※この記事は2018年09月14日にBLOGOSで公開されたものです

9月6日、北海道胆振地方を震源とする最大震度7の地震が発生した。この地震では41人が亡くなるなど大きな被害が発生し、震災から1週間が過ぎた今なお、避難所に身を寄せて生活している人も多い。

そこで今回は、避難所生活で健康面に配慮すべき点について、熊本地震や西日本豪雨など災害支援の最前線で活動を続ける、熊本赤十字病院 リハビリテーション科副部長の細川浩氏に話を伺った。【取材:BLOGOS編集部 島村優】

避難所ではエコノミークラス症候群が起きやすい

「避難所の生活でまず注意すべきは、エコノミークラス症候群とよばれる「DVT」(深部静脈血栓症)です。熊本地震やこれまでの大災害でもこの症状で亡くなった事例は多く、日本赤十字社医療救護班の避難所保健医療活動の一環としてDVT活動を実施したという経緯があります」と、細川氏は話す。

「エコノミークラス症候群は、足を動かさないこと、それに水分補給が十分でないことで発生しやすくなります。避難所では、ブルーシートの上で雑魚寝するケースが多く、一人あたりの生活空間が狭くなります。また別の問題として、災害急性期は断水や停電が発生しやすく、トイレなどの衛生環境も良い状態とは言えません。

こうした状況下では、動きたいけど動けない、あるいはトイレが衛生的でないために水分摂取を我慢してしまうという人も多く、DVTの発症につながってしまいます」


出典:日本赤十字社熊本健康管理センター

細川氏は、避難中の車中泊についても注意を促している。

「避難所では多くの人が密集した中で、男女の問題や小さな子供の問題、ペットの問題など、様々なストレスを抱えがちです。そのため、他人と関わらなくて済む車中泊を選ぶ人も多いですが、やはり狭い車の中では足を動かさなくなり、エコノミークラス症候群発症のリスクが高まります」

簡単な足の運動と水分補給で防げ

それでは、エコノミークラス症候群を予防するためにはどのような方法があるのだろうか。細川氏によると、大切なのは定期的な運動と水分摂取だという。

「まずは水分をしっかりと摂ること、そして定期的に足の運動を行うことです。歩ける環境であれば少し動いてみたり、その場で足首を上下に動かす運動をしたりするだけでも予防になると考えられています」


出典:日本赤十字社熊本健康管理センター

避難所の生活では、次のような点にも注意すべきとのことだ。

「固い床で雑魚寝を続けていると、褥瘡(じょくそう/床ずれ)を起こしやすくなります。高齢者の中には寝返りを打てない人もいるので、段ボールベッドなどの活用が有効です。段ボールベッドは床に直接寝るよりもまだ起き上がりやすいため、寝たきりを防ぐとともにDVT予防にも効果的です。災害の慢性復興期にかけては、動かない生活を続けることで動けなくなる「生活不活発病」の方もでてきますが、段ボールベッドはその予防の一助にもなります。

また、慣れない環境での長期間にわたる避難生活は、被災者の心に大きな影響を与えることもあります。避難所巡回をしている医療救護団体や保健師さんに相談できるといいですね」

プロフィール

細川 浩(ほそかわ ひろし)
熊本赤十字病院 リハビリテーション科副部長 医師
熊本県災害医療コーディネーター
日本赤十字社災害医療コーディネーター
日本DMAT隊員(統括DMAT)
日本リハビリテーション医学会リハビリテーション科専門医
日本整形外科学会整形外科専門医

九州北部豪雨・熊本地震・西日本豪雨災害など国内の大災害において医療救護活動に従事、特に熊本地震では「熊本地震血栓塞栓症予防KEEPプロジェクト」の一員として予防啓発活動を実施。

イラクでの医療技術指導やH22年パキスタン洪水での国際医療救援経験も持つ。