「できなかったことができるようになったときに人は前向きになれる」 重度障害者が働くロボットカフェが都内にオープン - BLOGOS編集部PR企画
※この記事は2018年11月30日にBLOGOSで公開されたものです
ロボットがコーヒーや紅茶を運ぶ、近未来の世界のようなカフェが11月26日、都内に期間限定でオープンした。
ロボットの名は「OriHime-D」。一見“ペッパー”のようにも見えるこの人型ロボットだが、AIで動くのではなく人間が実際に遠隔で操作し「分身」として動く。
さらに、今回このカフェで働くのはALSなどの難病や身体に重い障害を持つ人たちだ。中には寝たきりの状態で視線を動かしロボットを操作し働くスタッフもいるという。
ロボットの「中の人」たちは、一体どのような人たちなのだろうか?カフェの店頭にフロアリーダーとして立つ、村田望さん(33)に話を聞いた。
自宅から遠隔操作をすることで店頭に「立つ」
「いらっしゃいませ!分身ロボットカフェへようこそ。当店はロボットと人間を区別いたしません」。
オープンしたカフェの名前は「分身ロボットカフェ DAWN ver.β(ドーン バージョン・ベータ)」。東京・虎ノ門の日本財団ビルの一角に、12月の障害者月間に合わせて2週間限定で営業している。
人間の代わりにオーダーを取りに行ったり、商品を席まで運んだりするのは、オリィ研究所(東京都港区)吉藤健太朗代表が開発した身長120センチの分身ロボット「OriHime-D(オリヒメディー)」だ。
オリヒメディーにはカメラ・マイク・スピーカーが搭載されているため会話ができるほか、ドリンクを提供したり、移動も可能だ。たとえ肢体不自由でも目線を動かせば操作ができ、スタッフは自宅から遠隔操作することで店頭に立つという。
「バスのステップを昇りづらくなった」 発症したときは就職活動中だった
今回のカフェでフロアリーダーを務めるのは村田望さん(33)。体の筋肉が動かなくなっていく難病「自己貪食空胞性ミオパチー」を発症したのは大学3年、就職活動中のときだった。
「初めの異変は些細なものでした。バスのステップに昇りづらくなったり、歩いていても何度も転びそうになったり。
就職活動中だったので、リクルートスーツにパンプスでしたが、本当に疲れやすくなっていて。同級生たちが数十社の説明会や面談を受けている中、私は数社受けるだけで精一杯でした」。
身体の不調に違和感を持ちながら臨んだ就職活動だったが、無事にIT企業から内定を得ることができた。だが、階段の昇り降りが難しくなるなど病気は徐々に進行していった。
「いよいよおかしいなと思い、約1年後の大学4年のとき、検査入院をしてやっと病気が判明しました。でも、お医者さんからは『筋肉の病気だけれども、いまある病気の中に当てはまるものがない』と病名は分かりませんでした。
急にわけのわからない病気になってしまったと、どうしたらいいのかわかりませんでしたが、『まずは休養しないと』と、会社の内定を辞退しました」。
それでも、大学卒業後、「働きたい」と思った村田さん。接客業が元々好きということもあり、地元駅前の惣菜店のレジなど立ち仕事が多いアルバイトをしていたというが、外出時に車イスを使い始めると、少しずつ自分がやりたい仕事を選ぶことからは遠ざかっていったという。
「26歳のときに障害者手帳を取得して、障害者枠で仕事を探し始めましたが現実はとても厳しいものでした。接客のような求人はほぼゼロ。庶務作業など事務職がほとんどでした。
なにより、仕事内容よりも企業のオフィスの設備が最優先事項になっていきました。私の場合は車イスなので、多目的トイレがあるということを大前提として探さなければいけませんし、運よくトイレがあったとしても『社内のフロアが狭いから』と断られることもよくありました。
障害者枠雇用枠で働き始めてからも、『やりたいことを主張すると、わがままと思われてしまうんじゃないか』と思い、周囲にもあまり言えませんでした」。
できることが少なくなる中で「寝たきりになっても働けるという希望」
転機となったのは昨年4月。自宅で転倒し右足を骨折したことだった。入院先の病院に偶然、研究所の吉藤代表が訪問したことが縁で9月に同研究所に入社。現在は在宅で代表の秘書として月に60~70時間働いている。
「今回のカフェで働くスタッフは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症したり、事故で頚椎損傷になったりして、人工呼吸器を付けているため寝たきり状態など、身体が不自由になってしまった人たちです。
私もそうですが、事故や病気の発症の前には、何の不自由なく身体を動かしていた人たちも多いんです。
やれることが段々と少なくなっていってしまう中で、できることが増えるというのは本当に希望だと思っています。私自身も、不安がある中で、たとえ寝たきりになっても働けるということに自信を持てることは、病気を前向きに捉えるとても大きな力になりました。
メンバーの方たちには事故で障害を持つ前には、飲食店やカフェで勤務をしていた人たちもいて、応募してくださったときにも『ケガをしてから接客の仕事はもうできないと思っていたけれども、できるんじゃないか』『諦めていたことができるようになるかもしれないと思った』と、すごく期待をしてくださっています。
オリヒメのようなテクノロジーが広まっていくことで、これまで働くことを諦めていた人たちの働き方が広がっていったらいいなと思っています」。
カフェのオープンは亡き親友と描いていた夢だった
オリィ研究所の吉藤健太朗代表は、「このプロジェクトは番田雄太という親友との会話から始まりました」と語る。
「彼は4歳のとき、交通事故に遭い、脊髄損傷で寝たきり状態になりました。唯一動くあごを使い私にコンタクトを取ってくれました。
2013年から私の秘書として開発に携わってくれていましたが、来客があった時、「○○さんがいらっしゃいました」と私に声をかけてくれても、その後は私がお客さんを「どうぞこちらへ」と部屋に案内して、彼がオリヒメ(卓上)で「どうもどうも」と迎え入れるわけです。
もちろん冗談ですが、ある時「どっちが社長だ、コーヒー持って来いよお前!(笑)」とやりとりをしたことがあったんですね。そしたら、「それなら、動く体を作ってよ」と切り返されて。「じゃあ作ってみようか」かというところから移動が可能なオリヒメディーの開発が始まったんです。
残念ながら、彼は昨年9月に亡くなってしまいました。カフェのオープンは2人の夢だったので、彼が亡くなった直後はこの研究を続けるかどうか迷った時期もありましたが、今は再エンジンをかけて取り組んでいます」。
吉藤氏は完璧さを求める「万能主義社会」へ一石を投じたいという。
「例えば、履歴書では“できないこと”を書く欄がありませんよね。万能主義社会では、苦手なことを隠すし、これはできないと言えないんです。
でも、そうした“できる”部分だけを見ると、仕事に関しても雇用する側とされる側でうまくマッチングされないんです。そして、障害者の人にとっても、自分ができないことがあるというのが負い目になってしまいます。
「何でもできなきゃいけない」ではなくて、できない部分があっても良いと。誰かが補ってくれる。代わりに、自分が得意な部分を伸ばしていけば良いと思っています。そしてそれは、これからの多様性の時代において誰にとっても生きやすくなるのではないかと思っています」。
どれだけ失敗ができるかが大切
オリィ研究所は、日本財団と連携して2020年に常設カフェのオープンを目指す。
「今回のカフェは、これまで世界中で誰も成功したことがない挑戦です。今回のカフェの名前にもありますが、“バージョンβ”とついており、あくまで研究の一環であり、実験なんです。だから「お店がオープンしたからみんな来てね」ではなく、『みんなで盛大に実験をやろう』と呼びかけています。
だから失敗すると思うんです。『こんな仕事やってられるか』とストライキを起こされるかもしれないですし、煙が上がって爆発とまではいかなくても、機器が壊れるなんてことは全然あると思うんですね(笑)。そういったことも含めてチャレンジだと思っています。
言い換えると、『どれだけ失敗ができるか』ということが、2020年の常設に向けて大切なステップになると思っています。
一番大切なのは、テクノロジーの問題だけではなく、働いている人たちやお客さんが楽しいかどうかです。楽しくなかったらAIにやらせればいいだけですから。
人はできなかったことができるようになったとき、前向きになれます。
私はロボット研究者でもないですし、福祉機器を作っているつもりもありません。要は『できなかったことをできることに変える』ためのツールをつくることを研究として行っているので、これは福祉ではなくSFなんです。
『寝たきりが働くということは障害者が頑張っているんだ、応援しなきゃ』というのは私は少し気持ち悪いと思っています。寝たきりの人が目だけでロボットを自由自在に操っていれば、『かっこいい』『自分にはできなくてすごい』となると思いますし、そういう人が働くカフェは、AIのロボットが給仕する店よりも、よっぽど楽しいと思っています。
お客さんには今回はそんな体験を楽しんでもらいたいなと思いますし、そこから『働くって何だっけ』『お金って何だっけ』『生きるって何だっけ』といったことを考えてもらうきっかけにしてもらえたらと思っています」。
***日本財団は、日本全国に障害者就労の先進モデルをつくる「はたらくNIPPON!計画」プロジェクトを全国で展開しており、今回のカフェもプロジェクトの一環です。
これまで、家から出ることが困難な重度障害者は障害者就労の対象者とすら考えられてきませんでしたが、今回の試験的な試みによりその考えが変わるかもしれません。日本財団は今後もオリィ研究所と連携して、ロボットを活用した重度障害者の就労支援に取り組んで行く予定です。
「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」
日時:11月26日~12月7日 13:00~17:00 (土日休み)
場所:日本財団ビル1階(東京都港区赤坂1-2-2)
費用:チケット1.000円(毎日12時より当日チケットを会場受付にて販売。完売次第販売終了)
※カフェエリア以外でも、分身ロボット「OriHime」や、視線入力 PC「OriHime eye」が設置され、自由に体験することができます。
はたらくNIPPON!計画
http://hataraku-nippon.jp/
分身ロボットカフェ DAWN ver.β
https://arca-gia.com/lp/cafe/