※この記事は2018年08月29日にBLOGOSで公開されたものです


「東京五輪マラソンのコースを実際に歩いてみたら面白くないですか?」

編集長に提案したのは6月のこと。そのあと東京の気温がグングン上昇し、猛暑を通り過ぎた酷暑の中でコースを歩くことになるとは…。

猛暑の中走るランナーの気持ちを味わってきた


2020年7月24日から始まる東京オリンピック・パラリンピックまで2年を切りました。今年のような酷暑での開催が予想される中、選手、観客が炎天下の中で競技に集中することができるのか。体調面が大きく心配されています。

果たして無事に競技を行うことができるのか、沿道で応援することはできるのか。5月末に発表された東京マラソンのコースがどのぐらい過酷なのか自分の足で確かめてきました。

今回、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が国際陸上競技連盟(IAAF)の承認を得て決定したコースは、新国立競技場をスタートして、市ヶ谷、飯田橋、水道橋、東京駅周辺、浅草雷門、歌舞伎座、新橋、東京タワー、東京、皇居周辺を駆け抜けて新国立競技場に戻ってくるもの。

まずはスタートとゴール地点である新国立競技場にやってきました。

最初にこの撮影をおこなったのはまだ暑さも穏やかだった6月某日。新国立競技場も外から見る分にはまだ大枠しか出来ていないような状況でした。

正確なスタート地点は新国立競技場の中だと思いますが、建設中で中に入ることができないので新国立競技場の前からスタートします。

新国立競技場を出たあとは信濃町へ。


このあたりは緑が多くて気持ちいいのですが、すぐに都会のコンクリートジャングルに放り出されます。

信濃町駅前から四谷方面へ。平坦な道だったので選手も走りやすいだろうなと思いながら沿道をひたすら進みます。沿道の広さに余裕があるので、応援しやすいと思いますが、早めの場所取りが必要になってきそうです。

信濃町から歩くこと15分ぐらいでしょうか。四谷三丁目の交差点に到着。四谷三丁目といえば大手芸能事務所・太田プロダクションがありますね。

外苑東通りと新宿通りがぶつかる四谷三丁目の交差点を新宿通りへ右折。この時点でまだ30分しか歩いていないのですがふくらはぎがパンパン。脚に乳酸がたまっているのが分かります。

続いてのポイントは防衛省や日本大学の本部などがある市ヶ谷。

江戸川橋近辺には合羽坂があるため緩やかな下りのコースとなっています。

合羽坂を抜けると見えてくるのは靖国通りにある防衛省。こちらも沿道が広く駅からのアクセスがいいので応援スポットとして人気となりそうです。

このあたりは東京マラソンのコースと同じで、私もかつて東京マラソンを走った経験がありますが、道幅が広くとても気持ちよかったことを覚えています。

都心部を駆け抜けてやってきたのは東京ドームや後楽園の最寄り駅である水道橋。

東京マラソンのコースは2016年に改定されていますが、改定前、改定後のコースはいずれも飯田橋を右折して西神田へ抜けていますので、水道橋を走るのは東京五輪ならではのコースになっています。

東京ドームに背を向けて、ランナーは東京駅方面に向かうため神保町に向かいます。上の写真にあるガード下のすぐ側に螺旋階段状の歩道橋があり、ここもランナーを見るのにいいスポットです。

下の写真はその歩道橋から撮影しました。時間帯によっては日陰が出来るので観戦しやすそうです。

白山通りと靖国通りがぶつかる神保町交差点を左折して神田方面へ。この交差点も地下鉄の出口が近いので観戦スポットとして多くの人が集まりそうです。

神田須田町へやってきました。この交差点も東京メトロ銀座線・神田駅からすぐのところにあり、駅を出るとドーミーインPREMIUM神田もあります。

このホテルに泊まっていればホテルの窓から世界トップレベルの走りを楽しむことができるかも。

続いては日本のグラウンド・ゼロである日本橋。ここも東京マラソンのコースとしておなじみです。銀座からすぐという立地もあって、東京マラソンを走った時はこの辺りの沿道から送られた声援に背中を押されたことを覚えています。

日本橋から永代通りを抜けて、茅場町、浜町、浅草橋と東京の下町を走ると見えてくるのは外国人観光客で賑わう浅草雷門です。

ここを右に曲がり、例のオブジェでおなじみアサヒビールタワーのある吾妻橋が折返し地点。このあたりで約20キロといったところです。

シドニー五輪の女子マラソンで金メダルに輝いた高橋尚子さんはフルマラソンを2時間21分47秒でゴールしています。このことを考えると、トップランナーは新国立競技場から浅草まで1時間弱で走るわけで、世界トップレベルの選手がいかに速いかが分かります。

浅草を後にしてここからは先ほどのコースを戻ります。日本橋を渡り銀座へ。高級店が軒を連ねる銀座は訪日外国人の観光ルートとしておなじみですが、普段は走ることができない中央通りを走るのは爽快。応援する側も沿道が広いため声援を送りやすいスポットです。

高島屋などのデパートが多いので店内で休憩をしながらマラソン観戦を楽しみたいところですが、マラソンのスタート時間は朝7時。残念ながら銀ブラを楽しみながらというわけにはいかなそう。

銀座の街を抜けると新橋に到着。ガード下を抜けて西新橋方面に向かいます。

駅前で繁華街も近くにあるので、当日はこのカラオケボックスから観戦するのは穴場かもしれません。(上の交差点に面しています)。

西新橋を抜けて日比谷通りを東京タワー方向へ走ると増上寺が見えてきます。ここが42.195キロの折り返しポイントになります。

増上寺手前にある芝公園一丁目の歩道橋も見晴らしが良いので観戦スポットに良さそうです。(当日、規制がかかりそうな気もしますが…)。

歩道橋は都営三田線・御成門A1出口の目の前。眺めは最高です。

増上寺前で折り返すと、いよいよコースは終盤の30キロ辺りになります。

日本橋~神保町まで戻り、内堀通りを抜けて皇居外苑へ。

東京駅を横目に見ながら走ることになります。

二重橋前で折り返し水道橋へ戻り、そこから外堀通り~靖国通りと駆け抜け、四谷四丁目付近の上り坂を越えればゴールの新国立競技場がまっています。終盤にこの上り坂は地味にキツイと思われ、ドラマが生まれるかもしれません。

東京の観光名所を世界にPRするコース設計


今回のコースはどうしてこのようなルートに決まったのか。調べたところ、実は2020年東京五輪のマラソンコースはこれまでの五輪に比べて大きな違いがあることが分かりました。それはコースが広範囲に及んでいることです。

例えば、2012年ロンドン五輪、2016年リオ五輪は集客面も考えて広い範囲を巡るのではなく同じコースをグルグルと走る周回コースでした。しかし東京五輪は先ほどご紹介したように日本の観光名所をこれでもかというほど巡っています。

2018年6月1日付けの日刊スポーツは、シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんの「選手にとってもコースに飽きが来ない。気分を変えて走ることができる」というコメントを紹介しています。

実際に巡ってみると分かりますが、緑豊かな神宮外苑の中に佇む新国立競技場をスタートして、近代的なビルが立ち並ぶ都会、風情のある町並みの浅草、高級感溢れる銀座、東京のシンボルである東京タワーなど、様々な東京の表情は観ていて飽きることはありません。

東京の魅力が凝縮されたコースが世界中の視聴者に映し出されるということを考えると、日本を観光地としてPRするには最適でしょう。

とにかく暑い東京の夏


とはいえ、日本が最も暑い真夏に開催される2020年東京五輪。ニュースでも心配されているように暑さ対策は大丈夫なのでしょうか。実際にコースを巡ってみた私は、東京の暑さを身をもってイヤというほど感じました。

アスファルトの照り返しもありアツい。とにかくアツい。6月に始まった取材も気がつけば酷暑の8月に突入。早く取材をしなかった自分に後悔しながらも、実際の五輪と同じような気温の中取材を出来たのは幸いでした。

ランナーの健康面が心配されていて男女のマラソンは競技の開始時間が午前7時30分から7時になったというニュースも大きく報じられました。

たかだか30分早めるだけで大丈夫なのかと心配になってしまいますが、大会組織委員会はランナーの暑さ対策として、遮熱性の路面舗装を進めています。

遮熱性の路面舗装には遮熱性と保水性の2種類があります。遮熱性は太陽光が発する赤外線を路面で反射させることで温度の上昇を抑制するというもの。

一方、保水性の舗装は水が蒸発する際の気化熱を利用して路面の温度を下げるそうです。温度の下げ方は違いますが、どちらも10度近く温度を抑えることができるといいます。

建設局の資料をみると、2020年までにマラソンコースを含む都道、約136キロに遮熱性もしくは保水性の舗装を施す計画。2017年2月14日付けの日本経済新聞によれば2016年3月時点で約100キロが舗装済みで年間10キロずつ舗装を進めるということなので、予定通り進めば暑さの緩和が期待できそうです。

舗装工事の総事業費は2017~19年度で約7億6000万円を見込んでいて、国や都の補助でほぼ全額をまかなう予定だそうです。

舗装工事による暑さの緩和は期待出来そうですが、今年の暑さを考えると長時間、外で応援するのは難しいように思います。

ただ、歩いていて気がついたのですが、東京は地上にも地下にも鉄道網が張り巡らされているので、コースの要所要所が駅から近いということがあります。神田須田町、二重橋前、増上寺、日本橋、水道橋、神保町など、コースが駅のすぐそばを走っているため、ずっと沿道で応援するのもいいですが、地下鉄で移動しながら応援をすれば地上よりは涼しく観戦を楽しめるのではないでしょうか。

7月に五輪競技チケットの価格帯が発表されましたが、マラソンは2500円~6000円と人気競技にしては比較的お手頃価格。ただこれはスタート・ゴールである新国立競技場で応援する場合で、沿道で応援する場合は無料。

同じ陸上競技の競歩は二重橋前をスタート・ゴールとして皇居外苑を20キロ もしくは50キロをグルグルと歩く周回コースです。公共の道を利用しているということでチケットは無料となっています。

2020年に迫った東京五輪。猛暑対策は万全というわけではありませんが、このような技術を含めて東京の街の魅力を世界に発信できればいいなと思います。観戦を考えている方は暑さ対策をお忘れなく。

オフィシャルでタイムラプス動画が公開されています。細かなルートを知りたい方はぜひこちらを御覧ください。