※この記事は2018年11月16日にBLOGOSで公開されたものです

戦慄(せんりつ)かなの、現在二十歳、アイドル。少年院出身という聞いたことのない経歴を持つ。鑑別所から少年院へ、一線を超えた非行への入り口は母親による育児放棄やネグレクト(虐待)――その状況は映画「誰も知らない」(是枝裕和監督 2004年)さながらであり、それ以上でもあり――が引き鉄だった。


鑑別所→少年院→更生→アイドル

中学時代から「窃盗集団のコミュニティーに属して万引き」、「アマゾンギフトカード詐欺(出会い系サイトで知り合った男性多数から少額のカードをくすねる)」、高校入学後は「JKビジネス(仲間を募り使用済み下着販売の仲介)」などを重ね、16歳から1年8か月間に渡り少年院で過ごす。なお、約2年という期間は少年院ではほぼ満期だという。

出所後、一般の仕事を経て、自ら望んでアイドルの道へ。自身の経歴を明かすことなく2017年に地下アイドルグループの一員としてデビュー。その後、講談社主催のアイドルオーディション「ミスiD2018」に応募。最終審査に残り、そこで少年院入所の経歴をカミングアウト、インパクトを残し急きょ「サバイバル賞」を受賞する。

こうして「少年院あがり」という異色の極北をプロフィールに刻んだ「現役アイドル」が新生し、イベント、インタビュー記事(「東洋経済オンライン」「SPA!」他)、ネット番組(「AbemaPrime」「猫舌SHOWROOM『(吉田)豪の部屋』)などを経て、テレビ地上波に登場した。

先鞭をつけたのは、「アウト×デラックス」。「少年院でちゃんと更生したのに、他のアイドルに水をぶっかけちゃう女」という紹介から、特攻系の衣装を身に纏った戦慄かなのと、マツコ・デラックス、矢部浩之たちとのトークが幕を開ける。
< 2018年10月18日放送「アウト×デラックス」(フジテレビ)より >

戦慄かなの「これ、私的には正義だったんですよ」
矢部浩之「相手が悪かった?」
戦慄「そうそうそう、なんかすっごい偉そうに指図してきたから、水ぶっかけた」
マツコ・デラックス「アハハハハハハ」
矢部「おもしろいね」
戦慄「おんなじグループのリーダーだったの(笑)」
マツコ「えっ、おんなじグループの子に?」
矢部「どういう指図なの? 偉そうなの?」
戦慄「遅刻すんなって言われて」
マツコ「アハハハハハハ」
矢部「アウト~ッ!」
マツコ「反省してませんよ~!」
戦慄「でもホントにちょっとしか遅刻してなかったし、それで『もう辞めれば』とかそこまで言われたから、おまえが辞めなーって」
マツコ「アハハハハハハ」
山里「超アウト、超アウトじゃん!」
戦慄「でも、更生はちゃんとしてる」
マツコ「更生はちゃんとしてる(笑)」
少年院あがりのアイドル――という、どこかの誰かが創作した幻想ではない実在が「更生はちゃんとしてる」と言い放つ。マンガでもドラマでもゲームでもコントでもないリアルがマスメディアの中で、いち芸能人として成立している。その現実に撃ち抜かれた。

自称「地元のワル」とはレベルが違う

なんてったって少年院あがりのアイドルなのだ。地元の不良だったとかワルだったとか、尺度の曖昧な風聞をまとった過去の誰彼たちとは、明らかにレベルが違うのだ。いやはや、すごい時代だ。

戦慄かなの――という、フィクションのようなノンフィクションが放つ言葉は、笑えて笑えなくて、笑えなくて笑える。まるで高い塀の上で片足立ちして、あちらに落ちればシリアスで笑えない、こちらに落ちればもはや笑うしかない、そんな危うい二択を突きつけてくる。

ルックスはベビーフェイスだ。他のアイドルグループや若手女優にも同系統の顔がいるし、アイドルとして十二分な顔立ち。だけど、彼女がまとっている、他のアイドルとは一線を画す違和感を辿るとすれば、眼だ。外界に対して遮光フィルターをかけているような眼をしている。それは闇夜の森で成体化した生き物のそれを思わせる。

なぜそんな眼を? …これまでにさんざん見なくていいものを見てきたから、なんていうありがちな類推も的外れではない気がする。この「眼」が、彼女のコトバに微かな重みをもたらすのだ。

若さの只中にいる女子の特権のような、浮きあがって当然のコトバ。それらが浮かずに聞く者の耳に貼り付くのは、彼女のこの眼が緊密に作用している(と、思う)。

そうして放たれる、笑えて笑えないコトバ、笑えなくて笑えるコトバは、瞬々に反発しながら爆ぜる。「アウト×デラックス」で、まさにそういう場面のひとつとなったのが以下のやりとりだった。
< 2018年10月18日放送「アウト×デラックス」(フジテレビ)より >

マツコ「いくつになるの?」(略)
戦慄「あさって二十歳になるの。(略)二十歳になったら、保護観察とれるよ!」
マツコ「・・・・・・・」
矢部「おめでとう(略)いや、誕生日よりそっちのほうがおめでたい。大人やもんな」
戦慄「そうそう」
マツコ「・・・アハハハハハハ」
山里「今まで聞いた誕生日トークで一番面白い!」
マツコ「アハハハハハハ」
戦慄による「二十歳になったら、保護観察とれるよ!」で、マツコ・デラックスも矢部浩之も誰も彼もコンマ何秒か時が止まり、その真空を裂くような爆笑に振れた。

戦慄かなのだから言えるコトバ。彼女しか言えない、他の誰にも盗まれない、IDが固く紐づいたコトバ。その威力たるや…。驚笑だ。

少年院カミングアウトは育児放棄をなくすため

ちなみに、当の戦慄自身は、このセンセーショナルなキャラクターを平たく俯瞰している。
< 2018年7月26日放送 「Abema Prime」(AbemaTV)より >

戦慄かなの「少年院に入っていたことを明かしたのは、育児放棄のことをやりたかったから。アイドルがいきなりそういうこと言ってもうさんくさいから、まず自分の過去を公表した。別に女子少年院アイドルとして売り出したいわけではないし、過去とアイドルは切り離したい」
とはいえど、彼女が持つ過去は切り離しようなく、ついてくるだろう。少年院を出所し、保護観察が取れて、「更生はちゃんとしてる」のだということを踏まえた上で、

・今年9月に始動したアイドルグループ「ZOC(ゾック)」の一人として
・実の妹、頓知気さきな――えっ、妹の名は頓智気!?――との姉妹ユニット「femme fatale」として
・法学部で学ぶ大学生として
・育児放棄や児童虐待に関するWebサイト「bae (ベイ)」の運営代表として

彼女の「更なる生きざま」と当て字する「更生」が現在進行形だ。同時代の突端の既視感のない「少年院あがりのアイドル」が、ここから何処まで遠くへ行くのか。シリアスを受け止める準備は心もとないが、驚笑するスタンバイだけは万端だ。

目指せ、Mステ、徹子の部屋、あれこれあれこれあれこれからの、紅白、紅白、紅白…。