アライグマはあるのにタヌキがない! 日本発の絵文字が世界標準になっていた

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今では誰もが日常的に、スマートフォンやパソコンを使いLINEやTwitter、Facebook、Instagramなどで情報を発信したり、受け取ったりしている。

筆者も普段からTwitterやInstagramを更新し、Twitterのダイレクトメッセージ(DM)、LINEのトーク、Facebook Messengerなどで知人や仕事仲間と連絡を取っている。

先日、ある友人とTwitter上で他愛もない話をしていたときに、絵文字にタヌキ(狸)がないことに気付いた。

文字入力システムにもよるが、現在のスマートフォンやパソコンでは、例えば「ぞう」と入力すればゾウ(象)の絵文字が変換候補に出てくる。

しかし、「たぬき」と入力してもタヌキの絵文字は出てこない。
一方、「あらいぐま」や「あなぐま」と入力すれば変換候補に絵文字が出てくるのだ。

なぜタヌキはないのか?
今回は、その理由に迫ってみたいと思う。


■日本のスマートフォンなのになぜ?
スマートフォンで「あらいぐま」と入力するとアライグマをモチーフにした正面顔の絵文字が変換候補に出てくる。
「あなぐま」と入力するとアナグマをモチーフにした横向き全身の絵文字が変換候補に出てくる。

しかし、「たぬき」と入力しても、タヌキの絵文字は変換候補に出てこない。


左から「あらいぐま」、「あなぐま」、「たぬき」の変換候補


上のスクリーンショットは、Androidスマートフォン標準の文字入力システム「Gboard」を利用した際の表示だが、別の文字入力システム「Simeji」や、Windowsパソコンの「IME」でも結果は同じだ。

ちなみに、
Windowsでは「Windows」+「.(ピリオド)」
Macでは「コマンド」+「コントロール」+「スペース」
これらの操作で絵文字一覧の表示も可能だ。

なぜアライグマの絵文字はあってタヌキの絵文字はないのか?
タヌキは日本で馴染み深い動物だ。
一方、アライグマはどの国で馴染みがあるのか?
気になったので調べてみた。

するとアライグマは、アメリカやカナダ、グアテマラ、コスタリカ、メキシコなど、アメリカ大陸に自然分布していたことがわかった。
テレビアニメ「あらいぐまラスカル」も作中の舞台はアメリカ。ラスカルの出身地もアメリカのウィスコンシン州なのだ。

一方のタヌキは日本をはじめ、中国や朝鮮半島などのアジア地域に自然分布していたという。

勘がいい人はこの時点でなんとなくわかったかもしれない。
しかし、筆者の友人も日本のスマートフォンで入力しているのに、アライグマが優先されていることに違和感を抱いていた。

実は、タヌキの絵文字がないことに違和感を覚える人は少なからずいる。
2017年頃からTwitter上で「#たぬきの絵文字がないなんて」というハッシュタグでツイートしているアカウントが複数存在しているのだ。


■絵文字の歴史
いまでは変換候補に絵文字も表示されるようになったが、かつてはスマートフォンやパソコンを問わず変換候補に絵文字は表示されていなかった。
さらにいうなら、NTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクなど、通信事業者(キャリア)毎に絵文字の種類は異なり、それぞれ近い絵文字に変換されていたという時代もあった。

今でもNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクでは各々の公式サイトで「絵文字変換表」を公開している。


NTTドコモの絵文字変換表


それなのに、いつの間にかキャリアをはじめ、スマートフォンやパソコンといった様々なデバイスでも、だいたい同じ絵文字が表示されるようになった。

いったいどういうことなのか?
その理由をさぐるため、簡単に絵文字の歴史を振り返ってみよう。

絵文字は日本発祥の文化だ。
そのルーツはポケットベル(ポケベル)のサービスで登場した「ハートマーク」だといわれている。その後、スマートフォンが登場する以前の携帯電話において、NTTドコモが1999年に開始したインターネットサービス「iモード」で176種類の絵文字が登場する。

NTTドコモの競合となるKDDI(au)やJ-PHONEも独自の絵文字を開発し、インターネットおよびメールサービスで利用できるようにした。

この当時はキャリア毎に絵文字が異なっていたため、別のキャリア間で絵文字を送り合うことができなかった。絵文字は顧客の囲い込みを計るサービスのひとつとして利用されていた。

2005年以降になると、メールサーバーにおいてほかのキャリアの似た絵文字に変換する機能が採用されはじめたことで、キャリア間の絵文字のやり取りが部分的に実現する。

それからさらに数年後、スマートフォン時代が到来した2010年、絵文字が「Unicode(ユニコード)」に正式に採択されたのだ。

Unicodeとは、アメリカ・カリフォルニア州の非営利団体である「ユニコードコンソーシアム」が開発や調整をする文字コードの業界規格である。

そして、そのユニコードコンソーシアムに絵文字を提案したのが、日本の通信事業ではなく、アメリカに拠点を置くIT企業「Google(グーグル)」と「Apple(アップル)」だった。

Googleは日本でGmailを普及させるために、Appleはソフトバンクの孫正義氏から、日本でiPhoneを発売するにあたり絵文字がどうしても必要だと働きかけられたことがきっかけだったという。

GoogleもAppleも自社のサービスやデバイスを日本で普及させるため、日本の絵文字文化を取り入れ、世界で使える「emoji」に発展させたのである。

このように、日本発祥の絵文字は、アメリカの非営利団体とアメリカの大手IT企業によって世界展開を果たしたのだ。


■世界中で使われている「emoji」
つまり絵文字の発祥は日本だが、今ではアメリカの非営利団体や企業が開発や運用をしていることになる。

世界展開されるということは、様々な国や地域で使われるため、絵文字の解釈や採用される絵文字も日本基準というわけにはいかないのだ。

現在Unicodeにおいて
・「アライグマ」のコードはU+1F99D、名称はRACCOON
・「アナグマ」のコードはU+1F9A1、名称はBADGER
このようになっており、タヌキは登録されていない。

絵文字が日本発ということもあり、干支が並んでいるのをはじめ、東京タワーや提灯(ちょうちん)、着物、桜、神社、忍者など、日本人に馴染み深い絵文字もたくさんある。

その一方で、アライグマとタヌキのように、アメリカで馴染み深いものが採用される場合もあるのだ。

Unicode – The World Standard for Text and Emoji



執筆:S-MAX編集部 2106bpm