※この記事は2018年09月14日にBLOGOSで公開されたものです

中学校時代に不登校になったのは、サッカー部のLINEグループから外され、乱暴や体罰を受けたことを原因だったとして、埼玉県川口市の栃尾良介さん(仮名、15歳)は「教育を受ける権利を侵害された」として、同市を訴えている。

9月12日、第一回口頭弁論が、さいたま地裁(岡部純子裁判長)で開かれた。市側はこの中で良介さんの訴えを棄却するように求めつつ、「卒業証書を用意してきた。手渡すことができる」と述べた。良介さんは中学を卒業したが、卒業証書を手渡されてない。しかし、原告側は受け取りを拒否した。裁判所で卒業証書を渡そうとする行為に母親は怒りを隠さなかった。

訴状などによると、良介さんは、1年生のときに部の同級生のLINEグループから外され、3学期には部活の練習中に一部の生徒から襟首を後ろからつかまれ、首絞め状態で引きずられ、揺さぶられるなどの暴力を受けた。2年生の2学期には、部員が良介さんの自宅や自転車をスマホで無断で撮影し、LINE上にアップし、中傷した。また1年生から2年生にかけてLINEの中で、部員がなりしまし、からかいや誹謗中傷を受けていた。これらは市のいじめ問題調査委員会もいじめと認定し、不登校との因果関係も認めた。

良介さんが不登校となったのは合計4回。1回目は16年5月9日から12日まで。これは部員からのいじめが原因だった。2回目は学校の不適切な対応と顧問の体罰、いじめの継続によって16年9月14日から17年4月まで続いた。3回目は学校の不適切といじめの継続で17年11月2日から12月17日まで。4回目は同じ理由で、18年1月24日から復帰できないまま卒業を迎えた。卒業証書は渡されていない。

市側の「卒業証書を用意してきた」発言に原告側は怒り、拒否

市側は、訴状に書かれている「川口市教育委員会の不適切な対応」は何を指すのか、また、「故意による違法行為」について、重大事態として対応しなかった期間が長期間であること、体罰による違法行為、中学校の対応などの具体的事実を特定してほしいと求める答弁書を提出している。

口頭弁論で、市側代理人は「客観的事実以外は争う」と主張し、争う姿勢を見せた。また、訴状では、原告が卒業証書を受け取ってないことが記されているためか、「卒業証書を用意してきた。手渡すことができる」と述べた。傍聴席に座っていた母親は、その瞬間、「法廷で卒業証書を渡すって?」と憤り、思わず声を上げた。突然のことだった。

原告本人は欠席したが、原告の母親は、被告側が卒業証書を出して来たことに関して、「とても憤りを感じている。法廷で卒業証書を渡すなんて、どう考えても非常識。事前になんの連絡もなかった」と憤慨していた。

母親によると、卒業式当日の18年3月15日、良介さんは学校不信となり、精神的に不安定になっていた。そのため、母親は卒業式に出席できない旨を学校側に伝えた。そんな中で、同日、学校側は卒業証書を手渡そうと自宅を訪れたが、「この日は帰っていただいた。その後は、卒業証書をどうするのか、と市教委に問い合わせをしたが、回答はありませんでした」(母親)。

その後、18年4月3日。新任の校長が自宅を訪れた。卒業証書を渡そうと持って来た。その際、新任校長は「金庫の中に卒業証書が保管されていました。記念品として渡すはずだったまんじゅうもあり、腐ったまま放置されていました。同じ管理職として憤りを感じている。きちんと謝罪して、卒業証書を渡すのは前任の校長。一度、持ち帰る」と話したというが、その後、連絡が途絶えたという。

市側はプレスリリースを発表 原告側「いたずらに長引かせたりしないように」

市側弁護人は閉廷後、記者の囲みに応じたが、卒業証書を渡そうとしたことについては、「あそこでご覧いただいた通りです」というのみだった。ただ、弁論後、プレスリリースを発表した。

それによると、「原告の主張する個別・具体的な故意・過失行為の構成要件とそれを基礎づける事実(請求原因)が法的に整理されていません」と、答弁書で求釈明をしたことを説明した。また、「当市は、その後に、原告の主張する事実関係の真偽および法的評価、並びに、実際に起きた事実の経緯を明らかにする予定」としている。だが、卒業証書の件には触れていない。

原告代理人は閉廷後、記者の取材に応じた。「被告側は、客観的事実以外は争う、としているが、求釈明は事実にも及んでいる。できる限り、こちらとしては出せるものは出していく。そのため、被告側は、誠意ある対応をして欲しい。母親が苦しみ、原告本人も大人不信になるなど、いじめ被害はまだ継続していると考えている。なんとか解決したいので、いたずらに長引かせたりすることなく、歩み寄って方針を出して欲しい。(卒業証書を手渡そうとするなど)まだこの段階でもチグハグな対応がある。市側は誠意ある対応をして欲しい」と答えた。

次回の口頭弁論は10月31日。