大人になって物事を冷静に見られるようになった。良くも悪くも落ち着いた、とも言えるだろう。しかし、本質はあまり変わらないものなのかもしれない。それをしみじみと実感させられたのが、とんかつ専門店「かつ庵」で、あるメニューを食べたときだった。

そのメニューというのは、先日から季節限定で提供が始まった「きのこデミのチーズかつ定食」であり、追加注文した「えびフライ」「カニコロ」である。これらを一心不乱に食し、「グルメサイトで星の数を気にしながら店を選ぶのもいいけど、もっと自分の心と素直に向き合わなければいけないな」と再確認することになったのだ。

そう。幸せというのは、勝手に遠ざけているだけで、意外なほど身近にあるかもしれない――今回は、そんな気付きを得られたかつ庵での一コマを振り返りたい。

○季節限定メニュー「きのこデミのチーズかつ」登場!

かつ庵は、店舗数はそう多くないかもしれない。しかし、並み居るとんかつチェーンの中でも、手間暇の掛け方で頭一つ抜けていると個人的には思っている。主力のカツ系メニューはもちろん、ソースや小鉢まで抜かりなく美味しく、とにかく高い満足感が得られるのだ。



そんなかつ庵に先日、ふと立ち寄ったところ、こんなポスターが目に飛び込んできたではないか。



「きのこデミのチーズかつ」……か。デミとはもちろん、デミグラスソースのことだろう。ふ〜ん、これはなかなか気になるじゃないか。

着席し、改めてフェア用のメニュー表に目を通してみる。



ああ、やっぱり美味そうだな。

最近はめっきり寒くなってきたし、そういえば理由はよくわからないが、デミグラスソースといえば冬やクリスマスのイメージもある気がする……。よし、シーズン的にもちょうどいい。今日はこれにしよう。

おっと、この「きのこデミのチーズかつ定食」にも、いくつか種類があるのかな?



なるほど。「えびフライ」と「カニコロ」のどちらかをセットにした注文もできるわけか。いずれもデミグラスソースに合いそうだ。う〜ん、カロリーはちょっと気にならないでもないが、これはスルーできない。

問題はどちらを選ぶかだが……これは甲乙つけがたいぞ。



悩んだ末、「きのこデミのチーズかつとえびフライ定食」(1,034円)に……



単品の「カニコロ」(209円)をトッピング。



結局、両方食べることにしてしまったのだ。というか、こんな究極の二択、どちらか選べというほうが酷である。

そんなことよりも見てほしい、この主役ばかりが共演した豪華な絵面を。まるでカツ界のアベンジャーズ。見ているだけでヨダレが出てきそうだ。

○計算された美味さの嵐にテンション爆上がり

では、さっそく艷やかなデミグラスソースがたっぷりとかかったカツから食べてみよう。いただきます。



うっ……美味い……。美味い!!

ソースは奥行きがあってコク深い。濃厚な旨味、香味がぎっしりと凝縮されているようだ。とんかつにもぴったり合う。とろとろで甘みのあるモッツァレラチーズもいい役割を演じているようだ。

きっと、とんかつとデミグラスソースだけでも美味しかっただろう。だが、とんかつとデミグラスソース、普通ならあまり出会わないふたつがここまで見事に融合できたのは、モッツァレラチーズがあったからだろう。



デミグラスソースに入っているきのこの食感もまたいい。シャキシャキ感がいいアクセントになっているし、マッシュルームの芳醇な香りは味わいをさらに重層的にしている。う〜ん、ライスにもよく合う。



えびフライも最高だ。揚げたてでサックサクの衣に、弾力に富んだプリップリの身。えび自体の味も濃い。安価なえびフライにありがちな「衣が分厚くて中身が小さい」という"衣詐欺"の気配すらない。デミグラスソースをつけてみても、これがまたよく合う。

しかも本来えびフライは単品価格が209円だが、「きのこデミのチーズかつ定食」(869円)とセットになった「きのこデミのチーズかつとえびフライ定食」(1,034円)として注文すると、えびフライが実質165円と44円分お得にトッピングできる。ちなみに、これはカニコロ(単品価格で209円)も同様。こんなにお得で美味しい話があっていいのだろうか……。



もちろん、カニコロも絶品だ。カニの風味は実に濃厚、ホワイトソースはとてもクリーミーでなめらか。その甘みとソースの塩っけの塩梅がこれまた絶妙で、ライスが進む、進む。

きのこデミのチーズかつ、えびフライ、そしてカニコロ……この煌びやかなフライ類をまとめて食べる機会などそうそうあるものではないが、考えてみれば、これぞまさに子どもの頃に描いた"御馳走"のイメージそのものではないだろうか。

大人になって、いろいろと美味しいものを口にする機会も増えた。味覚も成長しているだろう。しかし、この絵に描いたような"御馳走"がこうも大人の舌にドハマりし、こうもテンションをハネ上げてくれるとは想像以上だったし、純粋に幸せである。

機会があれば、ぜひかつ庵で童心に返って、子どもの頃に憧れた"御馳走"を思いっきり楽しんでみてほしい。日頃から頑張っている我々にはうってつけのご褒美だし、きっと胃袋も心も満足するはずだ。