白石隆浩被告

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 ロフト付きワンルームの部屋からは、切り落とされた9人の頭部が見つかった。残忍な犯行をわずか2か月の間に繰り返したのは特徴のないヤサ男だった──。約1年ぶりに面会するヤサ男は仙人のようないでたちで現れた。これまで3回にわたり面会したジャーナリストが明かされなかった白石の生い立ちに迫る。なぜ白石は殺人犯になったのか──。(取材・文/渋井哲也)

【写真】死にたいという女性にLINEで自殺をすすめ続ける白石被告

金にならない女ならレイプする

「スカウト時代の人間関係は、お金か、性欲かという感じでした。金にならない女ならレイプする。そんな感じで殺してしまった。スカウトにならなければ、人を殺していなかったんじゃないか」

 筆者の問いに、新型コロナ対策でマスク姿の、白石隆浩被告(29)は迷うことなく、冒頭のようにアクリル板の向こう側から答えた。9人を殺害し、自宅に死体を遺棄。まるでサイコパスのような犯行だが、取材を通じて彼に特別変わった何かは感じられない。どこで価値観が狂ってしまったのだろうか? 

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 神奈川県座間市のアパートで、男女9人を殺害したなどとして、強盗、強制性交等、強盗殺人、死体損壊・遺棄などで起訴されている白石被告の初公判が9月30日に迫った。Twitterなどでやりとりした女性8人(うち7人は自殺願望あり)と、女性の知人男性を殺害した疑いが持たれている。

 筆者は7月28日午前、白石被告と立川拘置所で接見した。話をするのは3回目だが、9人を殺害したとは思えないほど普通の青年という印象が強く、猟奇性を感じられない。

 秋葉原通り魔事件の加藤智大死刑囚のような強烈な負のコンプレックスもなければ、「やまゆり園」事件の植松聖死刑囚のような独断的な思想もない。複数を殺害する犯人にありがちな自己顕示欲も承認欲求も感じられない。

 私は、白石が自分の人生をどのように思っているのかを知りたくなった。

子ども時代はおとなしく地味だった

 今回の接見は面会室「11」で午前9時5分からの約30分、行われた。

 紺のTシャツ、緑の半ズボン。無造作に伸びた長髪に無精髭を生やしていた。おしゃれなロン毛ではなく仙人のようだ。感染対策で布マスクもしていた。面会室に入るなり「よろしくお願いします」と深く頭を下げる。

 まずは子ども時代の話から聞くと、「興味ある人いますかねぇ?」などと言いながらも淡々と答えていく。

「小・中・高校と暗くて、おとなしい、地味な感じでした。勉強は可もなく、不可もなく。成績は、(評定は)2から4の間。得意科目は算数・数学と体育でした。動物は好きで、インコを飼っていました」

 得意科目といっても評価は4どまり。

 白石はこれまで家族のことを積極的に語ろうとはしなかった。家族について聞くと「普通」を繰り返す。

「父と母と妹の4人家族でした。母はとても優しく料理が上手な方でした。

 親からの愛情という意味では恵まれたと思います。歯の矯正をしてくれましたし、視力矯正で病院に通わせてくれました。お母さんの料理も美味しかったです。妹とは幼いころは遊んでいましたが、だんだん疎遠になっていきました。思春期になると兄妹ってそんなものじゃないですか?」

 習い事などはせず、中学になると母親から塾に行かされたという。

「地域の総合進学塾へ行っていました。母親に言われて、なんとなく通っていた感じですね。父親は、仕事中心でしたので、子育てに関わっていませんよ」

 子どものときの白石も今と同様どちらかといえば受け身だ。自分から何かをしようとしたことはあるのだろうか。部活動について聞いても、

「小学校のときは陸上クラブ。中学にあがってからは1年のときは野球部、2年と3年のころは、陸上部。なかでも長距離をしていました」

 特別熱心に何かをやっていた様子はない。

家族は1度も面会に来ていない

 高校は商業科を選択した。

「このころ父親と仲が悪く、早く自立したかったんです。ただ思春期的なやつで、些細なことでケンカしました。“早くお風呂に入れ”とか」

 両親との間にも、強烈なエピソードはない。ごく普通の高校生といった印象だ。高校進学後は柔道部に所属する。

「格闘技が好きで、年末のK-1の番組はよく見ていました。アンディ・フグが好きでした。中学でも高校でもボクシング部がなかったので、(高校は)柔道部に入りました。でも、1年でやめました。バイトを始めたんです。相武台のホームセンターや、もう閉店していますが、座間のスーパーです。当時の時給は850円でしたが、部活よりも楽しかったんです」

 格闘技が好きだというわりには執着せずバイト(カネ)を選ぶ。

 高校を卒業後、白石被告はスーパーに就職する。

「横浜市戸塚区に住むことになり、給料の手取りは14万円だったと思います。このころパチンコやスロットにはまってしまい、お金が足りませんでした。『タウンワーク』を見ていたら、手取り20万円の仕事が書いてあり“いいな”と思った記憶があります」

 その後、職場を転々とする。このころ両親は離婚し、母親と妹は家を出ていくことに。それ以来、ほぼ連絡はとっていないという。

 さらに気になるのは、拘置所に収監後、1度も家族が面会に来ていないというところだ。手紙のやりとりもないという。白石はそのことについて何も思っていないというが、少しだけ家族は自分と関係ない、とかばっているように感じた。

人生を間違った場所は

 人生の、どの時点に戻りたいと思うのか。質問すると、迷わず答えた。

「ひとつは、高校進学のとき。進学校に行って、大卒になっていれば、給料が変わったでしょう。高卒の給料と、大卒の給料が違うって知らなかったんです。知っていれば、大学に行ってました。

 もうひとつは。高校卒業後、働いた『スーパー』を辞めなければよかったと思います。社会保険がものすごくしっかりしていて、充実していました。いま思えば、いい会社だなと思います」

 白石被告は今、殺人を犯した当時の自分をどう思うのか。

「ちょっと考えが浅かった。人を1人殺して、報酬が50万円は安すぎますよね。性欲だけに走ってしまいました。警察に性犯罪は麻薬をしているような状態と言われましたが、まさしくそうでした」

 白石は事件発覚8か月前、茨城県内の風俗店が売春をさせていることを知りながら女性を紹介したとして職業安定法違反容疑で逮捕され、懲役1年2か月(執行猶予3年)の有罪判決が言い渡されていた。

 どうすれば殺人を犯さなかったのか。ズバリ聞くと、

「私が人生を間違った場所は(風俗の)スカウト(マン)をしたことです。あの経験がなければ人を殺すこともなかった。レイプがバレたら実刑くらっちゃうから殺すしかありませんでした」

拘置所に結婚を希望する女性が2人も訪れた

 高校時代からネット・ナンパを繰り返してきた白石被告。付き合った人はいるものの、恋愛感情を抱いたことはない。では、きちんと恋愛をしたことはないのだろうか。

「ありますよ。18歳のときと20歳のとき、22歳のときです。3回とも逆ナンパされたんです。うれしくて付き合いました。でも別れることになりますが、18のときは、デートに遅刻したことが原因。2人目、3人目は僕の浮気が原因でした」

 恋愛をしたというわりには浮気をするという矛盾。

 事件後、拘置所には結婚を希望する女性が2人も訪れたという。獄中結婚をするという情報も流れたが……。

「結婚ですか?(手で×印をつくり)ないですよ。結婚したいと言ってくる女性は信用できませんでした。話した内容が、週刊誌に流れ、記事になっていたからです」

類似の事件の感想は「もったいない」

 座間事件後、類似の事件が起きている。’19年9月、Twitterで知り合った自殺願望のある女性(享年36)を、大学生(当時22)が殺害したとして懲役5年を言い渡された。被告人尋問を傍聴したが、大学生は「自殺願望者の力になりたかった」と話していた。

「(被告は)学校の先生になりたかったんですよね。うーん、なんで殺したんだろう。大学まで行ってもったいない」

 また、今年7月、ALS患者の女性(享年51)が、安楽死を希望し、Twitterで知り合った医師(42)が殺害したという、嘱託殺人事件があった。京都地検は8月、起訴した。

「報酬が130万円ですよね? 医者だったのに、もったいない」

 類似の事件の感想は、白石被告が起こした事件でも「報酬が50万」「安い」と言っていたが、価値観は、ほかの事件を見ても変わっていないようだ。報酬額で判断している。

外に出られたら女性と性行為をしたい

 最後に、「外に出られるとすれば、何をしたいのか?」を聞いてみた。

「女性と性行為をしたいですね。好みは、橋本環奈と深田恭子。

 あんなに旺盛だった性欲が今は、ほとんどないんです。拘置所内で自慰行為は週1回する程度ですね。女性と会っていないからネタがないんですよ。女の人を触りたいですねぇ。レイプを思い出すこともないですし、あまりもう(勃起もしない)」

 ヘラヘラした様子でそう答える。

 好みの女性の話に及んだとき同席していた女性編集者に、「Kさんおきれいですよね」とネットナンパ師だった過去の面影を見せた。

 白石被告は事件の背景となったスカウト時代から最後まで「お金と性」を欲していた。

 裁判では起訴事実は認める方向のため、死刑を覚悟しているようだ。性への執着は強いが生に対しては投げやりに見える。それでも「外に出られるなら食べたいもの」の話には食いぎみで、

「ラーメン、辛いのが食べたいです。あとは焼き鳥! 寿司!」と前のめりに話した。

 裁判では、まだ話していないことが明るみになるのだろうか。

取材・文/渋井哲也
ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)ほか著書多数。