アメリカの金融政策を決めるFOMC終了後、会見するパウエルFRB議長。4日のアメリカ市場では「次回のFOMCでは0.75%の利上げが遠のいた」と大幅上昇したが、5日は急落した(写真:ブルームバーグ)

5月4日は「スター・ウォーズの日」であった 。ほれ、シリーズ全体を貫く”May the force be with you.”(フォースが共にあらんことを!)という決めゼリフを、”May the Fourth”(5月4日)に引っ掛けているわけだ。

この5月4日を、多くの市場関係者は文字通り「フォースに祈りを込めて」迎えたのではないだろうか。日本時間では翌5月5日の午前3時、アメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)の結果が公表され、続いてジェローム・パウエル議長の記者会見が行われたからである。

幸い「悪い円安」は免れた?


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FOMCが注目を集めるのは毎度のことだが、とくに今回は同国経済のCPI(消費者物価指数)が前年比で8%台の伸びとなり、失業率は3%台まで低下して労働需給は逼迫している。相当、タカ派的な政策が打ち出されても不思議ではないところだ。

ところが海外に目を転じれば、ウクライナ戦争という地政学リスクがあり、上海のロックダウンは1カ月を超えて国際物流にも影響を及ぼしそうだ。こうなると景気後退のリスクも現実味を帯び始める。

しかるに、日本は5月の大型連休の真っただ中。日本の投資家が不在の間に、株や為替が大きく動いても文句は言えないところ。FOMCの結果次第では、「悪い円安」が止まらなくなる恐れもあった。

ところがFRB(連邦準備制度理事会)は、大人の対応を見せてくれた。5月4日のNYダウが932ドルも上げた、という結果がそれを示している。この日、発表された0.5%の利上げは想定の範囲内。ところが市場は、「次の6月FOMCの利上げは0.75%か?」と身構えていた。2年ぶりに「リアル」で行われた記者会見において、パウエル議長はいくつかの留保をつけつつも、0.75%の利上げをやんわりと否定してみせた。

これで「5月、6月、7月は0.5%ずつの利上げ、9月以降は0.25%ずつで様子を見る」という期待値が出来上がった。8月には政策金利は1.75〜2.0%くらいまで上昇することになるけれども、事前の想定よりはマイルドになっている。もちろんウクライナの戦局や原油価格の動向など、先行き不透明な要素には事欠かない。FRBとしては「データ次第」で、臨機応変にそれらの事態に対応していくほかはない。

重要なのは市場を驚かさないように、日頃から金融政策の考え方を伝えていくことにある。この日の「フォワードガイダンス」は見事にととのって、市場は「FRBは恐れていたほどタカ派ではない」と受け止めた。この日の10年物国債の利回りは3%を割り込み、ドル円レートは、1ドル=130円台から129円台に戻したのであった。

改めて「QT」(量的引き締め)とは何か?

ただしこれで万事めでたし、というわけではない。多くの人の眼が金利にくぎ付けになっている間に、もうひとつの注目点であるQT(量的引き締め=バランスシート縮小)の発表についてはスルーされた感があるからだ。

FRBの総資産は、4月25日時点で8.9兆ドルもある 。5月4日の発表によれば、資産圧縮を当面は月475億ドル、9月以降は月最大950億ドルのペースで減らしていくという。このペース自体は、事前に議事要旨などで伝えられていた通り。その意味ではノー・サプライズであった。しかるに見方を変えれば、FRBは金利を少し手加減したけれども、QTは予定通りタカ派的にやりますよ、と言っていることになる。

思うに市場が警戒すべきは、利上げよりもQTであるはずだ。理由は簡単で、利上げは過去に何度も行われている。前例はたくさんあるし、市場の側にも慣れがある。ところがQTは過去に試されたのが1度だけ。しかも途中でうやむやにされている。そして今回のQTにおいては、FRBの総資産は前回の倍の規模に膨れ上がっているのである。

改めて「QTってなんだ?」というそもそものところから振り返ってみよう。

アメリカにおけるQE(量的緩和)政策は、2008年にリーマンショックへの対応として、当時のベン・バーナンキ議長が初めて導入したものだ。

FRBが国債やMBS(住宅担保証券)を購入し、市場に潤沢な資金を供給する。それまでFRBのバランスシートは、せいぜい8000億ドル程度しかなかった。それを3度にわたるQEを実施して、4〜5倍の規模に膨れ上がらせたところで、金融市場はようやく落ち着きをみせた。

とはいえ、非常時の緩和策はどこかで打ち止めにしなければならない。いわゆる「出口政策」というやつだ。2013年5月にバーナンキ議長が、議会証言で「そろそろ資産購入額を減らしますよ」と発言し、それを「テーパリング」という名で呼んだところ、それだけで世界同時株安を招いてしまった。これに懲りて、FRBは時間をかけて金融政策の正常化を準備することになる。

まずはバーナンキ議長が間もなく退任するという2014年1月になって、いよいよテーパリングを開始した。翌月にはジャネット・イエレン議長が就任する。資産の購入量を少しずつ減らしていって、2014年10月にはテーパリングが終了する。とはいえ、FRBの総資産は4.4兆ドルに達していた。そして満期になった債券は新たに買い替えられ、バランスシートはそのままの規模で放置されたのであった。

次なる金融正常化の手段として、利上げが行われたのは2015年の12月からであった。このときの利上げは0.25%で、しかも2度目は2016年12月まで待つ、というゆっくりとしたペースであった。当時のアメリカ経済は今のようなインフレとは無縁であり、むしろ日本型のデフレを警戒していた。だからこそ、出口政策には慎重だったのである。

「エンジンブレーキ」をかけたFRB  

FRBがQTに着手したのは、2017年10月からであった。この年の1月にはドナルド・トランプ大統領が誕生している。そしてトランプ政権は好況下の大減税に打って出て、法人税率を35%から21%に引き下げた。おそらくイエレン議長はこんなふうに考えたのだろう。

「トランプ減税は景気の過熱を招くかもしれない。だったら今こそQTを始める好機」

つまりアメリカ経済にエンジンブレーキを利かせるように、FRBはバランスシート調整を開始したのである。

もっともトランプ大統領は、そんな動きが気に入らなかったと見えて、イエレン議長をわずか1期4年で「御用済み」にしてしまう。そして翌2018年2月に誕生したのが今のパウエル議長であった。

QTの具体策としてFRBが選んだのは、「満期となった資産の再投資を行わない」という時間のかかる手法であった。それでも2019年7月までには約6000億ドル分の資産が減っている。全体の15%ほどに過ぎなかったが、この間に長期金利は上昇し、NY株価はたびたび調整している。特に2018年末の「クリスマス暴落」は、原因不明で不気味な印象を与えたものだ。
FRBは2019年3月からQTの速度を遅らせ、ついで7月には利下げに転じるとともにQTを停止した。1度目のQTは、こんな風にはっきりしない形で終わっている。

そこへ2020年春から、新型コロナ感染症によるパンデミックが全世界を襲った。パウエル議長は再びゼロ金利への回帰を決断し、それと同時にQEを再開した。FRBの総資産は再び急拡大に転じ、ついには今日に至るのである。

あらためて2つのQTを比較してみよう。前回の金融正常化局面は、下記の通り3代のFRB議長に重なる長期のプロセスであった。当時は物価が安定していたから、出口政策に時間をかける余裕があったのだ。ところが今回は、インフレ抑制のために正常化を急がねばならない。なおかつFRBの資産規模は、前回の2倍に膨れ上がっているのである。


QTには前回の経験があまり役に立たない

こうして見ると、これから始まるQTには前回の経験があまり役立たないことに気づくだろう。そもそもQTとは、中央銀行が歴史上はじめて行ったQE(最初に実施したのは2001年3月の日本銀行である)という非伝統的な政策の「後始末」という性格を有する。先例がないだけに、何が起きるかわからない。これはまだ出口政策には程遠い日本銀行にとっても同じことで、とりあえずはFRBの首尾を黙って見ていることしかできない。

今のところ、FRBにさほど迷いはなさそうだ。彼らは「インフレの番人」という中央銀行にとってもっとも重要な責務を果たしつつある。そして実際にアメリカ経済では、40年ぶりの物価上昇が起きている。そのためには利上げも行うし、QTも行う。「ハト」のように見えることがあっても、本質的には「タカ」だと考えなければならない。

”Sell in May.”(5月に売れ)とまでは申し上げないが、以前にも「『FRBは株価を支えてくれる』と考えてはいけない」で述べた通り、くれぐれも「『FRBは株価を支えてくれる』と考えてはいけない」 のである(本編は個々で終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

ここから先はお馴染み競馬コーナーだ。

8日は1年でいちばん難しいG1レースとも言われる、NHKマイルカップ(東京競馬場第11レース、距離1600メートル)が行われる。

この3歳マイル王決定戦は、直近の5年間で1番人気がゼロ勝である。直近10年間で馬連万馬券が4回もあり、3連複が万馬券でなかったのは2回だけだ。

2013年には10番人気のマイネルホウオウが優勝して、3連単で123万円馬券が出ている。いやもう、当てようと考えてはいけない。普段とは違う心構えが必要になるのが、この「NHK参る」なのである。

「NHKマイル=敗者復活戦」と見て、本命を絞る

なぜこれだけ意外な結果が続くのか。力のある馬は皐月賞、桜花賞からクラシック戦線に臨むもの。NHKマイルはむしろ敗者復活戦で、前走で負けた馬が進路を変更して金星を得ることが多いのだ。

昨年の優勝馬、シュネルマイスターは弥生賞ディープインパクト記念を2着に終わって皐月賞をパスし、このレースに焦点を合わせたことが吉と出た。2着のソングラインも、桜花賞15着からの捲土重来組である。一昨年は無印のラウダシオンが優勝し、桜花賞2着のレシステンシアがその次に来ている。

となれば、前走1着の馬は全部切ってしまおう。これだけで予想はずいぶん楽になる。その中で本命は、前走ニュージーランドトロフィー2着のマテンロウオリオンとする。このレースでやけに強いダイワメジャー産駒というのも心強い。

対抗には弥生賞5着のインダストリアを採る。単穴には桜花賞8着のアルーリングウェイ、そして以下、皐月賞10着のダンテスビュー、桜花賞14着のフォラブリューテを狙う。前走G1組は大敗していても、前回と同じ斥量で走れる点が有利に働くのである。

とはいうものの、小心者の筆者としては人気どころのダノンスコーピオンとセリフォスも、いちおう押さえておくことにしたい。頭数は増えてしまうけれども、このレースの場合は当たればかならず大きいはずなので、そこは割り切って手を広げてみたい。「フォースが共にあらんことを!」

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(かんべえ(吉崎 達彦) : 双日総合研究所チーフエコノミスト)