世界最大級のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ パリ 2020」が中止となった(著者撮影)

2020年10月21日から10月25日までパリのポルト・ドゥ・ヴェルサイユで開催が予定されていた、世界的に有名なチョコレートイベント「サロン・デュ・ショコラ パリ」の中止が決まった。1995年から25回、毎年欠かさず開催されてきたチョコ界のビッグイベントが、新型コロナウイルスの影響を受けて見送りとなる。

パリ旅行をこの時期にあわせるファンも多いので、がっかりしている人も多いだろう。2019年には世界中から250以上のチョコレートブランドが出店した。会場の中は、チョコ、チョコ、チョコ。国内に例えると、東京ビッグサイトや幕張メッセのようなホールに果てしなくチョコレートが並び、購入も試食もできるというイメージだ。入場料金は大人1人15ユーロ(約1800円)と決して安くないが、2019年は約13万人を動員した。


近年エンターテインメント性も高く、チョコ好きには夢のようなイベント。日本からの来場客も多い(筆者撮影)

日本の出店数は世界2位

「サロン・デュ・ショコラ パリ」は日本と関係が深い。日本の出店数はフランスに次いで2位で、メリーチョコレートや明治は、ひときわ大きく華やかなブースを構えている。日本からは多くの百貨店のバレンタイン担当バイヤー、インポーターや製菓学校の生徒らも訪れ、もはや業界のプレバレンタイン行事となりつつあるパリの祭典。今回の中止は、日本のチョコレートブランドやバレンタインに、どんな影響を与えるだろうか。

「サロン・デュ・ショコラ パリは、本音のフィードバックをもらえる貴重な場」と、日本の出店ブランドは口をそろえる。「チョコを食べ慣れたフランス人やトップショコラティエから、毎日あらゆる率直な意見が入ってくる。日本では経験できないことです」(明治の宇都宮洋之さん)。

確かに会場には忖度なしの意見や質問が飛び交っている。日本人ならちょっと遠慮して言わないようなこともずばり。フランス人の多くは、自分の意見を言うのが当たり前と考えているからだ。明治はそんな評価や意見を蓄え、商品開発やバレンタインの展開に活かしてきた。


明治のブースは75平米と目立って大きい。カカオ産地との取り組みや新作を紹介。毎日数千人がブースを訪れる(写真:明治)

パリでは「Meiji? 日本から来たのね?」という認知度だからこそ、チョコそのものが純粋に評価される。

日本ではお菓子のイメージが強い明治だが、パリではカカオの品質と製法にこだわった「明治ザ・チョコレート」を打ち出し、高い評価を受けている。

「パリでの評価を持ち帰り、パリで出会った一流シェフの商品に負けないようにと切磋琢磨しながら品質を上げ、日本にカカオの魅力を伝えてきました。今年はそれがないぶん、国内でできることを立ち止まって見つめ直します」(宇都宮さん)

サロン・デュ・ショコラパリは入社動機にも

メリーチョコレートは日本企業として初めて「サロン・デュ・ショコラ パリ」に出店した草分けであり、常連だ。入社志望動機に「サロン・デュ・ショコラ パリに出店している」ことを挙げる学生が多いという。


お祭りのように華やかににぎわうメリーチョコレートのブース。「TOKYO CHOCOLATE」 として出店(写真:メリーチョコレート

2000年の初出店から毎年、チョコレートを通して日本文化を伝え続けてきた。社員の成長の場にもなっている。「20年前はフランス人に抹茶チョコを思いきり目の前で吐き出されたほど不評でしたが、今は逆に大好評です。毎年必ず来てくれる常連さんが大勢います」(メリーチョコレート 大石茂之さん)。

20年ぶりにパリへ行かない今年は、先の見えないバレンタインに備え、オンラインショップを強化する準備を整える。

「サロン・デュ・ショコラ」は、日本でも開催されている。2003年から三越伊勢丹グループが例年冬に行うチョコレートの物販催事だ。三越伊勢丹 サロン・デュ・ショコラ担当バイヤーの真野重雄さんは、サロン・デュ・ショコラ パリについて「世界でこれだけチョコレート関係者が集まるイベントはほかにない。カカオ生産国の情報も一度に得られ、食べて比較できる。情報量が多く、毎年アイディアを得られます」と話す。

パリが中止となったが、次に東京で開催される「サロン・デュ・ショコラ」はどうなるのか。「例年5月のリサーチメインの海外出張も流れ、現地へ足を運ぶという重要なステップが踏めない以上、新ブランドの発掘はできません。この先ギリギリまで先が見えないなか、お客さまの安全を確保しながらどこまでできるか。その形を考えています」。真野さんは、前向きだった。


サロン・デュ・ショコラ パリの会場内(著者撮影)

日本を再認識するバレンタインに

バレンタインに先駆け、毎年「サロン・デュ・ショコラ パリ」で新作を発表する人気パティシエ・ショコラティエの辻口博啓さんは「毎年新しいクリエーションを引っ提げてパリへ行きますが、中止にがっかりはしていません。前向きに捉えています。次のバレンタインは、海外からのショコラティエの来日が少なくなるかもしれないぶん、日本のショコラティエをしっかりと日本人が認識するいい機会になる。僕のクリエーションをしっかり日本で伝えられると思っています」と話している。

「サロン・デュ・ショコラ パリ」はいわゆる「三密」で、試食も多い。近年はカカオ生産国である南米からの出店も増え、アメリカ、アジア、アフリカと大陸を超えて人が集まる。その最大の魅力が、今回の中止の理由となった。

日本のバレンタイン催事も同じく、例年多くの人が集まり、海外から多くのショコラティエが来場する。この先コロナの状況は未知だが、次のバレンタインは、いったん立ち止まり、新しいものによって見えづらくなっていた、身近な物事のよさに改めて目を向けるバレンタインになるかもしれない。外出自粛を機にリラックスして「おうちチョコ」を楽しむ消費者が増えたことから、オンライン販売にも可能性がある。

刻一刻と変わる国内外の状況に対応しながら、次のバレンタインの準備が各所で進められている。2021年のバレンタインは従来と異なるものになり、コロナを乗り越えた先にもつながる、新しいチョコレートの楽しみ方が生まれるかもしれない。