鬼滅の刃のヘッドマークを付けたJR東日本の「無限列車特別仕様SL」(左、記者撮影)と、映画に登場する「無限列車」を再現したJR九州の臨時列車「SL鬼滅の刃」(画像:JR九州)©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

人気アニメ『劇場版「鬼滅の刃(きめつのやいば)」無限列車編』が10月16日から全国の劇場で公開中だ。主人公の竈門(かまど)炭治郎やその仲間たちが、闇を走る蒸気機関車(SL)「無限列車」の中で敵である「鬼」に立ち向かうというストーリーだ。列車が舞台ということもあり、JR東日本JR九州がそれぞれ、独自のコラボ列車を走らせている。

台風一過で晴れ渡った10月11日、群馬県の横川駅から高崎駅に向けて、SLが走り出した。信越本線・高崎―横川間を運行する「SLぐんま よこかわ」に鬼滅の刃のヘッドマークや内装を施したコラボ列車「無限列車特別仕様SL」である。

旧型客車が木目調にリニューアル

動き出した列車の窓から親子連れ客が歓声を上げているのが見えた。ほかの窓では登場人物と同じコスプレをした若い女性客が手を振っている。駅ホームではJR東日本の社員たちが登場人物の扮装をして列車を見送った。炭治郎と同じ緑と黒の市松模様の羽織をまとった高崎支社高崎地区指導センターの中山亨さんは、自身も鬼滅の刃の大ファンだという。鬼滅の刃が幅広い年代に支持されていることがわかる。

コラボ列車の車内には主要キャラクターたちが乗務員や売り子などの格好に扮したシールが貼られている。登場人物の声を演じる声優たちによる、開業135周年を迎えた信越本線やSLに関する車内アナウンスも魅力の一つだ。12月までの土曜または日曜を中心に運行し、10月31日には夜間に走行する「YOGISHA(夜汽車)プラン」も行われる。

この列車に使われる客車は1938〜1955年にかけて製造された、「旧型客車」と呼ばれるタイプだ。今年4月に内装が木目調の雰囲気にリニューアルされた。映画で描かれる無限列車の車内もこんな感じなのだろう。

リニューアルは4〜6月の「群馬デスティネーションキャンペーン」に合わせて実施されたが、新型コロナの影響で運行開始が秋にずれた。7〜9月に走らなかったのは、「古い客車なので空調設備がない」(JR東日本)から。夏は暑いが今の季節なら窓を開ければ心地よい風が車内に吹き込んでくる。煙の匂いでSLに牽引されていることも実感できる。なお、SLぐんまに使われるSLはD51とC61の2種類があり、日によって出番が変わるという。


旧型客車の車内。無限列車の世界観にマッチする(記者撮影)

JR東日本は東京から高崎までの交通手段にも工夫を凝らした。目的地に早く着くなら新幹線が便利だが、在来線では「リゾートやまどり」に車内装飾を施した特別列車も仕立てて上野と高崎を結ぶ。所要時間は2時間以上で新幹線よりも時間はかかるが、その分、じっくりと鬼滅の刃の世界観にひたることができる。

JR東日本鬼滅の刃の製作サイドからコラボの打診があったのは今年1月。「SLの客車内の雰囲気が無限列車の世界観に合っているということでお話をいただきました」と、JR東日本の担当者がコラボのきっかけについて話す。SLを活用した地域振興に力を入れているJR東日本にとっては願ってもない提案だった。

実は群馬県には、鬼滅の刃において重要なモチーフである「藤の花」の名所が多数ある。春の開花シーズンにあらためて群馬を訪れれば、また違った楽しみ方ができる。

九州では特急列車のコラボを開始

このコラボSLは全席指定で10〜11月はすでに予約で満席、12月についても受け付け開始と同時に予約が殺到しそうだ。その意味では乗るのが難しい列車だが、乗車するための裏技がある。


主要キャラクターのコスプレをしてコラボSLの前で敬礼するJR東日本の社員たち(記者撮影)©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

SLぐんまは高崎―横川間を走る「SLぐんま よこかわ」と、上越線・高崎―水上間を走る「SLぐんま みなかみ」の2タイプがある。今回のコラボはJR東日本のほかに、横川駅の名物駅弁「峠の釜めし」を製造する荻野屋、横川駅に隣接する「碓氷峠鉄道文化むら」も参加していることから、コラボ列車が運行するのは高崎―横川間のみ。

つまり、高崎―水上間においてコラボ列車は運行しないのだが、SLは走る。「鬼滅の刃のヘッドマークは付けないが、旧型客車で走るのでコラボ列車の雰囲気が味わえます」(JR東日本)。

一方、九州では、一足先に「ソニック」「かもめ」といった特急列車が鬼滅の刃のコラボ列車として走っている。

9月29日から白い特急列車885系が博多―長崎間、博多―大分間、10月12日から青い特急列車883系が博多―佐伯間を走っている。どちらも12月28日までの予定だ。


885系に描かれた鬼滅の刃のキャラクター(記者撮影)©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

885系は6両編成の各車両に主要キャラクターが大きく描かれている。883系は4〜5号車にキャラクターがラッピングされている。どちらも12月まで運行する。博多駅に入線した885系の前では、多くのファンがお気に入りのキャラクターを次々とカメラに収めていた。

さらに、11月1日からは「SL人吉」号をキャンペーン仕様にした臨時列車「SL鬼滅の刃」が熊本から博多に向けて運行する。

通常は熊本―人吉間を運行するSL人吉が熊本から博多に向かって運行するのは極めて異例だ。熊本から博多へはディーゼル機関車DE10が後ろから押して運行する。なお、博多から熊本へは回送列車となり、ディーゼル機関車が前から引っ張って走行する。

鬼滅の刃と九州の縁は深い

人吉号に使われるSLは大正期に製造された8620形と呼ばれるタイプで、通常装着する「58654」というプレートに代わって、今回は劇場版に登場するSLと同じ「無限」というプレートを付けて走る。


SL人吉号の8620形は鉄道ファンの間で大人気。無限列車のモデルともいわれる(記者撮影)

劇場版公開のタイミングから少し遅れての走行は、「熊本―博多間で走行させるのが初めてであったため、社内外の調整が必要となり、最短で運行できる11月より運行開始となった」(JR九州)という。

今回の企画が持ち上がったのは今年5月。JR九州の側から製作サイドに提案したという。福岡県太宰府市にある「宝満宮竈門神社」や大分県別府市にある「八幡竈門神社」が主人公の名字の由来ではないかとファンの間で語られているほか、SL人吉で使われる8620形は無限列車のモデルだというのがファンの間での定説だ。このように鬼滅の刃と九州の関係性はいくつもある。

鬼滅の刃は2016〜2020年に『週刊少年ジャンプ』で連載され、2019年のアニメ化で人気が爆発。主題歌の「紅蓮華」はその年のNHK紅白歌合戦でも歌われた。今年に入ってからも、コロナ禍による外出自粛中にネット配信で「一気見」するファンが続出、その人気がさらに広がった。

コロナ禍はまだ収束していないが、政府も「Go Toトラベル」キャンペーンで観光を後押ししている。この機会に群馬と九州、2つの「無限列車」を乗り比べしてみてはいかがだろうか。