフリーランスの『弱み』に付け込む人間の存在です。そして残念ながら、弱みに付け込む行為がまかり通ってしまうのが、ラジオ業界の闇深いところです。

でも、本当に権力がある人は、弱みに付け込むようなことはしません。例えば番組の予算を握る放送局のプロデューサーは、番組スタッフの「キャスティング権」を持っているので、ある意味「本物の権力」を持っています。しかし、そういう人達は不思議と権力をふりかざしません。そんなことをするとどうなるのか、経験則として知っているからなのかもしれません。

フリーランスにたかる悪徳ギョーカイ人

そういう行為をするのは、大抵が「自分に権力があると錯覚している、偽の権力を持つ人間」です。ニセモノは、「仕事を持っている」ように見せかけてフリーランスに近づき、仕事をちらつかせ、その対価を求めます…。本当に許せない存在です。ちなみに、このような事を書くと、「タレントに対しても、弱みに付け込むような行為が蔓延しているのでは?」と危惧する方もいるかもしれません。でもラジオ業界に関しては、少なくとも私の周りではあまり見かけません。それは、タレントは事務所に所属している人がほとんどであり、事務所がそういった行為からタレントを守っているからなのだと思います。

でも、立場が弱いフリーランスの人間には、守ってくれる人がいません。何かあっても声をあげる事が出来ないと思われているのです。そして実際に被害に合っても、泣き寝入りする人が多いのが現実です。ニセモノに付け入られるのは自業自得。それが業界の常識だという人もいると思います。果たしてそれでいいのでしょうか…?

放送作家やディレクターなど、ラジオに関わる仕事は、一般人からみると華やかで、人気の職業なのかもしれません。なりたい人も多分沢山いるのだと思います。でも、志望者がたくさんいるからといって、代わりがいるから何をしても許されるというのはおかしいと思います。業界からそういう人が、一日でも早くいなくなる事を願って止みません。

思いがけず、今回は少し厳しめのコラムになってしまいました。これでもかなり柔らかい表現に抑えたつもりですが…乱筆失礼しました。来月は楽しい内容が書けることを願いつつ、今回は筆を置きます。