ソフトバンクに続きKDDIも「GeForce NOW」を提供開始! クラウドゲーミングサービスのメリットとデメリットを徹底解説

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●KDDIが「GeForce NOW Powered by au」を提供開始
KDDIおよび沖縄セルラー電話は7月21日、クラウドゲーミングサービス「GeForce NOW Powered by au」を2020年9月24日から開始すると発表しました。
本サービスは月額1,800円(税別)のサブスクリプション方式で、本登録完了日から1カ月無料で利用できます。

サービス開始に先駆け、auユーザー限定で2020年7月21日から無料トライアルの提供も開始しています。
無料トライアルは「au通信サービスを利用中でau IDを持っているユーザー」を対象としており、2020年9月30日まで無料で提供するものです。
また、無料トライアル期間内に登録した場合、無料トライアル期間終了後は、有料プランへ自動的に移行します。


「GeForce NOW Powered by au」の提供開始を伝えるプレスリリース


GeForce NOWとは、半導体メーカー「NVIDIA」(エヌヴィディア)が運営するクラウドゲーミングサービス。
日本国内では既にソフトバンクが6月1日より正式サービスを開始しています。

クラウドゲーミングは、家庭用ゲーム機などがなくても、いつでもどこでも最新のゲームが高品位に楽しめるため、第5世代移動通信システム「5G」の登場とともにその現実性を増してきました。

現在はまだ5Gの利用エリアは広くないものの、今後数年で確実に対応端末や対応エリアが広がり、クラウドゲーミングを音楽配信や動画配信と同じように楽しめる時代が到来します。

KDDIやソフトバンクがNVIDIAと手を組み、クラウドゲーミングを推進する背景には、そういった「5G時代への種蒔き」という意味も込められています。


ソフトバンクのGeForce NOWサービス。こちらも無料キャンペーンが展開されている



●クラウドゲーミングの仕組み
はじめに、クラウドゲーミングの仕組みについて簡単に解説します。
クラウドゲーミングとは、簡単に言ってしまえば「通信回線を利用してゲーム機を遠隔操作するゲームサービス」です。

家庭用ゲーム機の場合、自宅にあるゲーム機に直接モニターやゲームパッドなどをつなぎ、その場でプレイします。
クラウドゲーミングでは、
・遠く離れたサーバー上に自分のPC環境を仮想的に構築する
・仮想環境にゲームクライアント(ゲームアプリ)をインストールする
・ゲームの映像は光回線やモバイル回線によって手元のスマートフォンやパソコンに送信
・ゲームパッドやスマートフォンの操作は、通信で送られてゲームが操作される
・操作されたゲーム画像がユーザーに送信される
このような手順を繰り返すことで、遠隔地にいてもゲームをプレイすることができます。

ユーザーが用意するのは「ゲーム映像を表示することができ、操作情報を送信できる機器」であれば、基本的には何でも良い、というのが最大の特徴です。
(サービス自体のクライアントアプリが用意されていることが前提)

そのためゲームの処理能力があまり高くないスマートフォンやパソコンでも最新の3Dゲームを遊ぶことが可能になり、しかも場所を選ばず遊べるという、夢のようなサービスとして期待されています。


2019年に開催された楽天モバイルのイベントで実演展示された、5G回線を用いたクラウドゲーミングの様子



●想像以上に「普通に遊べる」クラウドゲーミング
筆者は実際にソフトバンクのクラウドゲーミングサービス「GeForce NOW Powered by SoftBank」を体験しました。
その内容は実に刺激的であり、また現状では課題も多い内容となっていました。

筆者が体験して感じたことは、「想像以上に普通に遊べる」ということです。

クラウドゲーミングの弱点として「遅延」の大きさがあります。
一般的に、光回線では数ミリ〜数十ミリ秒の遅延が発生しますが、クラウドゲーミングではこの回線遅延に加えて、ゲームの演算処理や映像圧縮にかかる時間でさらに遅延が大きくなります。
これがモバイル回線であればさらに遅延は大きくなり、4G(LTE)回線の場合、数百ミリ秒の遅れが出ることもあります。

この遅延は、対戦格闘ゲームやシューティングゲームのような一瞬の判断を必要とするゲームであれば致命的な遅延に感じられますが、ロールプレイングゲームやアドベンチャーゲームなどでは、あまり気にならないというのが実際の印象です。


横スクロールアクションゲーム「ベアナックル4」をスマートフォンのLTE回線でプレイ。遅延はあまり気にならなかった


画質についても、LTE回線でも通信速度が十分に確保できる環境であれば、スマートフォンの小さな画面で遊ぶ程度であれば気にならない程度の劣化でした。
もちろん全く劣化しないわけではなく、高速な光回線や5G回線であっても、直接モニターへ接続される家庭用ゲーム機よりも画質は落ちます。
ここでも、動きの激しい対戦格闘ゲームやシューティングゲームに比べ、静止画やゆっくりとした動きの多いロールプレイングゲームなどのほうが画質の低下が少なく、遊びやすい印象でした。


●月額1,800円(税別)は安いか、高いか
むしろ問題となるのは、ゲームサービスの形態と月額料金です。
前述のように、クラウドゲーミングはゲームサーバー上に自分のPC環境を仮想的に構築し、その仮想PCの中に「Steam」のようなゲームクライアントをインストールして遊ぶという形態を取るため、ゲームを遊ぶまでの手続きや契約が非常に煩雑です。

とくにGeForce NOWでは、サービスクライアントである「GeForce NOW」の中で、ゲームクライアントである「Steam」や「EPIC Games」などが動作する仕組みです。
そのため、遊ぶゲームが増えると複数のゲームクライアントとの契約が必要になり、
「GeForce NOWという契約の中で、さらにいくつもの契約が必要になる」
という、非常に分かりづらい状況が生まれます。

このあたりは、ゲームシステムやクラウドサービスに精通していないと理解しづらいようにも感じられます。
また、そういった仕組みを分かりやすく解説する公式サイトなども存在しない点が、若干気になります。


GeForce NOWの中で、さらにEPIC Gamesとの契約を行う。家庭用ゲーム機しか触ったことがない人にとっては理解しづらい仕組みだ


また、月額1,800円(税別。KDDI、ソフトバンクともに同額)という金額も大きな課題です。
数あるクラウドサービスの中でも高額な部類と思われる金額ですが、これに加えて通信回線の利用料金も必要になることを考えると、決して小さくはない額です。

例えばAppleが運営している月額のゲームサービス「AppleArcade」は、クラウドゲーミングサービスではないものの、月額600円という比較的低価格で提供されています。
しかし、その低価格にもかかわらず、サービスが開始された2019年9月以降、新しいゲームスタイルとして普及や定着した様子はありません。


Apple Arcadeは現在、業績の低迷で戦略の転換を迫られている


スマートフォン向けゲームに代表されるように、現在のゲームは「基本無料でゲーム内課金」が主流です。
家庭用ゲーム機のように、パッケージを購入する買い切り型のほうがマイナー化しつつあります。

さらには、かつて隆盛を誇った月額課金方式のMMORPGというジャンルが、ユーザーに嫌がられて衰退したことからも、クラウドゲーミングだけが比較的高額な月額課金方式で成功すると考えることは難しい気がします。

そもそも、パッケージを購入すれば自宅でいくらでも遊び放題であるゲームを、わざわざ「外出先でも自由に遊べるから」という理由だけで月額課金を払い続けるでしょうか。
クラウドゲーミングは、ゲームの面白さや仕組みの便利さ以前に、事業として成り立つのかどうかが微妙なのです。

また重要な点として、「GeForce NOWにラインナップされたゲームでも、基本無料のゲーム以外は購入する必要がある」ということを忘れてはいけません。

GeForce NOWとは「通信回線を使ってゲームを遠隔操作で遊ぶ仕組み」でしかないため、結局ゲームは別途購入する必要があるのです。

「ゲームをいつでもどこでも遊ぶための権利」だけに月額1,800円(税別)を払えるのか、というのが、問題の本質なのです。


大量のゲームラインナップだが、無料で遊べるゲームはその一部だ



●クラウドゲーミングをぜひ体験してみてほしい
このように、クラウドゲーミングサービスのメリットとデメリットは非常にはっきりしています。

・サービスやシステムとしては非常に素晴らしい
・高速・低遅延を武器とする5G回線のキラーコンテンツにもなり得るポテンシャルを秘めている
・しかし利用料金の問題から躊躇せざるを得ない
これらが実際に利用してみた筆者の素直な感想です。

例えば音楽配信や動画配信のサービスでも、無料で利用できるコンテンツ以外に有料のコンテンツがあります。
それでも人々が月額料金を払って利用してくれる背景には、
・機能を限定した無料プランや低価格プランが存在する
・フルサービスを利用できるプランも月額料金が1,000円以下である場合が多い
こういった、料金的な利用のしやすさがあるように思われます。

クラウドゲーミングも、無料キャンペーンだけではなく、
・比較的月額料金の安いプランの用意
・基本となる料金プランを月額1,000円前後に抑える
普及させるには、こうした施策と戦略が必要になるかもしれません。

クラウドゲーミングサービスは、多くの人がまだ体験したことのない世界です。
・自分にとってそれが便利に楽しめるものなのか
・月額料金を払って遊ぶだけの価値があるのか
ぜひ、無料キャンペーンの期間中に体験し、自身の目で確かめていただきたいところです。


執筆 秋吉 健