バレーボール「V.LEAGUE DIVISION1 MEN」の強豪・パナソニックパンサーズが、レギュラーラウンド最終戦(4月3日)でウルフドッグス名古屋にセットカウント3−1で勝利し、3枚しかないプレーオフ「ファイナル3」への最後の切符を手にした。

 この日の試合に勝てばプレーオフ、負ければ4位転落という崖っぷちからの生還。この日のVOM(バレー界におけるMVP)は最多得点を記録したベテランの清水邦広だったが、パナソニックがファイナル3に進出できたのは、今年1月から加入した現役大学生、大塚達宣(早稲田大4年)の存在が大きい。


パナソニックをプレーオフに導く活躍をした、現役大学生の大塚

 Vリーグでは年明けから、次年度に入団することが決まっている"内定選手"が出場することが慣例となっている。当然、卒業を控えた最終年度の学生になるが、今回のように4年生以下の大学生(大塚は加入時に3年生)を参加させる例はほとんどない。

 V2男子では、つくばユナイテッドサンガイアが「産官学共同」をスローガンにチームを創設し、筑波大の学生がリーグに参加していたことが記憶に新しい。現在も他のV2のチームで同じような試みが行なわれているものの、V1男子でそれを実現したのは、筆者の記憶ではパナソニックが初だ。

 それゆえ、昨年末に大塚と筑波大3年のエバデダン・ラリーが今シーズンの期間限定でパナソニックに加入することが発表された時、バレー界は騒然となった。さらに、今年1月の「春の高校バレー」で香川の高松工芸のエースとして活躍した210cmのビッグマン、牧大晃(筑波大1年)も大学入学前までプレーすることになったが、その中でも注目すべきは、やはり大塚だ。

 大塚のVリーグデビュー戦は1月8日のFC東京戦。2セットを先取し、迎えた第3セットの中盤でコートに送り出された。ミスはなく、バックアタックも含めて2得点し、守備ではサーブレシーブを3本受けてすべてセッターに返した。

 申し分のないデビューを飾ったが、FC東京と競り合いになった翌日は出番がなかった。その2連戦のように、内定選手や新人選手によくある「点差が離れた時に、試合に慣れさせるための投入」というパターンが続くのかと思われた。

何度もVOMに選出される活躍

 だが、翌週の大分三好ヴァイセアドラー戦からは一変。パナソニックから新型コロナ感染者が出て、チームの中核であるクビアク ミハウもベンチ外となり、大塚が土日の2試合ともスタメンで起用された。

 土曜日の試合は敗れたが、大塚はスパイク16得点、ブロック3得点、サーブでも1得点と得点数はチームトップ。翌日はVOMに選ばれる活躍でチームを勝利に導いた。そこから大塚は、ほぼ毎週のようにVOMを獲得していく。「物珍しさ」はあっという間になくなり、チームの中心選手になった。

 大塚のデビュー戦以降、パナソニックはレギュラーラウンド終了までに17勝しているが、そのうち6試合で大塚がVOMを獲得。規定出場試合数には満たないものの、アタック決定率は55.6%と、外国人選手も含めてトップの数字を残した。

 大塚はパナソニックの下部組織、ジュニアパンサーズの出身だ。パナソニックの本拠地・大阪府枚方市の出身で、ジュニアパンサーズ時代はパナソニックアリーナで行なわれるホームゲームでボールリトリバーを務め、清水らにボールを手渡していたという。

 しかし、パナソニックに加入することを決めたのはその縁だけではなかった。現チームの監督は東京五輪でフランス代表の指揮を執り、金メダルを獲得したティリロラン監督。さらに、世界バレーを連覇したポーランド代表の主将も務めたクビアクもいるため、「世界最高峰レベルの指導、プレーを肌で感じたかった」という思いもあったようだ。

 ともに東京五輪を戦った石川祐希や西田有志、同じ大学生の高橋藍(日本体育大3年)はイタリアのセリエAで、セッターの関田誠大はポーランドでプレーしている。大塚にも海外志向がなかったわけではないが、セカンドキャリアで教職を目指していることもあり、学業や、早稲田大学のチームから離れすぎるのもよくないという考えもあり、国内のパナソニックでのプレーを選んだ。

敵将から「これからが楽しみ」

 大塚はジュニアパンサーズでプレーしたあと、京都の名門・洛南高校に進学し、2019年の春高バレーで優勝してMVPに輝いている。早稲田大でもインカレ連覇に貢献し、東京五輪を経てVリーグに参戦した。ある試合後の会見では、「練習でも試合でも本当にたくさんのことを経験できて、学ぶことがいっぱいなので毎試合が楽しいです」と目を輝かせていた。

 その言葉どおり、大塚は試合を経験するごとに成長している。当初はサーブレシーブも、リベロの永野健が大塚の体の前にきたボールまでカバーしていたが、今では各チームのビッグサーバーに狙われても食らいついている。そして、どんなに劣勢でも楽しそうに笑い、それがチームの雰囲気を盛り上げている。

 大塚の加入前、パナソニックは8勝6敗でプレーオフ圏内の3位以上に入ることはかなり厳しい状況だった。大塚がスタメンで起用されるようになってからも痛い敗戦があったが、3月6日の東レ戦で息を吹き返す。翌週には、昨シーズン覇者のサントリーサンバーズに連勝して望みをつないだ。

 その2戦目を終えたあと、サントリーの山村宏太監督は大塚への賛辞を惜しまなかった。

「本当に彼にやられたな、というのが第一印象。ディフェンス、ブロック、アタックなど、すべての面でこれからが楽しみで、敵チームからすると『嫌だな』というのが率直な感想です。彼の若さは弱点だと思っていたんですが、チームの中心になれる選手ですね。

 今日もクビアク選手よりも本数を打っているし、決定率も高い。それを下げたくて、ムセルスキー選手を前に置きましたが、大塚選手の数字を落とすことができませんでした。特にブロックがついた状態での攻撃は"引き出し"が多いですね。ブロックに当てて飛ばす、リバウンドを取る、選手がいないところに落とすこともできる。そういうプレーに長けたクビアク選手がチームメイトにいますから、いろんな学びがあったのかな」

 パナソニックにはクビアク、清水という力のあるベテランがいるが、さすがに全盛期と比べると力が落ちてきている。そこにフレッシュな大塚が入って、セッターの深津英臣もバランスよくトスを散らせるようになった。それがパナソニックのファイナル3進出につながった。

 3位でプレーオフに進出したパナソニックは、まず4月9日に2位通過のサントリーと対戦する。サントリーに1勝のアドバンテージがあるため、1勝して追いつき、同日の「ゴールデンセット」も勝たなければならない。激戦が予想されるが、勝つ抜くことができたら、翌日には1位通過のウルフドッグス名古屋との対戦が待っている。

頂点への道は険しいが、清水がファイナル3進出を決めたあとにヒーローインタビューで口にした「崖っぷちから這い上がってきたパナソニックは強い」という言葉を証明できるか。チームの救世主となった大塚が、そのカギを握っている。