現役時代の滝沢ななえ。美人すぎるバレーボーラーとして人気だった photo by AFLO

 2017年、テレビ番組でセクシャル・マイノリティの一つ「レズビアン」であることを公表した滝沢ななえ。かつてはパイオニア、上尾メディックスで活躍したバレーボーラーで、「美人すぎる」とまで言われた美貌の持ち主だったこともあり、このカミングアウトは大きな話題となった。

 それから4年、さまざまな媒体で自身の過去を振り返るとともに、セクシャル・マイノリティの認知を広げる発信を続けてきた。最近では、LGBTQ+を対象にしたイベント「Rainbow Voice オンライントーク」に参加するなど積極的に活動している滝沢は、この4年間の変化についてこう語る。

「一番大きく変わったのは、自分のことを隠さずに話せるところです。カミウングアウトしたことによって、友達の関係や職場の関係がうまくいかなくなったということはなかったですね」

 滝沢がセクシャル・マイノリティであることは、ほとんど知られていなかった。「選手時代は髪も長くて、パッと見た感じはかわいらしいというイメージが強い選手だったので、男性ファンが多かった」というのも、知られていなかった大きな理由と自身は考えている。

 また「美人すぎる」と言われていたことについては、「そこに嫌悪感はまったくなくて、むしろありがとうございますという感じでした」とメディアの取り上げ方やファンからの言葉をありがたく受け入れていた。

 滝沢が自らセクシャル・マイノリティであると感じ始めたのは、22歳の時。テレビドラマ『ラスト・フレンズ』を見て、トランスジェンダーの存在を知ったのがきっかけだ。それまでは「男性とお付き合いしたこともあったが、好きにはなれなかった」。

 そんな中で見つけた、SNSのセクシャル・マイノリティのコミュニティーで情報交換をしていくうちに女性とお付き合いすることになり、相手が女性であれば恋愛ができることに気づいた。そこで、自分はセクシャル・マイノリティであることを確信したという。

 セクシャル・マイノリティとは、女性の同性愛者である「レズビアン」、男性の同性愛者である「ゲイ」、両性愛者の「バイセクシュアル」、心の性別と体の性別が違うまたは性別に違和感をもつ人である「トランスジェンダー」などの総称だ。あくまでここに挙げたのは代表的なもので、性はもっと多様性に富んでいる。

 滝沢の場合は「レズビアン」だが、当然それぞれのパーソナリティによって異なる。

「私の場合はきれいではいたいんです。でもかわいいは目指していなくて、かっこいい寄りがいいかなと思います。最近は見た目をボーイッシュ、中性的なイメージに寄せています。ときどき、『かわいいと言われるのが嫌でしたか』と聞かれたりするんですが、周りから言われることについて、嫌だなという気持ちはないですね。レズビアンと言っても一言でくくれないところはありますね」


滝沢ななえは終始笑顔で自身のことを語ってくれた

 現在はパーソナルトレーナーとして働きながら、女性のパートナーと暮らしている。2人で生活していく中で、当然子供の話にもなるという。

「うちはお互い話し合ったうえで、子供を持たないことにしました。だから2人で目を向けられるもの、同じ興味を持てるものがあるといいなと思っていて、それが我が家ではワンちゃん(犬)なんです。これからも2人で一緒にできることを作っていきたいなと思いますね」

 滝沢は仕事を持ち、パートナーと支え合いながら暮らす一方で、こうしてメディアでセクシャル・マイノリティへの理解を求める発信をしたり、同じような境遇の人たちの悩みを聞く活動なども行なっている。自身がスポーツ選手だったこともあり、セクシャル・マイノリティの選手たちへは、自身の経験も踏まえてこうアドバイスをする。

「私の場合は現役時代、セクシャル・マイノリティに不便さを感じていなかったので、特に周りに伝える必要はないと思っていました。そんな選手はあえて公表する必要はないと思います。

 ただ、セクシャル・マイノリティであることを言えずにパフォーマンスが下がってしまうようであれば、一番仲のいい友達だったり、チームメートだったりに勇気をもって伝えてみるのがすごく大事なことかもしれません。選手にとって最も大事なことはパフォーマンスを上げることですから」

 滝沢はこのように、セクシャル・マイノリティの方々を応援したり、世間のネガティブなイメージを払拭しようと考えているが、まだ足りないことがあると感じている。

「私には甥っ子、姪っ子がいるんですが、まだ小さいので自分がレズビアンだということは伝えていません。今後、どう伝えたらいいのかなと思っていますが、子供のころから、教育の中で自然とセクシャル・マイノリティに触れていくことは大切なことなのかなと思います。そこがあるとスポーツの現場でも理解がどんどん深まっていくと思いますね」

 セクシャル・マイノリティの人が自らのことを発信するだけではなく、男性、女性、人種を含め、人間には多様性があることを、教育の中に仕組みとして取り入れることも今後より必要になってくるはずだ。滝沢は最後に自身の未来について語ってくれた。

「私のような当事者が『セクシャル・マイノリティを認めてくれ』という思いを発信することも大切ですが、それ以上に、自分がどうしたいのか、自分なりの幸せをどう見つけていくのかということが、一番大事なことだと思っています。社会の変化に期待し、そこに頼るのではなくて、自分の人生は自分で切り開いていく。それがいいのかなと思っています」

 滝沢は、セクシャル・マイノリティを公表した自分の責務として、自らが幸せになること、幸せの形を見つけることが重要であると考えている。笑顔でメディアに出演し、偽りのない言葉で幸せであることを伝えていくことで、世間の見方は自然と変化し、社会も少しずつ変わっていくのではないだろうか。

【Profile】
滝沢ななえ(たきざわ・ななえ)
1987年9月22日生まれ、東京都出身。元バレーボール選手。2006年にパイオニアレッドウィングスに入団。2009年に上尾メディックスに移籍しレギュラーに定着。2009-10V・チャレンジリーグで準優勝に貢献した。13年に現役を引退。17年にテレビ番組で同性愛者であることを告白。現在は女性のパートナーと生活する。19年にパーソナルジム「PERSONS Training Salon」を開業し、自らパーソナルトレーナーとして働いている。
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