(写真:Yagi-Studio/iStock)

8月27日、国から2021年4月現在の全国の待機児童数が発表されました。昨年度の半分以下の5634人まで大幅に減少したということです。

「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名のブログが話題になってから5年あまり。ようやく保育園が足りてきたのか、今回は全国で最も待機児童数が多い東京都の数字を中心に検証します。

そもそも「待機児童≠認可保育園に入れなかった児童」

東京都は、国に先んじて7月28日に2021年4月1日現在の「都内保育サービスの状況」を発表しました。都内の待機児童数は昨年度よりも1,374人減少して969人となり、ついに3桁に。「待機児童数ゼロ」と報告した自治体は16市区に上り、都内49市区の3分の1に達しています。

私が主宰する保育園を考える親の会では、2001年に国が待機児童数の定義を変更して以来、待機児童数がイコール「認可保育園に入れなかった児童数」ではないことを問題にしてきました。その理由を説明します。

現行の待機児童数のカウント方法では、認可保育施設(認可保育園、認定こども園、小規模保育、家庭的保育など)に申し込んだ児童が認可に入れなくても、認可外に入れていれば待機児童にはカウントされません。また、遠くの認可・認可外園を勧められて辞退すると「特定の保育所等を希望している児童」に分類され、これも待機児童数には含まれません。

こういったカウントされない待機児童は「隠れ待機児童」と呼ばれています。「待機児童ゼロ」の東京都の16市区も、4月に認可保育園等への全入が実現したわけではありません。

東京都の発表数字から計算すると、待機児童数と「隠れ待機児童数」の合計は1万6682人になります。発表された待機児童数のおよそ1.7倍の人数が、認可に申し込んで認可に入れなかったことになります。

しかし、この数字も、昨年度から2割減となりました。「保育園に入れない!」という叫びが渦巻いた数年前の状況からはかなり変化しているということです。

これから待機児童数は減少し続けるのでしょうか。そもそも待機児童数が減少した理由にはどんなことがあるのでしょうか。

もちろん自治体の努力は一番に挙げなくてはならないでしょう。この5年間で、都内の認可保育園(保育所型認定こども園を含む)の数は1,135か所、定員で8万3030人分増えています。これに対する認可保育施設への利用申込者数の伸びは5年間で5万8182人。全体では整備した分がニーズ増加分を上回っていることになります。

東京都の就学前児童数は4年前から減少していますが、認可への利用申込者数は増加傾向が続いてきました。しかし、その増加率は鈍ってきており、2021年4月は前年から1,035人増で増加率は1%程度。5年前の7.2%からはかなり低下しています。

こういった全体像からすると、保育ニーズの増加は続いているものの伸びは鈍化しており、そこへ待機児童対策が追いついてきたということが言えそうです。

ただし、今年度の激減の原因は、それだけではないという見方もあります。

国への報告では、利用申込者数が想定したほど伸びなかった原因として、コロナ感染を懸念した利用控えがあったと答えた市町村が多数に上りました。コロナ感染拡大が続く中で、保護者に子どもを預けることへの不安が高まり、育児休業を延長したり、仕事を断念したりした人たちが多かったのです。とすれば、コロナ禍が収束すればその分の利用申込が増加する可能性もあります。

また、待機児童が大幅に減少したという報道は、これまで保育園をあきらめてきた層に「保育園を利用できるかもしれない」という期待をいだかせ、入園申込みに向かわせるかもしれません。

子育て家庭の安心感はまだ遠い

このような状況をふまえ、多くの自治体が待機児童対策への力に入れ方を変化させていく可能性があります。これまで積極的に進めてきた新園開設のいったん休止を決めた自治体もあります。保育園をつくりすぎると、充足率が下がって、経営が苦しくなる園が出てくるという心配もあるでしょう。しかし、地域にもよりますが、首都圏などの多くの地域で、保護者から見て「これで十分」という状態にはなっていないと思います。

子育て家庭が安心して子どもを産み育てるためには、安心できる保育園にいつでも入園できることが必要です。国や東京都の発表数字は、年間で一番保育園に入りやすい4月での数字です。国が発表する10月の待機児童数は、例年4月の2〜2.5倍に膨んでいます。

今年4月は都内でも0歳児クラスに空きが出た園が多かったという報道もありました。そんな地域でも、1歳児クラスはほぼ埋まっていたり、空きがあっても年度後半にはすべて埋まってしまうというところが多いはずです。

保育を必要とする家庭には、子どもの生まれ月、親子の健康状態、仕事の都合などさまざまな事情があり、保育を開始したい時期は家庭によって異なっています。年度途中の希望する時期に入園できるようになれば、子育ての安心感は格段に大きくなるはずなのですが、国や自治体はそこまでは必要ないと考えているように見えます。

ちなみに、国は今年度から10月の待機児童数を集計しないと発表しています。年度途中の待機児童の状況はますます見えにくくなりそうです。

量から質への転換も

国や自治体は、待機児童対策のために「定員弾力化」と称して、保育施設が本来の定員を超えて子どもを受け入れる「詰め込み」を許容してきました。今後は年度初めからの「定員弾力化」をやめて、年度途中の受入れ枠に回すようにしたほうが、保育現場にも「ゆとり」が生まれ、保育の質も上げやすくなると思います。

そのとき、年度初めなどに定員が充足しない時期があっても、保育士の雇用が不安定になったり、施設の経営が立ち行かなくなったりしないように施設への支援策を講ずることも必要だと思います。

また、そのような支援策は、良質な保育が提供できている、保育士の処遇が悪くない、地域の子育て支援や障害児保育などを行っているなどの条件を満たす、公益性の高い事業に傾けるようにして、保育の質を重視する政策に転換すべき時期にきていると思います。ここまで、待機児童対策を口実に行われてきた規制緩和の数々、質向上策の保留などについても再検討していかなくてはなりません。

認可保育園等の空きが目立つようになると、国や自治体は、施設の充足率が低いことを行政効率の低下として問題にすることが予想されます。しかし、前述したように子育ての安心や子どもの健やかな育ちのためには、保育施策、保育事業がゆとりをもって行われる必要があります。年度途中入園ができるようにする、子どもがゆったり遊べる保育室スペースを確保する、保育士の配置をふやすといったことです。

行政のムダはなるべく省かなければなりませんが、次世代を健やかに育てたいと考えているのであれば、ここの部分は省いてはいけない部分です。

園を選ぶ時代

一方、子育て家庭にとっては、これから保育施設の選択の幅が広がることが期待できると思います。どこでも入れるところに入らなければならない、保育の質に疑問をもっても転園できないという苦しい状況は緩んでくるはずです。

このとき、保護者が子どものために必要な保育の質を重視して園選びをすることが必要です。家からの近さも大切ですが、子どもが安心して生き生き過ごせる施設を選ぶことができれば、就学までの両立生活はしっかり支えられます。私は長年にわたり保育施設に関する相談を受けてきましたが、保育の質の格差は広がっており、親や子どもにとっては天国と地獄ほどの違いがあることを痛感してきました(拙著『後悔しない保育園・こども園の選び方』参照)。

保護者が子どものために保育を選択することで、地域の保育施設に保育の質向上に向かうインセンティブを働かせることができると思います。