住宅価格の値上がりが続くアメリカ。アメリカの株式市場はいつ落ち着きを取り戻すのだろうか(写真:ungvar/ PIXTAピクスタ)

アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は1月26日に終了したFOMC(連邦公開市場委員会)で、3月に政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を引き上げ、ゼロ金利を解除する可能性が高いことを示唆した。

年後半にバランスシート縮小、いわゆるQT(量的引き締め)の開始を控えていることを踏まえれば、現時点では4回の利上げが最も現実的と考えられる。だが、足元では年内はFOMC開催ごとに利上げするのではなどといった声も聞かれており、数カ月前には想像もできないほどの金融引き締めが警戒されている。

アメリカ10年金利の上昇はどこで止まるのか

同国の10年金利は昨年末頃まで1.5%を割れて推移していた。だが、1月入り後は金融引き締めに対する警戒から1.8%程度まで上昇し、2%に迫ろうかという勢いだ。そうしたなかで世界の株価は高PER(株価収益率)銘柄を中心に急落。ナスダックは直近高値から10%超下落し調整局面入りし、日経平均株価も一時2万6000円台前半まで沈んだ。

市場でFRBの金融引き締めが嫌気されていることに、疑いの余地はない。世界の投資家が重視するアメリカの10年国債金利、すなわち安全資産の利回り上昇は、リスク性資産である株式の相対的な魅力を低下させ、株価の下落要因となる。

たとえば株式の配当利回り(インカムゲイン)を重視する投資家の場合、株式(S&P500)の配当利回りよりも国債利回りが高い状態にあれば、株式を保有・取得することの正当性は著しく低下する。

現在S&P500採用銘柄の予想配当利回りは1%台半ばで推移している。安全資産の国債から2%の利回りが獲得できるなら、投資家が株式のウェートを落とすことは理にかなっている。

では、この10年国債金利の上昇はどこで止まるのだろうか。

これについて、おおよその目安を把握するには30年金利の水準を起点に考えるのが1つの手だ。一般的に30年といった満期まで時間の長い金利は、2年や3年といった比較的短期間の景気変動よりも中長期的な経済・物価見通しに基づいて取引される。そのため、市場参加者の予想する「経済が正常な状態の金利水準」に近づく。

では中長期的な経済・物価見通しは何に基づいて形成されるかと言えば、それは潜在的な経済成長率やインフレ率などである。それに近い概念として「中立金利」というものがある。これはFRBが四半期に一度、ドットチャートと呼ばれる政策金利見通しを示しており、現在のその水準は2.5%とされている。

過去、30年金利はFRBが示す中立金利に沿って推移してきた。株式市場が楽観的な空気で包まれていた2021年12月に、30年金利は2%以下で推移していたが、1月入り後は2%を明確に超えて推移している。

株価は10年国債金利2%超で底を打つ可能性

では、30年金利が中立金利とされる2.5%程度まで上昇を試すと仮定し、それを基に10年金利を計算してみよう。そうして得られた10年金利の数値は2.0%程度であった(※短期的には10年金利と30年金利の差が一定であると仮定し、過去3カ月間のデータを用いて回帰分析した)。

「30年金利=2.5%、10年金利=2.0%」は多くの投資家が目安としている水準に近いだろう。

逆に言えば、その金利水準に到達するまで株式市場では「金利上昇懸念」が残存し、株式市場への資金流入は限られると考えることができる。「株価はいつ底を打つか?」と聞かれれば、それは「10年金利が2%を超えた時」というのが1つの答えになる。

株式市場がアメリカ金利上昇を警戒しているのは明白だが、それと並行して「リバウンド景気」が一服していることも重要だろう。例えば、株式市場で重要視されるISM製造業景況指数は高水準を維持しているとはいえ、下向きのカーブを描いており、投資家マインド悪化に拍車をかけている。

もちろん、過去数カ月の景況指数低下の背景にサプライチェーン問題による自動車生産の抑制があり、こうした一過性要因によって弱さが誇張されている可能性は否定できない。だがコロナ禍における財需要一服と相まって、景気循環が「冬」に向かっている可能性がある。製造業の景気サイクルが2年程度の波を描いてきたことを踏まえれば、循環的な時機の悪さを意識せざるをえない。

こうした生産サイクルの下向き基調に沿って、景気の先行きを反映する2年債と10年債の金利差(以下、長短金利差)は縮小傾向にある。2年金利がFRBの利上げ観測を反映し1%を超えて上昇しているいっぽう、10年金利は将来の景気後退懸念が意識されていることなどから鈍い上昇に留まっており、金利差は拡大しにくい状況にある。

もし2022年にFRBが4回(ないしはそれ以上)の利上げを実施し、その間、2023年以降の利上げ計画を固持するのであれば、2年金利は今後も上昇を続け、10年金利と逆転する蓋然性は高くなる。長短金利差の逆転が実現すれば、それは景気後退の到来を知らせる「凶兆」となってしまい、株式市場参加者の景気見通しを悲観的な方向に傾けるだろう。過去の経験則に従えば、長短金利差が逆転したその1年半〜2年後に景気後退入りする。

問題は、こうした循環的な景気減速が予想されているにもかかわらず、インフレ沈静化が金融政策運営上の最重要課題になっているため、現時点でFRBが景気に配慮して金融引き締めの手を緩める選択肢を有しないことだ。長短金利差の逆転を防げる条件としては、(1)年央にインフレ圧力が後退し、(2)FRBの利上げ打ち止めが意識され2年金利の上昇が一服することであろう。

2022年に4回超の利上げが意識されている現状、そうした見通しはいかにもナローパス(限定された選択肢)に思えるかもしれない。だが、インフレに直面してタカ派色を強めているクリストファー・ウォラー理事でさえも「インフレ圧力が後退すれば、利上げ計画を見直す」といった趣旨の発言をしていることに鑑みれば、インフレ率が低下した場合、FRBが引き締め計画を修正することも十分に想定される。そうであれば、過度な引き締めが景気後退を招いてしまう、いわゆるオーバーキルの懸念は後退する。その下で長短金利差の縮小は一服し、株式市場参加者の景気見通しは改善するだろう。

インフレは間もなくピークアウトを迎える?

現在進行中の長短金利差の縮小にジェローム・パウエル議長を含むハト派メンバー(ラエル・ブレイナード理事、ニール・カシュカリ総裁、チャールズ・エバンス総裁、メアリー・デイリー総裁など)が耳を傾ける可能性はあるだろう。

FRBが重視する5年先5年BEI(債券市場参加者が予想する5年後におけるその後5年の平均的なインフレ率、例えば現在なら2027〜2032年の予想インフレ率)が2%程度で安定を保っているのは、市場参加者が高インフレは一時的であるとの判断を維持しているからに他ならないが、それにもかかわらずインフレ退治を敢行することに疑問を呈する参加者が登場しても不思議ではない。

以上をまとめると、株式市場参加者が楽観を取り戻すのは、(1)インフレ圧力の低減を示すデータがそろい、(2)FRBが金融引き締めの手を緩める理由がみつかることが条件になろう。

このうち(1)については、過去数カ月、アメリカの企業サーベイで「納期短縮」や「仕入・販売価格の上昇一服」を示す複数のデータが確認されている。それらは3〜6カ月程度遅れて消費者段階の物価に反映される傾向があることに鑑みれば、インフレは間もなくピークアウトを迎え、FRBが金融引き締めを講じるとの警戒は和らぐと期待される。当面はインフレの先行指標に注目したい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)