首都圏のJR運賃表。距離がほぼ同じでも運賃や所要時間は路線によって異なる(撮影:大澤誠)

普段電車を利用するとき、自分の最寄駅から都心のターミナルまでの所要時間・運賃・本数は、ほかの路線のほぼ同じ距離の駅と比較してどう違うのだろう?と思ったことはないだろうか。

実は、都心のターミナルからほぼ同じ距離の駅でも、路線によって所要時間や運賃、本数には意外なほど差があるケースが見られ、比較してみると興味深い。都心から近い割に本数が少なかったり運賃が高かったりする駅や、ほぼ同距離でも所要時間が短い駅などがわかると、引っ越しなどの際に意外な駅が候補に挙がるかもしれない。

ここでは首都圏の鉄道で、都心のターミナル駅から5〜50kmの距離で比較してみた。また、本数は単なる停車本数だけでなく、停車本数のうち接続や追い抜きなどを考慮したうえで都心まで行くのに実質的に使える本数(有効本数)も指標に加えた。

10km圏で400円の路線も

ターミナル駅から5km圏内はさすがに距離が近いので、ほとんどの線区で数分で到達できる。この距離で10分を超えるのは日暮里・舎人ライナーや東急池上線、都営大江戸線など、停車駅が多く「軽量交通機関」といえそうな路線だ。運賃は基本的に150〜200円の範囲で、200円を少し超えるのが都営地下鉄、250円を超えるのはTXやりんかい線といった新興路線だ。

10km圏はだいたい急行や快速の1つか2つ目の停車駅にあたり、10分前後で行けるところが多い。運賃も200円強が多いが、その中で、りんかい線の東雲は大崎から400円。だが、東雲のタワーマンションに住めるような方なら気にも留めないだろう(?)。

また、常磐線の綾瀬(上野から9.9km、170円)と、つくばエクスプレスの青井(秋葉原から10.6km、340円)は運賃で2倍もの差がある。青井駅は綾瀬駅と五反野駅(東武スカイツリーライン)の近所なので、よほどの理由がないとつくばエクスプレスは選択肢に入りにくいかもしれない。


この範囲の駅の場合、停車本数がそのまま「有効本数」であることが多い。乗った列車がそのまま終点まで先着するか、先着列車に途中で乗り継げる列車であることがほとんどだからだ。

20kmまで来ると、JRと山手線南西側の私鉄の運賃差が100円近く開いてくる。例えば東急田園都市線市が尾は渋谷から280円、小田急線百合ヶ丘は新宿から290円だが、JR中央線の国分寺は新宿から400円だ。ただ、私鉄でも山手線東側の各線は50円差くらいに縮まり、運賃面では西低東高といった印象だ。JRは400円程度の水準だが、京急が並走する東海道線だけは300円に抑えられている。

ここから運賃の高さが際立ってくるのが北総線だ。前述した東急田園都市線の市が尾が渋谷から20kmで280円なのに対し、北総線はほぼ同距離の日本橋から東松戸まで830円と3倍もの開きがある。


つくばエクスプレスですら2倍の水準だが、北総線は都営浅草線、京成押上線が間に入ることによって3社で運賃を取られ、さらに北総線単体の運賃も高水準なためこんなに高くなってしまう。それでいて、速達性はあっても本数などの利便性は望めない。何とかできないものだろうか。あるいはセレブが住みたいと思う沿線にするかだ。

30km圏、速さが光るJR

30km圏はターミナル駅からだいたい30分超かかるエリアだ。その中で速いのはJR、京急、京王、つくばエクスプレスで、とくに中央線快速は日野まで26分、常磐線は柏まで25分。杉並区内のノロノロ運転で遅いイメージがある中央線快速はなかなか速い。新宿―国立間と総武快速線の東京―船橋間がほぼ同じ25km前後で、どちらも25分程度で行ける。


一方で私鉄各線は京急(品川―上大岡間27分)を筆頭に、京王(高幡不動)とつくばエクスプレス(柏の葉キャンパス)がちょうど30分で、ほかは30分台後半が多い。私鉄の中でも運賃が高いイメージのつくばエクスプレスだが、この距離帯になると日本橋―京成線方面の運賃水準にだいぶ近くなってくる。JRを意識して運賃設定したと言われているだけあって、JRとの差額も少なくなる。

有効本数の点では、この距離帯で急行・快速の通過駅なのに停車本数と有効本数が同じ駅は、どの列車に乗っても急行・快速にほぼ確実に乗り継げる優秀な路線だ。

その点では平日の青梅線がひどい。毎時4〜5本中3本が中央線直通だが、うち1本は後続の青梅特快に抜かれる。立川発着の列車で中央特快に乗り継げるものもあるが、毎時4〜5本のうち、新宿方面へ行くのに使えるのは3本しかない。有効本数が毎時6本あるお隣の西武新宿線・拝島線のほうが便利だ。

40km圏では運賃500円でも安いほうだが、300円台の優等生がいる。京王だ。1997年に戦後の大手私鉄では初の運賃大幅値下げを実施し、さらに相模原線も建設費の回収が進んだことで値下げした。その結果、新宿―めじろ台間は370円、新宿―橋本間は390円という破格の運賃だ。


50kmまで来ると西側私鉄とJRの運賃差が2倍にもなる。ここまで来ると途中でJRから私鉄に乗り換えたほうが安いのではないか。実際、中央線の新宿―相模湖間は990円だが、高尾まで京王線利用にすると570円で、420円も安くなる。JRも私鉄との競合区間では特別に安い特定運賃を設定しているが、特定運賃区間のちょっと先の駅が目的地の場合は特定運賃区間と残りの区間で区間を分割して乗車券を購入したほうが安くなるケースが多数存在する。

また、あまり目立たないが最も速い路線が常磐線だ。各線50分前後かかる中、つくばエクスプレス線と並んで42分の俊足ぶりだ。

新線ができれば変わるかも…

ここまで各方面の営業キロによる距離別で比較してきたが、その多くは直線距離と大きくは変わらない線区だ。だが直線距離ではこの距離なのに大幅に遠回りをさせられるところがあり、そういった地域では都心へ直結する新線が構想されてきた。最後にその例を紹介する。


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池袋から足立区竹ノ塚までは直線距離で10kmなのに、現在は西日暮里・北千住乗り換えで35分・500円もかかる。これは10km圏の平均15.4分・244円の倍以上だ。池袋から10km、急行で1駅10分・210円で行ける石神井公園の人からしたら信じられないことだろう。

そのため、平成初期に池袋と竹ノ塚を結ぶ地下鉄新線「池袋・竹ノ塚線」が足立区、北区、豊島区を中心に構想され、署名運動まで展開されている。近年はあまり動きがないが、実現すれば池袋―竹ノ塚間は乗り換えなしで10分に短縮され、運賃もつくばエクスプレスの水準と仮定すれば340円で済むだろう。途中の豊島五丁目団地へも池袋から都バスで25分だが、新線なら7分になる。東武線各駅から池袋までの時間短縮効果も見込める。

いかがだったであろうか。集計の結果、安さで見るなら山手線西側の私鉄各線、速さで見るならJR中央線と常磐線、つくばエクスプレスといったところだろう。この集計を見て不公平感を感じた人もいるかもしれない。時間、運賃、本数どれを見るかは人それぞれだが、一長一短はどこにでもある。