「破産者マップ」運営者を提訴 「官報情報をネットで広めることは問題だ」
破産者情報をGoogleマップで可視化していたインターネットサイト「破産者マップ」をめぐり、情報を公開された過去の破産者2人が、サイト運営者に対して、慰謝料など22万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。提訴は8月5日付。
訴状などによると、破産者マップは2018年12月から2019年3月19日までの間、破産者などの氏名、住所、事件番号などを官報インターネット版の情報に基づき掲載。Googleマップを利用して、地図上に破産者等をマッピングしていた。現在は閉鎖されており閲覧できない。
掲載当時から、名誉やプライバシーの侵害などの懸念が指摘され、被害対策弁護団も結成されていた。今回提訴した原告の代理人も被害対策弁護団のメンバーが務める。
弁護団長で原告代理人を務める望月宣武弁護士は、9月24日におこなわれた第1回口頭弁論期日後に開かれた会見で、「破産者マップ自体の違法性をきちんと裁判所に判断してもらうのが第一だと思い、提訴に至った」と話した。
●原告は名誉・プライバシーの侵害を主張
氏名や住所を含む破産者情報は官報で公表されており、インターネット上でも閲覧できる。もっとも、すでに公開されている情報であるからといって、これを自由にインターネットなどで転載できるかどうかは別問題とされる。
官報等による伝達範囲は、事実上閲覧する人に限定されており、これをみだりに公表されない利益は法的に保護する必要があるというのが、原告側の主張だ。
原告代理人の住田浩史弁護士は、「名誉やプライバシーの権利を侵害している」と説明する。
「破産事件の多くは、消費者金融や住宅ローンなどの借り入れを返済できなくなったという、事業者ではない個人の破産です。破産者マップにおける情報公開では、事業者や非事業者の区別をせず掲載していました。
非事業者の破産情報が、正当な関心の対象となるとは考えにくく、破産者マップでの情報公開には公共性や公益目的は認められないと思います」
みだりに破産者情報を公開されるような事態になれば、現在破産手続きを検討している人が萎縮してしまうかもしれないことも懸念している。
「コロナ禍で、経済的に苦しんでいる方は大勢います。破産手続きは、いざというときにそういった方々の窮地を助ける法的手段です。
しかし、破産手続きをとることで、ネット上で自分の個人情報を広く公開されるとなれば、手続きをとることに躊躇してしまう人も出てくるかもしれません」
●「被告に名前等を知られてでも訴えるというのは相当なリスクが伴う」
破産者マップのサイトが閉鎖してからすでに2年半が経過している。この時期の提訴となったことについて、望月弁護士は、サイト運営者(被告)の特定に時間がかかったことに加え、被告が日本にいなかった時期があったことも影響していると話す。
「仮処分でIPアドレスの開示をおこない、そのうえでIPアドレス管理者に発信者情報開示を求め、被告の氏名および住所が開示され、特定に至りました。
ところが、特定したものの、被告が海外に行っており日本にいなかった時期があり、訴状が送達できないリスクがあったため、提訴できないということがしばらくの間ありました。
帰国していることを確認後も、こちら側の動きを察知されて海外に行かれると、また同じことの繰り返しになってしまうので、日本に確実にいるタイミングを狙って提訴するために、何度か被告の自宅に行って在宅を確認するなど綿密な所在調査をおこないました」
また、原告となってくれる協力者を探すのにも時間がかかったという。
「破産者マップの運営者を訴えたいという方は、気持ちの上では大勢いらっしゃるかもしれませんが、裁判で被告に名前等を知られてでも訴えるというのは、被告がどのような人物かもわからない中では報復や逆恨みなどのおそれもあり、原告にとって相当なリスクが伴います。
原告として提訴に協力すると言ってくださっていた方が途中で降りることもありました。原告本人の名前で訴えて構わないと協力していただける方を見つけるのにも時間を要しました」
●被告は争う意思を示し「請求棄却を求める」
原告側は、名誉やプライバシーを侵害する不法行為であるとして、慰謝料などの損害賠償を求めている。
弁護団によると、弁護士を立てていない被告は、この日おこなわれた第1回口頭弁論には出廷せず答弁書を提出。請求棄却を求めるとともに請求原因が間違っていると主張し、争う意思を示した。
被害対策弁護団として活動している望月弁護士には、「自分が破産者であることを近所の人がみんな知っているのではないかという恐怖心から、家から一歩も出られない」などの相談も寄せられたことがあるという。
「会社に把握されているのではないかと思い出社できないという相談もあるなど、社会生活がまったくできなくなるほど精神的におびやかされる方がいましたし、今も同じような状態の方がいるのではないかと思います。原告の方も同じような状況です」
弁護団としては、破産者情報をGoogleマップで可視化し誰でも簡単に把握できるようにしたことと、あまり多くの人には読まれているわけでもない官報の掲載内容をインターネットで誰でも検索できるようにして官報の目的を超えて興味本位で探してしまう人にまで到達してしまう形で公開したこと、この2点を特に問題視しており、不法行為に該当する行為として主張していく意向を示した。