Akiko Nakamura

デジタル製品を活用するアーティストのインタビュー、アップルのTV CM『Macで、力を解き放つ』に出演された中山晃子さんにお話をうかがいました。

中山晃子さんといえば、液体から個体まで様々な材料を反応させ生きた絵を描くAlive Paintingの技法で知られるアーティスト。国際的な舞台でのライブパフォーマンスのほか、RADWIMPSや上白石萌音といったアーティストの音楽ビデオ、ブランドとのコラボレーションでも活躍しています。

インタビューではMacとの出会いからAlive Paintingの技法について、ミュージックビデオの制作やCM撮影時のエピソードまでおうかがいしました。

―― Macとの出会い

東京造形大学の油絵美術学部を油絵と鉛筆デッサンで受験しまして、それまでは鉛筆や水彩など、基礎的な技法に親しんでいましたが、大学に入ってから、白くて角が丸かったころのMacBookを使い始めました。そこから大学の同級生のダンサーやDJ などいろんな技法を得意とする仲間たちが集まる中で、自然とMacBook を手に取って。

それで iMovieを使って動画の編集したり、写真や絵の具の映像を取り込んで、プロジェクターで投写して新しい技法を模索し始めました。

――Macを選ばれた理由は何だったんでしょうか?

高校の時は Windows のデスクトップで映像の編集をしていましたが、なんでMacだったのかな……かっこよかったからかな?父の影響もあるかもしれません。

直感的に使えるということもあったと思います。パソコンだけれど作業が難しそうではなくて、鉛筆とか紙とかクレヨンとか、そのくらいすぐ手に取れるような、すぐ書きとめられる、すぐ編集できる、そういう直感的というキーワードに引かれて選んだんだと思います。

――いまはどんなMacをお使いなんでしょうか。iPadだとか、組み合わせてお使いの機器もあれば教えてください。

今はCM でも流れているM1 ProチップのMacBook Pro 14インチを使っております。その前から MacBook Air やMac mini、MacBook Pro などを代々使っておりまして、iPadもありますね。iPhoneも。なので、自然とApple製品がだんだんと揃ってきました。

――どんなふうに使い分けされているんでしょうか。

iPad にはお絵かきアプリをいくつか入れています。油絵の具は本来そんなに気軽に持ち出せるものではないのですが、油絵のような絵の具の混ざりかたができるドローイングアプリを iPadに入れて楽しんだり、出先でメモしたり。

あとは会場の下見に行った時などに、その場の写真を iPad で撮って、上に描画する形で展示プランを考えたりとか。そういうメモ帳の代わりに iPad は使っていますね。

MacBook の方はもうメインの仕事場のような感覚で。仕事場にMacがあるというよりも、Macが仕事場という使い方でしょうか。この新しいMacBook Proになってからは、裏でいくつかアプリを開いておくのもストレスがなくなったので、PhotoshopとPremiereを同時に開いて行き来しながら編集したりもストレスが無くなりました。使い勝手が良い作業場として使ってます。

持ち出しやすいのもかなり重要ですね。たとえば以前、スペインでライブパフォーマンスをしている音楽チームの音声をZoomで送ってもらって、私はそれを聴きつつ、カメラの色彩をMacに取り込んでこう味付けをして送って、スペインチームはその色彩から音楽を作るという、遠隔でコラボレーションをしたことがありました。

そのときはコミュニケーションツールでもあり、外部の色彩を取り込むセンサーでもあり、MacBookにはかなり多層的な役割を担ってもらいました。会場は群馬県の中之条という山奥だったので、自分のMacBookだけ持ち込めばそんなこともできたのはありがたかったです。

今年は初心者ながら3D CGにチャレンジを始めました。動画編集や画像編集よりもずっと重い処理が必要なのですけれど、それもある意味直感的というか、レンダリングの待ち時間が圧倒的に減ったことで、このパラメーターをいじるとこうなるのねという原因と結果が素早く分かるのは、集中力が持続するコツだとも思いますし。

そういう意味で、新しいテクノロジーによって、新しい技法に気軽に挑戦できるきっかけをいただいてます。

―― Alive Paintingという技法を始められたきっかけを教えてください。

いわゆる「ライブペインティング」は、絵の具をその場で混ぜあわせながら描いてゆく様子を見てもらって、現場で作り上げる芸術のスタイルだと思うのですが、「まるで生きてる絵みたいだね」という感想をある人にいただいて。

あ、じゃあライブペインティングにAをつけて、生きている絵、Alive Paintingとあらためて名付け、活動をしながらアップデートしている技法です。

構造としては、基本的には真俯瞰でビデオカメラや一眼レフを設置して、その下に手のひらに溜められるくらいの本当に小さなサイズで、液体と色彩のたゆたう様子ですとか、物理現象、振る舞いを観察しながら物語を紡いでゆきます。肉眼でギリギリ見えないぐらいのライブペイントをビデオカメラで撮影して、プロジェクターで投写し、描いてゆくスタイルです。

撮影にはマクロレンズを使いますが、振動もあるので適宜使い分けています。ミュージシャンとご一緒する時などは、特定の周波数によって液体が共振するので、サウンドチェックの時に周波数のチェックもしたりなどしますね。これぐらいの低音だと水にブーンと波紋ができるから、演出の中で最後のトリとして持ってこうか?とか。物理的なセッションがそこで起きたりするのは、Alive Paintingの醍醐味かなと思います。

Alive Paintingだけの場合はビデオカメラを直接プロジェクターに繋ぐのでMacは使わないですが、ソロパフォーマンスの時、たとえば先ほどご覧いただいた中之条のライブでは遠隔にいるミュージシャンとの窓になったり、日本にいながらアメリカのフェスに参加する時などはストリーミング用のソフトを入れておいて、Ableton Liveで映像と同時に配信するという使い方をしてます。

技法としてのバックグラウンドでは、どちらかというと東洋美術史のなかで扱われてるライブペイントの立ち位置とも言えます。墨と水の振る舞いということでは、平安時代に宴で披露された墨流しなども関連しますね。

―― 音楽ビデオをよく担当されてますよね。上白石萌音ちゃんのMV (『From The Seeds』)なんて背景にずっと流れていて。あれはどういう過程で作られるものなんでしょうか

ミュージックビデオは、最近ではD.A.N. 『Fallen Angel』とか、LiSAさんの『明け星』(『鬼滅の刃』無限列車編オープニング)などをお手伝いしました。

萌音さんの時はかなり特殊で。普段は俯瞰で撮っているので、航空写真のように真上から見下ろすかたちになるのですが、あの時は大きなキャンバスを斜めに設置して、絵の具をたくさんスプラッシュ、上から下に絵の具を垂らしてゆきました。

使う絵の具も、曲の中で混ざって欲しい部分と混ざらないでほしい部分があったので、混ざりにくい材質の絵の具をピックアップしました。普段使っている、混ざるか混ざらないかせめぎあっていくような、透明感のある絵の具使いではなく、不透明な絵の具を配置していくような楽しさをエネルギッシュに追求したライブでしたね。

そうそう、萌音さんのMVでは収録の時も会場にいまして、歌っているところのちょっと斜のカメラの邪魔にならない場所から、萌音さんの呼吸のリズムとかお体の動きとか、曲のテンポを感じながら、その場でライブで作っていたものになります。

―― えっ。歌を収録してから素材的に作って組み合わせたわけじゃなくて、ライブの要素があったんですか??

絵の具がわーっと流れるような、インサート的に必要な流動は現場でいくつか撮って、ディレクターさんが組み合わせてくださったんですけど、萌音さんの背景にバーっと上がっていく部分は実際に萌音さんが歌っているのを見ながらその場で描いてプロジェクションしました。いろんなお仕事ができて楽しいです。

―― Alive Paintingでは絵の具のほかに色々な素材が流れているように見えましたが、どんなものを使っているんでしょうか。

芸術祭などに参加する場合はその土地のものを使うこともあります。ある原料が多く採れる場所ではその色材は高貴な色にはなりにくいことや、色材の採れやすさと文化で、その色にどのような意味が結びつくのかなど、文化的な特徴として現れることもあり、大変興味深いです。

たとえば先日、音楽家とともに刀鍛冶の行平が晩年妖刀を打ったとされる国東半島にリサーチに行き、そこで伝説を基にした物語を作って1時間の公演をしたのですが、その時は伝説とはいえ、刀を打ったということは砂鉄が多く採れたのではないか?と。

伝説のあった場所は海岸で砂鉄がとても採りやすくて。砂浜もややグレーの粒が肉眼でも見えるような場所だったので、現地の方のお話もお伺いしながら、コップいっぱいほどの砂鉄を採取しまして、ライブ中に砂鉄で絵を描きました。

ギリシャのレジデンスに行った時には、乾いた砂っぽい岩肌がとても印象的だったので、少し岩をもらってハンマーで叩いて、水の中に入れて、浮いてきたゴミと沈んでるゴミは取り除き、真ん中で対流してる中くらいの粒だけ濾紙で取り出して、膠と混ぜて絵の具にしてみたり。勉強も兼ねて、古来の製法で絵の具を作ったりもしてます。

絵の具は自分で作ることもありますが、既存のものでもアクリル絵の具とか、あとはエアブラシ用にとろっとした状態で売っている塗料なども使います。インクの場合は塗布した時には赤だけど、乾くと緑が出てくるとか、丁寧に作られた画材はイリュージョンが生まれやすいです。絵の具同士の個性が出会った時に物語が動き出すので、それを期待しながら、さまざまな材料を使ってます。

やはりライブペインティングという、作っている過程もお見せする表現方法ですと、色んな手数を増やしてそれを楽しむ醍醐味がありまして。これは失敗なんじゃないか? いや、それを活かそうという心の動き自体が面白くて。Macの場合は処理が早くなったことで、検証実験また検証実験がライブに近い形になって、待ち時間のほとんどない作業ができるので、かなり理想的なリズムで制作を助けていただいてます。

――アナログの、現実の物理法則そのものをアートに昇華されている一方で、対極に見える3D CGにも取り組んでいるのはどういった狙いでしょうか。

そうですね。いろんな形で世界を観察したいとか認識したい、よく見て知りたいという気持ちが動機としてとっても強くあります。大きく集音できるマイクとかビデオカメラというのは、その点で自分の外部の耳や目として機能してくれてるものと思っています。

たとえば小石がどういうふうに今ここにあるのかなって考えると、何の元素であるのか、色彩と形は全部細かい点の集積でできているんだなってことを認識しますが、3D CGの場合だと、質感とか色彩というのは最後の最後に出て来て。

最初に点を作って線を作って、メッシュという網目で形を構成して、その後に遅れてくる形で別の要素が追加されて、最後に光まで作ることができるという、ものが成り立つ順番が現実と違う面白さがあります。

成り立ちが異なる世界のものにも触れることで、現実を他の方法で確かめることができます。そのようにたくさんの視線を持ちたいので、技術を横断することはとても刺激になります。

自分のCGの技術レベルはまだ絵筆よりも自由ではないですけれど、絵筆の情報量の多さを認識できるようになるためには、新たな技法でのビギナー、上手にできない技法はとても有効です。

―― CGも含めてMacを活用してらっしゃるということですが、Macを使い続ける理由ですとか、利点と感じていることはどんなところでしょうか。

大学に入ってからずっとMacで、使い慣れすぎていて難しい質問ですね。以前に使っていた MacBook Proと、いまのM1 ProチップのMacBook Proの比較ですと、やはりバッテリーの持ちはめちゃめちゃ上がっていて驚きましたね。

たとえば外で制作しているときに、バッテリーで心配事が増えて集中力が途切れたりということもありましたから、それが全くないっていうのは嬉しいポイントです。収録のときも電源につなげないまま、日が昇っている時間帯から「もうお腹すいたね」ってときまでバッテリーが保っていたので、充電というものを若干忘れるところがとってもいいですね。

あとは他のApple製品との互換性だと、iPhoneで撮ったものをすぐMacに移して、メールはMacから送ったりとか。Apple製品をいくつか持っていると、たとえば母屋が MacBookで、もしくは他の方にとってはデスクトップで、また別に離れがあって、作業場や秘密基地もあってという。複数の拠点を持ちつつ、中のものは自由に持ち運びできて、広大なスペースになっている感覚はとてもありますね。

わたしのこの技法自体も、もし広大な家や部屋、アトリエがあったら生み出してなかったかもしれません。狭い部屋で、スペースの制限があるけれども大きい世界を感じさせるような作品だったりとか、広い空間に出たい時に、パソコンの中にそういった空間を感じさせてくれる。それを外にも持ち出せるし、電源と繋がっていなくても、より自由な場所に持ってゆくこともできる。移動式の部屋なのか、空間なのか。本当に助かっています。

―― Macでなければできないことってありますか?

うーん、もうメインで使いすぎていて。あ、AirDropはめちゃめちゃ使います。iPhoneで今撮った写真や動画データをその場で送り合う場合、他のどの方法で送るよりも画質が一番いい状態で送れますよね。AirDropがなかったらどうやって送ればいいのかな。ファイル共有サービスなどを一度立ち上げるのは大変です。

共有が早いのもありがたいです。ライブが終わった後に記録映像を受け取るときだとか。30分以上撮影できて映像がきれい、だけど一眼を持ってきていないとなると iPhone になりますが、たとえば友人が撮っていて、ライブ後に落ち合って動画送ってよとなった時に、まあ 15分のデータだからちょっと時間かかるかもだけど、じゃあ飲みながらとその場で AirDropしてもらったりしてます。自分の作業でも友人との間でも、湯水のようにデータをやりとりしてますね。

―― 今回MacのCMに出演された際のエピソードを教えてください。

今回のCMのテーマは、狭いところでもMacがあれば世界に発信できる作業場になりうるということだと思っているのですが、さきほどお話したとおり、私自身が広い空間で育ってたら、おそらくこの小さいものに大きさ広さを感じる思考回路にならなかったと思います。

机の上にいろんな画材ですとか、白い紙をポンと置くだけで、A4の紙でも広大な空間に見えるという、スケールの伸び縮みにとても可能性を感じていて。物理的な大きさじゃなくて、イリュージョンの中で自由に息をすることができる、空間に泳ぎだすことができるということを、学生のころは白い紙のなかに、いまはMacBookにも感じています。

今はスマホで音楽を作ったりする方も多いですし、物理的には手の中に収まるサイズだけれども、ここに広大な空間が広がって、自由に筆を走らせながら、いきいきと創作なりコミュニケーションができる、どんな色彩も体験も――どんな色彩もとは言わないけれども、かなり豊かな色があるパレットがこの中に入っているわけですし。製作しているなかですでにそういった可能性を感じていたものですから、もうオファーが来た時には私の話かな?と思いました。

――撮影時のエピソードなどはありますか?

古民家の一室をアトリエにしていて、 12畳か10 畳ぐらいの部屋で作業しているのですが、撮影はそちらでした。エピソードとしては、CMに登場している動画は事前に準備したものではなくて、撮影中に作ったものっていうのがありますね。

撮影時にディレクターさんですとかいろんな方がいらして、せっかく書き出しが早いとか、編集のレスポンスが早いってことがあるなら、スピードが早く色も展開する映像の方がいいんじゃないか?とか色々なコミュニケーションをする中で、じゃあこれどうかなとか、ちょっと早送りしようとか、ここ切ろうとか、その場で動画の編集をしまして。

CM用に準備したものじゃなくて、ライブ制作の記録でもあったのが良かったところかなと思います。1人でアトリエで作ってる時に、ここはちょっとこうしたらどうかな? 早くしよう、遅くしようとか、逆再生してみようという、最終アウトプットよりもはるか前の、極端な実験をする時間の一幕でしょうか。

―― 最後に、若い世代へのメッセージをいただけますでしょうか。

わたしは今ありがたいことに、フルタイムのプロのアーティストとして絵を描く恩恵に預かっておりますが、学生だったころは、プロになったらあんまり失敗はできないんじゃないか?と思っていました。

でも実際はプロになった後の方が、ずっといろんな実験と失敗があって。一瞬素晴らしいきらめきのある作品が生まれて晴れやかな気持ちになったかと思えば、あららら……っていう少し恥をかくような夜もあり。

作家に限りませんが、成長するに従ってトライアルアンドエラーのエラーの部分に詰まっている栄養がとても豊かだったことに気付くものです。私が学生だった頃は、白いMacBookでのレンダリング時間はとても長かったので、作業できないかわりに考え事をしたり仲間と話す時間をもらえた面もありましたが、いまは性能が上がってレンダリングも短くなって、待ち時間がなくなってきたことで、その分たくさんいろんな実験と失敗ができるようになりました。

Macによって広い空間に漕ぎ出すことができる、その空間の広さを味わいつつ、新しい技術や性能で時間自体も豊かに伸び縮みできるので、その広さと速さを味わいながら、制作することを楽しんで行きましょう!一緒に!というところでしょうか。

――ありがとうございました!

(オンラインのグループインタビューより編集しました)