※この記事は2018年09月25日にBLOGOSで公開されたものです


探偵業者が交際している二人を別れさせる「別れさせ工作」。その行為が公序良俗に反するかについて裁判が行われ、大阪地裁は8月29日、「道徳に反していない」と判決を出した。

その実態はどのようなものなのだろうか?依頼するのは元交際相手と復縁したい人や子どもと交際相手を別れさせたい親、夫と浮気相手を別れさせたい妻…など様々なケースがある。

今回は実際に「別れさせ屋」に依頼し、別れた彼氏を取り戻そうとした女性Aさんに話をきいた。

5年半付き合っていた彼氏の浮気が発覚

――まずAさんが元カレとお付き合いしていたときのこと、そして別れるに至った経緯をおしえてください
Aさん「彼は前職の先輩で、わたしが入社してすぐ付き合いはじめ、半年後には同棲していました。大阪で2年ほど一緒に暮らしたあと、彼が東京に転勤になって。それを機にわたしも東京の会社に転職して、東京で3年ほど一緒に暮らしました。

あるとき、それまで何でもオープンだった彼がケータイにロックをかけるようになったり飲み会が増えたりして、様子がおかしいなと思ったんです。それで彼のケータイを見たら、職場の女性との親しげなメールが。彼に『その子と連絡とるのをやめて』と伝えたのですが、それが原因でケンカも増えていき、ついに別れを切り出されました。

別れたあとも彼が転居先を決めるまで1ヶ月半ほど一緒に住んでいたのですが、彼は隠すこともなく彼女と電話をしたりして…。近くで見せつけられるのはとてもつらく、わたしは精神的に追い詰められて、短期間に7kgも痩せてしまいました」

元カレとよりを戻したい…「別れさせ屋」に依頼


――それはつらかったですね…。その後「別れさせ屋」に依頼した経緯をおしえてください
「長く付き合っていたので別れることに納得ができず、やり直したくて"元カレとよりを戻す方法"などをよくネットで検索していました。そんなときに別れさせ屋のページを見つけたんです。存在はテレビなどで知っていて、藁にもすがる思いで連絡しました。

見積もりを数社からとると連絡がきて、どういうプランでどれくらいの費用がかかるのかを伝えられました。その中で問い合わせていた1社から『一度直接会って話を聞きたい』と言われ、事務所に伺うことになりました」

――事務所はどんな雰囲気でしたか?提示された内容もおしえてください
「事務所は新宿の雑居ビルに入っていて、『探偵事務所』と看板が出ていました。 対応してくれたのは話しやすい30代半ばの男性で、現状を説明すると、どんな方法があるかいくつかのパターンを説明されました。

彼の性格や好みにあわせて気に入りそうな工作員の女性を接触させてハニートラップを仕掛ける、そして彼が彼女と一緒にいるところに工作員の女性を登場させて修羅場をつくる…などの方法があるということでした。

しかし彼の場合はもともと浮気性ではないし、新しい彼女に夢中なのでうまくいかないかもということで、彼女のほうに工作員の男性を接触させるという方法をとることになりました。

作戦実行に必要な人員を含めた費用の見積もりは90万円。契約の数日後に一括で支払いました」

まずターゲットの行動パターンを調査、その後に工作員が接触へ

――新しい彼女に男性工作員を接触させるという作戦は、どのように進行されましたか?
「まず彼女の行動パターンを把握する必要があるとして、彼女の普段の行動をまとめた資料や写真、動画などが事務所から送られてきました。

その後に彼女が興味を持ちそうな男性工作員を接触させることになったのですが、『彼女が今日は家から出てこなくて接触できなかった』など、なかなかうまくいかず、本当に接触しようとしているのかよくわかりませんでした。接触しようとした証拠写真などを出してほしいともお願いしたのですが、工作員が一人で行っているので撮影ができず、写真付きでの報告には別途費用が必要だと言われ、信じるしかありませんでした。

うまくいかないまましばらく経った頃、『彼女と接触して連絡先を渡すことに成功した』と報告がありました。そこから関係性をつくっていくのは時間がかかると言われ、進展を待っていました」

まさかの展開…依頼していない「別れさせ屋」からの脅迫


――その後に巻き込まれたトラブルとは?
「実はその頃、見積もりをとったものの結局依頼しなかった別れさせ屋の1社から、電話で『どうなりました?』としつこく連絡がありました。親身に話を聞いてくれたので、つい他社で申し込んだことやうまくいっていないことなどを話したんです。すると『その探偵事務所は怪しいからうちに乗り換えないか』と提案されました。

検討しますね、と言って断っていたのですが、あるとき突然これまでとは全く違う口調で『今まで電話で話した3時間分の相談料を払え』『いつ振り込むんだ』と脅されたんです。着信拒否してもいろんな番号から掛かってきて、留守電に何件も入っている日が続きました。

SNSでわたしの身元を調べられ、会社にも「別れさせ屋を使っているAを出せ」と電話が掛かってきて。SNSで繋がっている数人の知り合いへも、電話や嫌がらせメールなどをされました。ついにはわたしが住んでいたマンションや、実家の住所まで特定されてしまったんです」

警察は守ってくれない…弁護士に相談

――住所まで特定されると、身の危険を感じますよね。警察には相談しなかったのですか?
「警察にも相談したのですが、脅されているというだけでは動いてくれなくて。警察から注意の電話もしてもらったのですが、それでさらに状況が悪化して『警察に言っても無駄だからな』と強く脅迫されるようになったんです。もう収拾がつかない…と追い詰められ、弁護士に相談しました。

結局、30万円ほどで依頼した弁護士に対処してもらい収束しました。脅迫してきた会社は、見積もりの段階から『業務に支障がでるので直接は会えない』と言っていて、やっぱり怪しいところだったんですね。

『金を払ったらもう連絡しないから』と言われていたので、払っちゃおうかと思ったときもありましたが、弁護士さんは『払わなくてよかったよ』と。一度従うと要求がエスカレートしていくようです。本当に助かりました」

「高い授業料を払ったなって思っています」

――解決して本当によかったです…。その後、契約していた探偵事務所のほうは進展がありましたか?
「契約していた探偵事務所に、他の別れさせ屋とトラブルがあって弁護士に対処してもらったと伝えると『同業者や弁護士にうちとの契約について話していますか?』と確認されました。話しましたと伝えると、数日後に『残金を返金するので契約を解除させてほしい』と申し出がありました。理由は明確にはわかりませんが、弁護士と繋がっているということで警戒された印象を受けました。わたしもトラブルで疲れてしまっていたので、25万円を返金してもらい終わりにしました」

――振り返ってみて、どう思いますか?彼への気持ちの変化もおしえてください
「あの頃は精神的に弱っていて、別れさせ屋の人だとしても話を聞いてくれるだけで救われた気がしていました。だけどトラブルに巻き込まれて大変だったからこそ、自分は何をやってるんだろう…って我に返るきっかけになりました。

実は別れて1年くらい経った頃、彼に借金があることがわかったんです。結局それがきっかけで、徐々に気持ちも冷めていきました。今は彼への未練も全くなくなって、高い授業料を払ったなって思っています」


探偵や調査の業界団体「日本調査業協会」では、正会員業者に対して「別れさせ工作」のような案件を受けないよう指導しているという。

契約の内容、依頼先の実態によっては、法律や倫理に反する場合も想定され、依頼者自身も罪に問われる可能性がある「別れさせ工作」。安易に依頼すれば、Aさんのように思わぬトラブルに巻き込まれることもある。

【BLOGOS福岡編集部】