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建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み肺がんや中皮腫などになったとして、神奈川県の労働者や遺族ら64人が国と建材メーカー43社に約17億円を求めた「首都圏建設アスベスト神奈川第2陣訴訟」の控訴審判決で、東京高裁(村上正敏裁判長)は8月28日、国と3社に一審判決の約3倍となる計9億超の支払いを命じた。

一審判決では認められなかった一人親方らに対する国の責任が先行事件と同じように認められた。国との関係では全員勝訴となった。

建材メーカーとの関係では、一審よりも1社多い計3社の責任が認められ、原告64人中62人に対する賠償が命じられた。また、弁護団によると解体・改修工に対しても企業の責任が認められるのは初めてだという。

●高裁では「一人親方救済」「メーカー責任」増える

アスベストをめぐっては、健康への悪影響が指摘されながら、充分な安全管理が行われてこなかった。

裁判では大きく、(1)一人親方らについて、国の責任が認められるか、(2)建材メーカーの責任がどこまで認められるか、が争点になっていた。

一審判決では、雇用された労働者ではないことから、国の一人親方らに対する責任が認められなかった。これに対し、控訴審判決では、建設業界の「重層下請け構造」の実態などを踏まえ、労働安全衛生法の観点から国の責任が認められた。

同種の高裁判決は今回を含めて6つあるが、そのうち5つで一人親方に対する責任が認められたことになる。

また、建材メーカーにも、アスベストの危険性について、十分な警告表示を行っていなかったという問題があった。どこの建材が健康被害を生じさせたかの立証方法がポイントになっていたが、控訴審判決は、マーケットシェアなどからニチアス、ノザワに加えて新たにA&Aマテリアルの責任を認定した。

6つの高裁判決のうち、メーカーの責任を認めたのは今回で5回目。

●提訴しないでもいい救済制度を

同種の訴訟は、今回も含めて13個の地高裁判決が出ており、対象や期間に幅はあるものの、いずれも国の責任が認められている。

もっとも進んだ事件については、最高裁で10月に弁論が開かれる予定であり、近く統一的な判断が示される見通しだ。

ただ、今回の訴訟の被災者のうち大半が亡くなっているように、アスベストの健康被害は深刻。提訴しないと救済を受けられないとなると、被害者にとって大きな負担といえる。

判決後の会見で、原告団長の望月道子さんは、国に対して「謝罪と責任を果たしていただきたい」としたうえで、「被害者自ら訴訟をしなくても良いよう、(国と建設業者らの共同出資による)基金の創設に向けて頑張っていきたい」と話した。