風疹対策を最も必要としているのは誰か - 赤木智弘
※この記事は2018年10月28日にBLOGOSで公開されたものです
首都圏を中心に風疹が流行っている。(*1)
今年の7月下旬から報告数が増えはじめ、最近は毎週100人を超える報告数が継続している。(*2)
風疹と言うと「子供の病気」という印象が強いが、今回の流行は40代の男性に多いそうだ。
理由としては老人は子供のときに風疹にかかる子供が多く、その時点で抗体が作られた。また逆に若い人たちはワクチンの2回接種が制度化されたことにより、抗体をもっている人が多い。
ところが、女性は1962年4月2日生まれ以降から集団接種などの機会があった一方で、1979年4月2日生まれより前に生まれた男性は、ワクチン接種が制度化されておらず、風疹への抗体を持たない人が少なくないという。
まさに今回、自然感染せず、かつワクチン接種の機会もなかった年代の男性が風疹ウィルスを広める要因になってしまっているのである。
国立感染症研究所感染症疫学センターの資料(*2)でも30~50代の男性に対して、早めのワクチン接種を勧めている。
さて、かく言う僕も1972年生まれなので、ワクチンを接種していない。また、子供の頃に風疹にかかったかどうかも覚えていない。
なので抗体検査くらいは受けたいと思って、自分の住んでいる北区の助成制度を調べたのだが、残念なことに僕は自治体の助成を受けられないようである。(*3)
北区では「妊娠を希望する女性」「妊娠を希望する女性と同居している人」「妊婦と同居している人」にしか、助成をしていないという。僕はそのどの条件にも当てはまらない。
確かに風疹で最も心配されるのは、妊娠した女性が風疹にかかり、子供が先天性風疹症候群をもって生まれてくることである。しかし、女性に対しては昔から風疹ワクチンの接種が進んでおり、今回の流行においても、女性の報告数は男性と比べてずっと少ない。
つまり今、本当に抗体検査やワクチンが必要なのは、30~50代の男性なのである。にもかかわらず、どうして助成を積極的に行わないのだろうか?
多分、行政は「母体に抗体があれば問題はない」と考えているのではないかと思う。しかし人間の体に絶対はない。ワクチンを接種しても、なかなか抗体ができない女性もいる。そうした女性やその子供を守るためには、国民のより多くが、抗体を持っていることが重要になってくる。
また、インバウンド需要などに頼っている日本であるから、世界からの目も気にする必要がある。
アメリカの疾病対策センターでは、妊娠中の女性に対して日本への渡航を自粛するように勧告した。(*4)
現在、風疹の流行を理由にした渡航自粛勧告はアメリカだけのようだが、今後の状況によっては他の国も追随してくる可能性もある。
東京都では、抗体検査と予防接種への助成対象を拡大したと発表したが、拡大の対象はやはり妊婦の同居者のみであった。(*5)
僕が住んでいる北区も同じであるが、事態をちゃんと把握していないとしか思いようがない、残念な対応である。
その一方で、足立区では11月から19歳以上の全区民に対して風疹抗体検査の機会を設け、抗体価が低い人には予防接種の半額助成を始めるそうである。足立区の人たちはぜひ有効に活用して欲しい。(*6)
実は2013年頃にも風疹が流行した。
このときには45名の先天性風疹症候群が報告された。
国立感染症研究所の病原微生物検出情報では「20~40代の男性を中心とした年齢層における抗体陰性者をなくすためにワクチン接種を推奨すべきである」と提言している。(*7)
それと同時に「社会生活を営む以上、近くに妊娠する可能性のある年代の女性が必ずいるので、妊娠予定の有無によらず社会活動をしている構成員全員が風疹ワクチン接種などにより免疫を保有するべきである」と妊娠可能性のある女性と同居しているかしていないかにこだわらない、男性に対する幅広いワクチン接種を提言しているのである。
もし、この提言を行政がしっかりと受け取り、この当時から1979年4月2日生まれより前に生まれた男性を中心にした抗体検査とワクチン接種を進めていれば、今回の風疹流行の規模も小さかったのではないか。
にもかかわらず、まだ「妊婦の周辺の男性だけにワクチンを接種しておけばいい」と、たかをくくった自治体が多いのは非常に残念である。
僕自身にとって、風疹は脅威のある病気ではないが、自分とは関係ない無関係な子供とはいえ、危害のリスクを負っているのも気分のいいものではない。
助成制度があれば、自分のお財布に対して気兼ねなく検査を受けられるので、ぜひともそのような機会を作って欲しい。
追記
厚生労働省は2019年度から、抗体検査について30~50歳の男性が無料で受けられる方針を決めている。(*8)
しかしながら、ワクチン接種に対しての助成は、まだ考えられていないようだ。これでは防疫としてあまりに中途半端である。
独身男性だって妊娠を希望する女性と、一切まったく関わらずに生活をするなどということはありえないのだから、防疫をするなら徹底的にお願いしたい。
*1:95%が大人“風疹感染者”異例の事態に(日テレNEWS24)http://www.news24.jp/articles/2018/10/08/07406211.html
*2:緊急風疹情報第41週20181017(国立感染症研究所)https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/181017/rubella181017.pdf
*3:風しん抗体検査・予防接種費用を助成します(東京都北区)https://www.city.kita.tokyo.jp/k-suishin/kosodate/ninshin/yobo.html
*4:米が妊婦の日本への渡航自粛勧告 風疹感染拡大で | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181023/k10011682761000.html
*5:風しん流行を踏まえ、緊急対策を実施(東京都)http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/10/26/04.html
*6:足立区、無料の風疹抗体検査 19歳以上の全区民に(日本経済新聞)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36556260W8A011C1L83000/
*7:産婦人科医からみた2012、2013年の風疹流行の課題(国立感染症研究所)http://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2315-iasr/related-articles/related-articles-425/5773-dj4253.html
*8:風疹の抗体検査、無料に=30~50代男性対象-厚労省(時事ドットコム)https://www.jiji.com/jc/article?k=2018101100733&g=soc