マスク専門家「外出先でマスクを外したら口をあてた面を机に置いて」
■正しい着用方法と同時に「外し方」にも要注意
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためには、「新しい生活様式」を意識し、一人ひとりが感染防止のことを考えながら生活をしていかなければならない。
中でも、感染防止および感染拡大防止対策の一つとして、常時マスクを着用して生活を行わなければならない状況が続いている。その際、一時的にマスクを外すときの保管方法について、よく質問を受ける。
具体的な保管方法を説明する前に伝えておきたいことがある。感染対策や粉じんの吸引防止を目的に着用するマスクは、例外なく、使い捨てフィルターもしくは取替式フィルターでの運用が前提となっており、再利用や洗って使用するということはもともと一切想定されていないということだ。
せっかく有害な粒子をマスクで捕集しても、顔や手などに再付着させて吸引や感染してしまってはまったく意味がない。ゆえにマスクを扱う場合には、着用方法だけでなく、外し方にも十分な注意が必要だ。マスクを中途半端に扱うと、場合によっては命を落とすことにつながりかねない。
マスクを外して他人へ手渡したり、ポケットに無造作に入れたり、そのまま机の上に置いたりする行為は、感染力を有するウイルスが存在しない環境で着用したマスクであるという前提でしか許されない。
感染予防のためにマスクを着用している場合は、ウイルス飛沫が存在しているという前提の生活であるため、マスクの外側表面や繊維内には感染能力のあるウイルスが付着していると考えて行動をしなければならない。
■マスクを机に置くときは「内側」を下に
米医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』「Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1」などの論文で、布や金属などに付着したコロナウイルスが、感染力を有したまま長時間生存していることが報告されている。
感染していない人がマスクを着用する場合、マスクを一時的に外して保管する場合には、マスクの内側の「衛生エリア」とマスクの外側の「汚染エリア」を意識して区別する必要がある。
マスクを机に置く場合
感染対策が目的でマスクを着用して、そのマスクを机に置く場合は、マスクをお椀を伏せるように(口や鼻が当たっていたの内側の衛生面を下にして)置くことが基本となる。この場合は、除菌シートなどで机を除菌するか、きれいな紙ナプキンの上に置かなければならない。
多くの人は、外したマスクをそのまま置くことをイメージしているかもしれない。マスク外側の汚染エリアに付着したウイルスを机に付着させてしまうことは、その後に机を使用する人へ接触感染をさせてしまう危険性がある。このためそのままマスクを外す場合には、紙ナプキンの上にマスクを置き、前後にテーブルの消毒が必要となる。また、マスクの内側の衛生面に周囲からの飛沫を落下、付着させる危険があるため、衛生面の部分に除菌シートなどをかぶせておく必要がある。
ポケットに入れる場合
外出先で洗うことなしにポケットに手を入れた場合は、手に付着しているウイルスがポケットの中にまで付着してしまうと考えるべきだ。そのため、使用中のマスクをポケットに入れる場合は、衛生面を内側にして折りたたんで入れたほうがいい。その際、できるだけマスク衛生面に触れないように端を持って折りたたむ。マスクを外す前や着用前には手を洗うという意識も重要となる。
■クリアファイルを活用するという手も
ケースに入れる場合
専用のマスク保管ケースがあればいいが、ない場合はクリアファイルなどの活用が考えられる。その場合、マスクの衛生エリアを内側にして折りたたんで保管するべきだ。どのようなケースであっても、衛生エリアと汚染エリアが接触してしまう面をしっかり区別しなければならないことに注意だ。
仮にマスクの衛生エリアを外側にして折りたたんだ場合は、紐の接触などにより衛生エリアが汚染してしまうし、折りたたまずにそのまま保管してしまうと、つけ外しを繰り返しているうちに衛生エリアにウイルスを付着させてしまう可能性がある。
クリアファイル内は、全面汚染エリアになるので適宜除菌ティッシュなどで拭くと安心だ。1回使うごとに捨てる必要はない。
そもそも、飛沫が常時拡散しているような環境や、換気が悪く、人が密集密接したお店では、マスクを外すべきではないし、マスクを外して対面で食事をすること自体が感染リスクを高める。
それゆえに、このようなマスクだけのことを実践しても感染リスクがゼロになるわけではないことも知っておく必要がある。複数の対策によって、感染リスクをいかに減らしていくかが重要となる。
■マスクは経済活動と感染症を共存させるためのツール
以下の3つの要因がそろうと感染症に罹患(りかん)する。
これら3つうちひとつの要因でも取り除くことができれば、感染症にかかることはない。
マスクは、2.の感染経路を断つための一つの手段として活用されているが、ウイルスの吸引を防ぐための正しい着用技術が難しい、使用済みマスクの取り外しの徹底した管理がうまくできていないなどといった状況下では、一般的なマスクだけで感染を防ぐことは難しいという現状がある。もちろん一般的なマスクであっても劇的に飛沫の飛距離を縮めるという重要な役割もあるが、顔とマスクの間から飛沫が飛び出すこともあるため過信は禁物である。
マスクの置き方や取り外し方に「そこまで神経質に気を使わなくても、自分は感染していない」ということをよく言われる。それは、たまたまウイルスがそこにいなかっただけであったり、ウイルスが体内に入っても体の抵抗力で感染症が成立しなかったりという、偶然にすぎないと思わなければならない。
感染対策でわれわれに切れるカードは限られており、そのカードのほとんどは社会経済の成長と相反するものになってしまう。
その少ないカードの中で、マスクをうまく活用して、経済活動と感染症との共存を図ることが鍵となる。
命を守るために、新しい生活スタイルを生み出して、それに伴いわれわれの行動変容が求められているのである。
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大西 一成(おおにし・かずなり)
聖路加国際大学公衆衛生大学院 環境保健学分野 准教授
1978年生まれ。岡山大学工学部卒業。岡山大学医歯学総合研究科修了、鳥取大学医学部大学院医学系研究科修了。鳥取大学医学部エコチル調査鳥取ユニットセンター特命助教、同医学部医学科社会医学講座健康政策医学分野助教、山梨大学大学院総合研究部医学域附属出生コホート研究センター特任准教授を経て現職。専門は、環境医学、公衆衛生学。実験を通じてマスク科学的に検証している。著書に『マスクの品格』(幻冬舎)。
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(聖路加国際大学公衆衛生大学院 環境保健学分野 准教授 大西 一成)