●final STORE、川崎新社屋内に新装開店

「音楽のまち」として知られる神奈川・川崎市に本拠を構える、日本のオーディオブランド・final。“中高生のお小遣い”でも買える手ごろなイヤホンからマニア向けの高級ヘッドホンまで、多様なオーディオ製品を手がけるfinalの直営店「final STORE」が、新社屋に併設するカタチで1月24日にオープンしました。

finalの新社屋。JR川崎駅から徒歩6分の場所に移転した


final STOREの店内イメージ


finalの本社はこれまでも同じ川崎市内にありましたが、既報の通り、新たにJR川崎駅から徒歩6分の場所に移転。そして、2021年末まで東京・秋葉原の一角に店舗を構えていた「final STORE」を新社屋の4階に移転させて新装開店しました。ここでは自社ブランド「final」と「ag」の製品を実際に試し、気に入ったらその場で購入することもできます。

新しいfinal STOREの所在地は、神奈川県川崎市幸区中幸町4丁目44-1 final本社内4階。JR川崎駅中央西口からは徒歩6分の距離にあり、大型ショッピングモール「ラゾーナ川崎」横の大通りを西へ進んで、ミューザ通りを渡った次の交差点で脇道に入り、しばらくまっすぐ進むと左手に見えてきます。営業時間は13時〜20時(定休日:毎週木曜日)。

JR川崎駅の西口側を出ると、ミューザ川崎(左)や東芝未来科学館の入ったビル(右)が見える


地上階に降りて通りをまっすぐ西へ進む


ミューザ通りを渡った次の交差点で右折


まっすぐ行くと左手にベージュ色のビルが見えてくる


この建物がfinal新社屋。4階に新しいfinal STOREがある


#final_STORE は、本日1月24日(月)13時より営業を開始いたします!これからご来店される方に向けて、JR川崎駅からfinal STOREまでの最短ルートの動画を作りました????川崎駅から徒歩約6分!半分以上は屋根があり、アクセスもしやすい立地です???? pic.twitter.com/BQ2K2txzJP- final STORE (@final_store) January 24, 2022

残念ながら、リニューアルオープンに先立って開催予定だったプレオープンイベントは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために延期となってしまいました。弊誌では今回、同社営業の森圭太郎氏の案内でオープン初日の店内や社屋の中を取材できたので、その様子をお届けします。

なお、finalの公式YouTubeチャンネル「final STORE LIVE!」では現在、「新本社公開SP」と題した番組動画を公開中。さらに、プレオープンイベントに参加できなかった人にストアの新しい展示物を紹介したり、同イベントに申し込んでいた人に宛てて発送されている特別なスイーツを一緒に味わう“試食会”を実施したりする新たな番組をライブ配信しています。



○京町家のような佇まいのエントランス

finalのオーディオ製品は、音質の良さだけでなくモノとしての質感の良さにも定評があり、音にこだわるコアなポータブルオーディオのファンをはじめとする幅広い層から支持を集めています。5,000円前後の手ごろなイヤホンとして「E3000」(2017年発売、直販5,580円)がオススメされているのを、ネットやお店で見かけた人も多いのではないでしょうか。

長らく有線タイプのイヤホンやヘッドホンにこだわってきたfinalブランドですが、2021年にはついに完全ワイヤレスイヤホン「ZE3000」の開発発表を行い、その年の暮れに発売にこぎ着けたことでも注目を集めました。

そんなfinalの新社屋を訪れてみると、1階にはブランド名とロゴをあしらった大きなのれんが掛かっており、パッと見はどこか京町家の建物や、老舗の和菓子屋のよう。いい意味でオーディオメーカーらしくない佇まいで、「いったい何ができたのか?」とのぞきこんでいく近隣の人も多いそうです。

外壁にヘッドホンの写真が大きく設置されていて、オーディオ関連の会社ということが分かる


広々とした1階エントランスには、そこかしこにfinalのイヤホン/ヘッドホンなどが展示され、簡易なショールームになっていました。

実はこの新社屋、川崎の老舗の学習塾の跡地をリフォームしたということで、塾の面影が随所に残っています。建物の中は全体的に壁が多く閉じた構造になっていますが、森氏によれば、オーディオ製品の開発や実験の場としてはそのような閉じた空間になっている方がかえって使いやすいとのこと。

1階エントランスのイメージ


finalのイヤホン/ヘッドホンなどが壁面に展示されていた


来店者向けに「Google Nest Doorbell」が設置されていた。お試しで設置しているそうだが、押さずにそのまま4階へ上がってもいいという


final新社屋のフロアガイド。一般の来場者が入れるのは1階と4階、5階まで


歴代のfinal製品などが飾られていた


まずは、プレオープンイベントが開催されるはずだった5階のホールをのぞいてみます。広々とした空間で、部屋の前方には教壇や黒板も残されており、まさに大教室そのもの。閑散としているように見えますが、final STOREの開店初日は平日だったにもかかわらず、朝から多くのファンが訪れていたとのこと。

5階のホール。イベント開催の準備が整っていた


それぞれの卓上には、finalの完全ワイヤレスイヤホン「ZE3000」(左)や、2月発売予定の学習用イヤホン「STUDY 1」(中央右寄り)、agのASMR用完全ワイヤレスイヤホン「COTSUBU for ASMR」(右奥)が置かれていた


着席した状態で100人程度を収容できる広さで、製品の発表会や試聴会のほか、final製品のユーザーを集めてオフ会のような小規模イベントを開催することも検討しているようです。

続いて、final STOREのある4階へ降りてみます。

●final・agの製品が聞き放題。試作品の飛び入り試聴も!?

○final・agの製品が聞き放題。試作品の飛び入り試聴も!?

新しいfinal STOREでは、開店初日に訪れた数人の来場者が店舗スタッフと談笑したり、思い思いにヘッドホンの試聴をしたりして午後のひとときを過ごしていました。秋葉原にあった店舗よりは奥行きが短いものの、幅が少し広くなり、全体としてはゆったりした空間になっている印象を受けました。

final STOREの入口


新しいfinal STOREの内部。final・ag両ブランドの製品をテーブル席で試聴できる


自分の好みの音にチューニングできるイヤホン「MAKEシリーズ」がお出迎え


現行の有線イヤホン「Eシリーズ」を始め、多様な製品を展示している


finalの最上位イヤホン「A8000」(直販19万8,000円)


過去製品の試作品などの展示も


finalブランドの過去製品「Piano Forte(ピアノフォルテ)」のハウジングを削り出す前の金属の塊もあった


現行の有線イヤホン「Bシリーズ」


agブランドのワイヤレスヘッドホン「WHP01K」。直販9,800円でノイズキャンセリング搭載という、コストパフォーマンスの高さが注目を集めた


「COTSUBU」などagブランドの完全ワイヤレスイヤホンも多数展示されていた


さらに、開発中の製品を試聴できる機会も。ストアにはフラッグシップヘッドホン「D8000」の開発過程のプロトタイプや、現在開発中の「D6000」のプロトタイプが用意され、希望すれば試聴も可能です。

フラッグシップヘッドホン「D8000」の開発過程のプロトタイプ


面白いのがD6000で、最近はあまり見かけなくなった耳かけ式ヘッドホンのような形をしており、内部にD8000の振動板を切ったものを搭載。森氏によると、開放型なのに音が漏れず、それでいて装着していても外の音は聞こえるとのことで、「(サウンドは)部屋の中から突然音が立ち上がる感じ。ワイヤレスになれば夢のような製品」と話していました。

耳かけ式ヘッドホンのような形をした「D6000」のプロトタイプ


開発の現場とストアが同じビルに入っているので、エンジニアが「これ面白いからお客さんに見せちゃおう」といったノリで、飛び入りで試作機を持ち込むこともあるかもしれない、と森氏は話していました。コロナ禍でポータブルオーディオの世界でもリアルの場でのコミュニケーションが減ってきている中ではありますが、ここは実店舗ならではの面白さが味わえそうです。

職人が彫金を施した1点モノのイヤホンの展示も


限定生産イヤホン「SHICHIKU.KANGEN−糸竹管弦−」と同じ模様を入れたイヤホン(左)や、finalのロゴマークを入れたイヤホン(右)も。オーディオ製品なのに、和の雰囲気が漂う


“final STORE名物”のハズレなし「イヤピガチャ」。“20連”回す人が現れることもあるそうだ


サイズとカラーのバリエーションが豊富なイヤーピースが並ぶ


final STOREではオーディオ機器だけでなく、オリジナルスイーツやお酒なども用意。自分だけの楽しみに浸り、リフレッシュの時間に充てるポータブルオーディオマニアに向けたセレクトアイテムとして展開していきます。取材時はクラフトビールの「UNITE」と「UN」(各900円)を販売していました。

クラフトビールの「UNITE」と「UN」(各900円)


プレオープンイベントの来場者のために用意していたfinalオリジナルスイーツ「ピアノフォルテ ショコラ」の姿も。finalのイヤホン事業の黎明期を支えたという「Piano Forte」をイメージした3種のショコラで、「スパイスとチョコレートがマリアージュする絶妙なバランスと、時間の経過につれてダイナミックに変化する香りを楽しめる」とのこと。

finalオリジナルスイーツ「ピアノフォルテ ショコラ」


ほかにも、趣味性の高いアイテムをこだわりのある人向けに取り扱っていくようで、取材時にはイヤホン置き場としても使えるスウェーデン発の小さな食器などが並べられていました。これらの価格は、高いものではミドルクラスのオーディオプレーヤー程度(5〜10万円)にもなるそうです。

イヤホンを置く用途にも使えるという、スウェーデン発の小さな食器


final STOREの一角は、セレクトショップのような趣になっていた


final STOREを出てすぐの場所には、秋葉原の店舗で置かれていた防音室をそのまま移設。1時間の予約制で、開放型ヘッドホン「D8000」などが楽しめるスペースとなっています。今回訪れたときはまだ準備中でしたが、1〜2週間以内にはサービスを再開予定。JRの高架下にあった以前の店舗よりも堅牢な建物の中にあるため、より静寂な空間で高級オーディオを堪能できることでしょう。

防音室はまだ準備中だった。1〜2週間以内にはサービス再開予定


●3Dオーディオ研究用の13.2chサラウンドシステムを初公開

final STOREが移転することについて、ネット上では「秋葉原からなくなって残念」という声が多かった一方で、川崎への移転を楽しみにしていた人も少なくなかったようです。秋葉原にあった頃は、イヤホン/ヘッドホン専門店や家電量販店を巡ったついでに足を延ばす……ということもできましたが、川崎の新店舗はふらっと訪れるというよりも、「明確にfinalを目指して訪れる」人が増えると思われます。そういった“濃いファン“に向けた、ちょっと違った体験、居心地のよさを提供したい、と森氏は話していました。

また、製品購入後のアフターサービスの強化にも期待できそうです。本社とストアが同じビル内に入ったことで、修理等のサポート対応をスムーズに案内できるようになるとのこと。オープン時点ではビル1階の受付はクローズしていますが、ゆくゆくはここで修理受付や修理品の受け渡しなどを行うことも考えているようです。

さらに、finalで初となる自社製カスタムイヤホンのための、耳型採取などの新サービスを将来的に提供することも予定しており、森氏によれば「1年以内の実現を目指している」といいます。“自分だけの音と装着感”を突き詰めたfinal純正のカスタムイヤホンが、川崎のストアでいち早く手に入るようになるかもしれません。

○3Dオーディオ研究用の13.2chサラウンドシステムを初公開

そして今回、一般の来場者には公開していない、エンジニアが製品開発の過程で試聴するための“実験室”(試聴室)を特別に見せてもらえました。

新社屋内の試聴室の前にやってきた


ここでは昨今盛り上がりを見せている「3Dオーディオ」の研究のために、プロ向けのGENELECモニタースピーカーとサブウーファーを複数台用意し、13.2ch構成のサラウンドシステムを組んでいます。

3Dオーディオの研究のための13.2chサラウンドシステム


GENELECモニタースピーカーを上下に13個設置


両脇のサブウーファーもGENELEC製


finalでは以前から九州大学と音響に関する共同研究を行っており、VRやバイノーラル音声向けに開発した有線イヤホン「E500」を使った研究などを実施。その中で「E500の音響設計は学習用にも良いのでは?」という発見が、学習専用イヤホン「STUDY 1」(2月10日発売/2,980円)の商品化に結びついたとのこと。

これまでは別のスタジオなどを間借りするかたちで実験することもありましたが、こういった施設を自社で設けたのは初めてで、「九大で本格的な実験を行う前の、予備実験を行うための自前の設備を持ちたかった。現場ではトラブルが起きることもあるので、(自社施設で)予備実験できると助かる」(森氏)。将来的には22.2chまで拡張することも予定しているといいます。

STUDY 1


finalが手がけた、VRやバイノーラル音声向けの有線イヤホン製品たち


同社では、アコースティックな手法がモノをいう振動板などのアナログ部分だけでなく、デジタル信号処理技術の研究も行い、完全ワイヤレスイヤホンなどの製品開発に活かしていくとのこと。

具体的な計画は明らかにしていませんが、finalは今後も「ZEシリーズ」の完全ワイヤレスイヤホンのバリエーションを増やすことを検討している模様です。同社はクアルコムのワイヤレスイヤホン向け新技術「Snapdragon Sound」を採用した製品を市場投入予定で、上位製品の登場に期待できそうです。逆に、もっと手ごろな製品を投入してくる可能性もあるかもしれません。

final STOREのこれからの展開と、final・ag両ブランドの今後の新製品に注目です。

新社屋には、finalらしさが感じられる風景がそこかしこにある。これは1階エントランスの床に描かれている、案内用の導線


フロア表示の書体にも、どことなくfinal製品のパッケージの印字に近い雰囲気がある