2021年1月20日(水)から放送されるTVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」の制作に携わったスタッフの方々への連続インタビュー企画。浜名孝行監督に続いて話を伺ったのは、撮影監督を務める近藤慎与さんです。ベースとして存在する作画を引き立てる撮影セクションをどう取りまとめているのか、多忙な制作の中、少し時間を割いてもらって、いろいろ効いてみました。

TVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」公式サイト

http://ssorphen-anime.com/

GIGAZINE(以下、G):

さっそくですが、まずは「撮影」という工程でどういった作業を行っているのか、実際に見せてもらえるということで……。

撮影監督・近藤慎与さん(以下、近藤):

これがベースの絵です。



近藤:

色を拾って軽く質感を乗せていきますが、夜のシーンが多いので、遠くでも目立つように目を赤く光らせています。

目を光らせる前



光らせたあと



G:

なるほど、色の指定に基づいて、細かい見え方については撮影工程で処理を加えているということですね。こうした処理の具合については、事前に「こんな感じで行こう」と統一するのですか?それとも、作業者の方が経験などに基づいて合わせていくのでしょうか?

近藤:

スタジオディーン撮影部の場合、自分が「このシーンはこの種類のカラー、この質感で」と最初に指示をしています。最終的に上がったものを見て、調整が必要であれば修正を入れて、編集に送っています。

G:

「魔術士オーフェンはぐれ旅」は魔術が出てくるので、撮影工程で行うことが多そうな印象があります。他作品と比べて、どうなのでしょうか。いっぱい光に関わるものが出てくる気がしますが……。

近藤:

そうですね。魔術の部分で、ちょっと作業工程はかかっているかもしれません。

G:

いま、参考として水が分かれるシーンを見せてもらっていますが、撮影処理の前後でまったく異なる印象になっています。これ、効果だけでここまで変わるものなのですか?水そのものをまるで描き直したのかというぐらいの差があります。

当該シーンの撮影処理前



撮影処理後



近藤:

素材は同じなんですよ。

G:

今回、こうして撮影作業の工程を見せていただきましたが、作画であれば「ここからここまでやります」みたいな形で担当されると聞きますが、撮影の場合は何名ぐらいでどのように分担するのですか?

近藤:

他の作品も手がけているので、メインで撮影している人間のほかにヘルプで入る人間もいて、人数は変化しますが、だいたい3名から4名くらいです。作品によってはシーンによって1人で担当してもらうというケースもありますが、「魔術士オーフェンはぐれ旅」の場合、ある程度、自分から「こういう風にして欲しい」と指示を出して作業してもらい、あとで調整するという形を取っています。

G:

浜名監督からは、第1期とキムラック編ではストーリーの重さが違うので、見た目も異なってくるというお話を伺いましたが、撮影として変わる点はありましたか?

近藤:

撮影の基本は変わりませんが、キムラック編ではあるレイヤーを強めにするだとか、効果の点で微妙に異なる部分があります。

G:

「魔術士オーフェンはぐれ旅」では、魔術が行使される際に、美しい曼荼羅のような魔術構成が展開されます。あれは……



近藤:

別途、このように3Dモデルで作ってもらったものがあります。



近藤:

このようにどの方向に向けても使えるようになっています。魔術そのものは、作画でエフェクト、炎や光とかの素材をもらった上で、さらに撮影で光をのせたり追加したりして、効果をつけています。



G:

作画による炎などのベースに対して効果を加えることで、文字通り立体的に魔術が生み出されているんですね。さまざまな素材を見せてもらっていますが、撮影は最終的にこれらを合成する部署なので、大量の素材が集まってきて、作業だけではなく管理も大変なのではないかと思います。なにか、管理するにあたってのテクニックやコツみたいなものはあるのですか?

近藤:

むしろ、コツがあれば教えて欲しいぐらいですね……(笑) 「オーフェン」ではいろいろな魔術や効果があるので、できるだけ整理はしているんですが、どうしても深いところだとフォルダ構成が複雑になってしまいがちで、作業者が使いづらくなってしまっているかな、とか……。

G:

分量としても相当なものですよね。

近藤:

そうですね、サイズはふだん意識していないので、どれだけあるかは実際に数えてみないとわからないですが、だいたい1話ごとに250から300カットあって、その背景とセルが各話数フォルダに入っているので……結構な分量です。

G:

本日は取材ということもあってスタジオで作業を見せてもらっていますが、作業はリモートでも行われているのですか?

近藤:

そうですね、会社のPCをリモートで使うので、自宅のPCのスペックがそんなに高くなくても作業できるという形です。ただ、作業効率としてはちょっと落ちてしまっているかなという印象です。会社でできていた分量が10とすると、リモートだと7とか8とか、という感じです。

G:

ちょっとオーフェンからは離れるのですが、近藤さんは昔の作品だと作画でクレジットされていたのを見かけました。

近藤:

はい、最初はスタジオディーンの作画にいました。新しく会社でデジタル部門を立ち上げるときに「どう?」と誘われて、面白そうだからやってみようかなと移ってきました。

G:

なるほど。「撮影」歴はおよそ30年ほどになるかと思いますが、撮影セクションとしてはどういった変化がありましたか?

近藤:

デジタル化以前の撮影は、機材を見せてもらったことはあっても作業をした経験はないので、ちょっとわかりませんが、デジタル化以降だと、最初に使ったソフトがAfter Effectsで、基本的な工程については変わっていないですね。

G:

「オーフェン」において、撮影の仕事ぶりを見て欲しいというシーンはどういった点でしょうか?

近藤:

できるだけ、あっさりした絵にならないようにしています。キムラック編ではちょっと暗めのシーンが多いのですが、処理を入れることできれいに見せられているところがあるかなと。

G:

「オーフェン」に限らず、作品全体がトータルでしっかりした絵になっているときは、撮影の仕事がうまくいっていると考えてよいでしょうか。

近藤:

その点は、やはり「作画ありき」ではあります。エフェクトとかも作画でしっかりと格好よく描かれているところへ、撮影が「足す」ような感覚です。

G:

作画のかっこよさを倍加させる役割ですね。

近藤:

そうですね。

G:

撮影をやってみたいという人が、なにか身につけておいた方がいいことや、アニメ業界に入る前からやっておいた方がいいことはありますか?

近藤:

面接できてもらった人には、いろいろな映画を見た方がいいという話をしています。あとは、自分の身の回りを見ること。信号はどういう風に点滅しているか、自然現象がどのように見えるか。観察眼は持っておくといいと思います。

G:

座学であれこれ学ぶというよりは、日常生活の中で観察眼を磨くのがよい、と。

近藤:

派手なエフェクトも面白いですが、そうではない、地味な部分も作品のクオリティを支えますから。作品を崩してしまわないように、ですね。

G:

2021年1月20日からキムラック編が放送開始ということで、先ほど見せてもらった処理が実際の画面上でどう映えるのか、楽しみにしています。本日はありがとうございました。

インタビューはさらに続きます。

・つづく