今回はmanyとmuch、a lot ofなど、数量を示す表現に隠されたニュアンスを取り上げます(写真:Dmytro Varavin/iStock)

mustとhave to、startとbeginなど、学生時代に同じ意味だと習った英語表現、ざっと思いつくだけでもけっこうありますよね。テストや授業などで、書き換え問題としてよく出されませんでしたか。


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当時、一生懸命覚えたこれらの表現や文法。実際の会話でも同じ意味として使えるときもありますが、場面や文脈、微妙なニュアンスの違いによって使い分けが必要なときも意外に多いのが実際です。

今回はそんな表現の中から、皆さんも使う機会の多いmanyとmuch、a lot ofなどの数量を示す表現を取り上げます。

ちょっとだけ想像してみてください。緊急事態宣の解除に伴い、ここのところ街や電車に人が増えてきましたが、この状況でたくさんの人を見たとき、皆さんだったら英語でWow, there are many people!(うわ、人が多いね!)と言いますか、それともWow, there are a lot of people!(うわ、人がいっぱいいるね!)と言いますか。知らないうちに、意図せぬニュアンスを相手に伝えているかもしれませんよ。ではさっそく、これらにどんなニュアンスの違いがあるのか、一緒に見ていきましょう。

まずは基本文法の復習を

「たくさん」という意味を表す単語やフレーズはいくつかありますが、修飾する名詞の種類によって使い分けのルールが決まっています。まずは、修飾したい名詞が可算名詞(数えられる名詞)なのか、不可算名詞(数えられない名詞)なのかをチェックしましょう。それによって使える数量表現が異なります。


a lot ofやlots ofは可算名詞にも不可算名詞にも使える便利な二刀流。これは気軽に使えそうですね。

I bought lots of things.(いっぱい買っちゃった)〔可算〕
We have a lot of time.(時間はたっぷりあるぜ)〔不可算〕

a lot ofとlots ofはどう違うのか気になった方もいるかもしれませんね。こちらは後ほど説明いたします。

manyとa [large / good] number ofは可算名詞に使います。

I don’t have many friends.(私は、あんまり友達がいないんです)〔可算〕
Okinawa has a [large / good] number of DUI arrests.(沖縄県では、飲酒運転検挙件数が多いです)〔可算〕

muchとa [large / good] amount of、a [good / great] deal ofは不可算名詞に使います。

They didn’t spend much money.(彼らは、そんなにお金を使いませんでしたよ)〔不可算〕
A [large / good] amount of capital is being invested in these projects.(これらのプロジェクトには大量の資本が投入されています)〔不可算〕
Some researchers expressed a [good / great] deal of skepticism about the results.
(研究者の中には、その結果についてかなりの懐疑を示す者もいました)〔不可算〕

a [large / good] number ofやa [large / good] amount of、a [good / great] deal ofにはあまりなじみがないという方は、この機会に覚えておくと便利です。ビジネス会話やニュース記事などで見聞きすることが多いです。

ちょっとだけやっかいなのが、a [large / good] amount ofやa [good / great] deal of。これらは、本来は不可算名詞に使うものなのですが、ネイティブでも可算名詞に使用することがあります。a large amount of peopleやa good deal of problemsのように可算名詞と一緒に見聞きしても、驚かないようにしてください。

フォーマル度の違い

名詞の種類の違い以外にも、使用するときに知っておいてほしいポイントがあります。これはニュアンスにも関わってくるところです。先ほど紹介した表現は、可算名詞と不可算名詞のどちらを修飾するのかということだけでなく、フォーマル度によっても使い分けをすることがあります。一緒に表で確認していきましょう。


lots ofやa lot ofはくだけた表現で、日常会話でよく使われます。使用方法は基本的には同じだと思って構いませんが、lots ofのほうがa lot ofよりもさらにくだけた感じに聞こえます。それに比べるとmanyとmuchは硬めの響きですが、会話でも書き言葉でも使うことができます。a [large / good] number ofとa [large / good] amount of、a [good / great] deal ofはフォーマル度が高い表現ですので、形式ばった文章で書き言葉として使うことが多いです。口頭で使うのは、プレゼンテーションなどのフォーマルなスピーチなどがほとんどですね。先ほどの例文は、フォーマル度の違いを反映しながら書いてみましたので、見直していただくとイメージをつかむのによいかもしれません。

これらの表現を使う際に、もう1つ覚えておいてほしいことがあります。manyやmuchは肯定文では使用が避けられる傾向にあるということです。とくにmuchのほうがその傾向が強い感じがします。人によっては「muchは肯定文では使ってはいけない」と言い切ることもあるくらいです。

◯ You need a lot of money to study abroad.(留学にはたくさんお金がかかるよ)
◯ You need a great deal of money to study abroad.(留学には多額のお金が必要です)
△〜× You need much money to study abroad.〔不自然〜間違い〕

肯定文で不可算名詞に「たくさん」という表現を付けたいときには、カジュアルな場面や通常のフォーマル度の場面であればa lot ofを、フォーマルな場面ではa [large / good] amount ofやa [good / great deal] ofを使いましょう。

肯定文ではmanyは硬い響きに

manyに関してはmuchほどではないのですが、やはり避けられる傾向があります。I have many friends.(私は友達が多いです)のように言うと、「少し違和感を抱く」とか「不自然な響きで、ネイティブじゃない感じがする」というネイティブもいるようです。

間違いではないですし、肯定文でmanyを使っても自然に聞こえる場合もありますが、そこまでの使い分けをマスターするのはなかなか至難の業。肯定文では、極力many以外の表現を使うほうがいいでしょう。manyを肯定文で使用すると、元々のフォーマル度よりもさらに度合いが上がって、とても硬い文や古めかしい文のような響きになります。

◯ I have lots of friends.(友達はいっぱいいるよ)
◯〜△ I have many friends.(私には友人が多数います)〔硬い響き〜不自然〕

疑問文であれば、manyもmuchも自然に使用することはできますが、文脈によっては違和感が出てしまうことがあります。やはり、くだけた会話ではa lot of / lots ofを使うほうが安全でしょう。硬い文章や、How many/much…?の疑問文にするときであれば、違和感なく使用できます。否定文については、どちらもフォーマル度にかかわらず、違和感なく使用できます。

◯ Is there much concern about the safety of our factory workers?(わが社の工場労働者の安全に関して多くの懸念がありますか)〔硬めな疑問文〕
How many books do you read in a month?(一カ月に本は何冊読みますか)〔how疑問文〕
How much memory does your PC have?(あなたのPCはどのくらいのメモリがあるの?)〔how疑問文〕
I didn’t go to many places in Canada.(カナダでは、あまり多くの場所には行きませんでした)〔否定文〕
I don’t have much time to study.(あまり勉強する時間がありません)〔否定文〕

manyやmuchは否定的なニュアンス?

manyやmuchが肯定文で避けられる理由としては、先述のように「少し硬めな響きがあるため、日常会話にはふさわしくない」というのがよく言われますが、そのほかに「manyやmuchという単語にはそもそも否定的なニュアンスがあるのだ」と言う人もいます。それを証明するかのようでもあるのですが、manyやmuchもtooやso、thatなどが付いてネガティブな意味の文になると、肯定文でも違和感がなく使用することができるんです。

There are too many people in this room.(この部屋、人が多すぎます)
I’ve wasted so much money on that dating app.(あのマッチングアプリで、すごい額のお金を無駄遣いしちゃったわ)
We don't have the resources to handle that many projects.(あんなにたくさんのプロジェクトを回すには人材が足りないですよ)

たしかに、肯定文でmanyが使われていると、tooやsoなどが付いていなくても、ネガティブなニュアンスが含まれているように聞こえる気がします。それは、manyがもともと含んでいるニュアンスなのか、はたまた、上記のようなルールがあるために、自動的にナチュラルな響きに聞き手が解釈するせいなのかはわかりませんが、ネイティブが無意識に使い分けをするようなレベルのニュアンスのように思います。

再度、冒頭で挙げた例文を見てみましょう。

Wow, there are many people!(うわ、人が多いね!)
Wow, there are a lot of people!(うわ、人がいっぱいいるね!)

やはりここでのmanyも、too manyやso manyのような「多すぎて嫌だ」という気持ちが入っているような感じに聞こえるので、「人が多すぎる!」というニュアンスを感じます。a lot ofにはネガティブな印象はありませんので、Wow, there are a lot of people!と言った場合には、単に人が多いことを描写している感じです。皆さんも周りにネイティブがいたら、manyのほうがネガティブに聞こえないかどうか、ぜひ聞いてみてください。個人差はあると思いますが「なんとなくわかる!」という方が多いかと思います。

manyのニュアンスに気をつけてみよう

もちろん、これまでお話したように、そもそも肯定文ですのでa lot ofを使用したほうがより自然に聞こえますし、manyのほうが少し硬い印象の文であると捉えることもできます。そういった背景において、あえて日常会話でmanyを使用されると、「このネガティブなニュアンスで使っているのかな」と自動的に感じてしまうのかもしれないですね。

manyは「多いことがよくない」という状況で使うほうがしっくりくる可能性があると、ぜひ覚えておいてください。ポジティブな意味で「たくさん」と言いたいときにはとくにですが、通常はmanyを肯定文で使うのはやはり避けるようにするのがいいみたいですね。あえてネガティブなニュアンスを出したいというのであれば、もちろんOKですが……

緊急事態宣が解除されたとはいえ、新たな感染拡大の波に対する不安もある中、電車や街、飲食店などでたくさんの人を見たとして、皆さんだったらThere are a lot of people!と言いますか、それともThere are many people!と言いますか。不安と喜びの間で揺れ動く筆者ではありますが、とりあえず無難にa lot ofを使うかなぁ……でも、無意識にmanyを使ってしまうかも?!