2人きりで食事は性的合意!?「女性のOKサインを見逃すな」のウソ - 田野幸伸

写真拡大

※この記事は2018年10月31日にBLOGOSで公開されたものです

多種多様な社会課題の解決策を議論した「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2018」。その中で行われたタレントで元AV女優の麻美ゆま氏、産婦人科医の宋美玄(そんみひょん)氏、泌尿器科専門医の福元和彦氏、株式会社TENGAヘルスケア取締役の佐藤雅信氏、国際基督教大学・公共政策専攻の福田和子氏による「私たちは性のはなしを知らない」。4回に渡るレポートも今回がラスト。社会問題にもなっている「性的合意」について、熱い議論が交わされた。

レイプもののAV撮影は「同意の上」

福田:最後の話題にいきたいんですけれども、最後は「性的同意」について。

最近、この言葉がよく聞かれるかなと思うんですが、これはお互いに「いいよ」という了承があって、性行為をするという、その同意がすごく大切だという話です。

けれども、結構AVの中とかだと、「嫌だ、嫌だ」から、結果はいい感じになった、いわゆるレイプというようなくくりとかがあったりすると思うんですけれども、実際の撮影現場ではどういうふうに動いているんですか?

麻美:現場ではまず作品を撮る前に必ず監督さんと内容を確認して、そこに事務所の方がいたりとか、本当に自分が同意をした上で撮影に挑んだりはもちろんしています。

なので、知らない間にそういうふうになっちゃったとかはもちろんないですし、本当に実際にレイプとか、そういう性犯罪がなくなるためにAV女優が代表をしてやっているというか、あくまで見て楽しんでもらえるような作品づくりを心掛けてはいるので、本当に同意の上でしているというところではあったりします。

「濡れてるからOK」は大きな間違い

福田:AVの中とかだと、すごく嫌がっているけれども、「膣は濡れているからオッケーではないか」という文脈も結構あるとは思うんですけれども、その辺は宋先生とゆまさんはどんな感じですか?

麻美:例えば、作品でずっと嫌がったまま入れずに終わったら、作品としてもちろん成り立たないわけじゃないですか。だから、そこは本当に100パーセント演技といいますか、「すごく嫌がっているのに濡れてきたね」というのはもちろんローションも使ったりしますし、男性はそれを見て、女性が嫌がれば嫌がるほど喜ぶ方もいる、間違ったこともあったりするかもしれないですが、それも女優は体を張ってそういう作品に挑んでいるという現状ではあります。

宋 :実際のレイプ事件なんかでも、最終的に濡れていたから、おまえは同意したんだろうみたいなことがあって、日本の裁判は本当にひどいんですよね。

福田:結構あったりしました。

麻美:結局のところ濡れることは傷付けないように体を守ることではないですか。だから、例えば、嫌がっていても、体を守るために必然的に出てくるものということで合ってますか?

宋 :そうなんです。なので、物理的な反応として出てくるけれども、別にそれが感じているとか、合意しているとかではないのと、逆に、セックスに気持ちは乗っているんだけれども、今日は全然濡れてないというときもあるので、「今日はおまえ、全然やる気ないな」、「そういうわけでもないんだけれど…」みたいな感じで、濡れる=感じる=同意ではないし、逆も成り立たないので、その辺はちょっと理解していただきたいです。

麻美:私自身、今回、性的同意というトピックが出て、すごく難しいトピックだなと思って、自分なりに調べたりしたんですけれども、アメリカやイギリスなどの海外では大学などでオリエンテーションとして性的合意を教えるということを初めて知ったんです。

確かに日本は遅れていることがあったりして、日本の世の中自体が変わらないと、どうしてもAVが見本になってしまったりとか、それしかないという現状が難しいのかなと思ったりはしたんです。

2人きりで食事に行くのは「性的合意あり」だと思う→11%

宋 :今年に起こった事件を思い返すだけでも、例えば財務省の人とマスコミの人が2人で食事に行って、セクハラを受けた。ただ、2人で食事に行く時点でそんなのはされて当たり前だろうとか、

例えば、集団レイプ事件とかでも、相手の家に行ったのではないかとか、お酒を飲んでただろうとか言って、さっき話しかけた日本のレイプの裁判なんかも、今は違っているのかもしれないですけれども、おまえはもっと抵抗できただろう、だからこれはレイプではない、途中で行為した、こういうふうにレイプをされましたみたいなことを自分で再現しないといけなかったりとか、そういう国なので。

このグラフは私が出演した去年の『あさイチ(NHK)』で、びっくりしたんですよ。これは性的にセックスをオッケーしたと思われても仕方がないと思うものの、一般の方へのアンケートなのですけれども、2人で食事をしただけで日本では11%の人が、おまえは飯を食いにいったんだから、やられても当たり前だろうと思っているわけです。

福田:ちょっと待ってみたいな感じですよね。

宋 :意味が分からない。

福田:意味が分からない。

宋 :車に乗るということも、「おまえは車に乗ったのではないか」と、なりかねないと思ってます。

麻美:怖いですよね。そう思いながら、ご飯を食べてたり、車に乗ってるっていうことですよね?

宋 :こいつは食事に応じたぞ、みたいなね。

麻美:女性がどうしてそこまで下に見られなきゃいけないんだろうっていうのがすごく嫌だと思います。

宋 :そう。すべては女にスキがあったから、みたいな。

「女性のOKサインを見逃すな!」のウソ

福元:これって話が尽きなくて、いろいろな雑誌でも「どこがオッケーサインですか」みたいなのがありますけど、そんなの「ない」じゃないですか。

麻美:よく聞かれます。どうやったら本当にオッケーサインなのですか、みたいな質問を。

福元:終電を逃したら?

麻美:一番はコミュニケーションの問題なのかなと思うんですよ。勝手にどっちかがそう思ってたとか、そういうことだったりするわけではないですか。ちゃんとコミュニケーションをとった上での合意というのがどうしても必要になってくるということですよね。

福田:性犯罪の現場とかだと、心理学的に見ると、本当に嫌なことが起きたときって、感情をシャットダウンしちゃって、ある意味、もはや反応ができない。必死に抵抗とかのレベルではない状況におちいったりもするので、そういうこともちゃんと知っておくことが大事かと思います。

宋 :中にはAVを見すぎて、レイプはセックスのジャンルの一つだと思っている人もいるというアンケート調査もあるぐらいなので。

麻美:AV業界もいろいろ必死なわけです。いろいろなジャンルを出さなくてはいけないとかはあるんですけれども、本当にいろいろな人がいるからこそ楽しめるように作られているだけであって、それを現実に求めるというのは本当に駄目ですよね。

宋 :これも男性サイドはそういうふうに思っているかもしれないけれども、これがもちろん性犯罪での被害者は女性だけではなく、男性も被害に遭いませんか?

福元:もちろん。

宋 :痴漢に遭った友達の話を聞いていたら、1人は女性にすごく触られて、1人は男性にすごく触られて、そういう目に1回遭うと、痴漢は重罪に値すると言ってるんですけれども、誰しもが人間だったら、異性愛、同性愛、関係なくそういう同意、コンセンサスがないと、あなたがいつ襲われても、スキがあったで済まされるということですよね。

福元:日常生活でそのリスクはいくらでもありますから、特に東京とかの満員電車だったら分からないです。そこで性的同意があったかないかなども、自分がその身にならないと分からないのです。

宋 :身にならなくても想像できるようにしてほしいです。

福元:そうですね。

福田:逆に同意するには、自分が何を嫌で、何がいいのかというのを、そもそもちゃんと意識を持ってないと、イエス、ノーの判断もすごく難しいのかなと。なんとなくイエスと言っちゃったとかになったりする。でも、日ごろから自覚的になるというのは結構大事なことなのではないかと思うんです。

パートナー以外との「性的合意」が前提になっていないか

宋 :よくハニートラップだとか、性犯罪の話になると、加害者とされている人を擁護する意見が出てくると思うんですけれども、それを見ておかしいと思うのって、みんなが、とりあえず信頼しあっているパートナー以外とセックスすることをものすごく想定していますよね。

ワンナイトラブとか、職場の人とかと成り行きで、「おまえも同意しただろう?」って、付き合ってもないのにセックスをするという発想がない。それで、文句を言ったらハニートラップとか、もっとちゃんとパートナーとしてお付き合いをしてからするものだろうと思うんです。そういうナンパしてすぐセックスとかいうものを擁護する文化自体が性的同意を薄めているのではないかと。

福元:この前提には夫婦間での、パートナーとの性行為の同意というのがあるはずなので、そこをまず議論して、ワンナイトのためのこういう議論とはまた違いますよね。

宋 :お付き合いしてから、今晩というか、今日は同意するかどうか、そういうことだと思っていたんですけれども。

福元:そういうコミュニケーションですよね。

福田:逆に、パートナー間とか夫婦間だから我慢しなきゃいけないとかじゃなくて、そこの中でも実は同意が必要というのはすごく大事なことなのではないかと思うんですけれども。私は嫌なときしか、「嫌」と言わない。嫌と言うけれども、実はいいし、来てほしいけれども、嫌だと建前で言うのはやめています。

宋 :「嫌よ、嫌よも好きのうち」というのはあんまりしない?

福田:「もう…ちょっと♡」みたいな感じではやったりしてるんですけれども、福元先生は具体的に?

夫婦間の「性的合意」をカジュアルに

福元:僕はこの仕事をしだして、いろいろな人と性の話をするんですけれども、今、TENGAがLEDライトというのをつくったんです。これはピカッと光るんです。

麻美:イエスノーまくらと同じということですか?

福元:ええ。僕はこれをおしゃれとして普通にイベントに持っていたんですけれども、その後、来てたお客さんが「先生、ありがとうございました」と言って、これで奥さんと性的同意というか、そのコミュニケーションをとれるようになりましたと。もうイエスノーまくらです。だから、奥さんがこれをつけてたら今日は大丈夫、いいですよという感じです。

宋 :ライトをつけても、つけても、来られなかったらちょっと寂しいですね。

麻美:見て見ぬふりみたいな。

福元:でも、そういうコミュニケーションをとれているんだったら、全然大丈夫だなとは思います。

福田:あと、カレンダーとかも。

福元:そうです。これは僕のことで申し訳ないんですけれども、僕は医者で東京に来たりとか、ちょっとバタバタしたりするので、なかなか家で寝るということがなかったりとか、当直に行ったりとかもあるので、2人でセックスする時間がなかなかなかったりして1回怒られたんです。「あなた、セックスの専門家なのに、あまり家でヤらないとはどういうことだ」と。

「すいません」って言って、そこから、今スマホのアプリで共有カレンダーをつくって、生理が来た日をチェックすると。ここは家にいるから絶対、絶対というか、やってもいいし、やらなくてもいいんですけれども、性的同意がある日というのを一応つくって。

宋 :そんな先まで予定をしているなんてさすが専門家はすごい。

麻美:予定をしているというのはすごいです。

福元:僕がセックスレスになったら示しが付かないので、一応、そういうことはしています。