iPhone SE(第2世代)の驚きの低価格と性能に秘められた、アップルのジレンマと戦略とは

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iPhone SE(第2世代)発売!
アップルの新型スマートフォン「iPhone SE(第2世代)」は、みなさん購入されましたでしょうか。
公式オンラインストアでは24日よりSIMフリー版の発売が開始されています。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの移動体通信事業者(MNO)各社からは、新型コロナウイルス感染症問題に伴う営業自粛による発売延期などもあり、現在は予約受付期間で5月11日からの発売となっています。

初代iPhone SEが発売されたのは2016年。
実に4年ぶりの後継モデルの発売となりました。
長く待ち望まれていた廉価版iPhoneの登場に喜ぶ声や、若干大きくなったサイズ感に落胆する声など、ネット上では悲喜こもごもの感想が聞かれます。

長い沈黙を破り登場したiPhone SE(第2世代)には、果たしてどのようなアップルの戦略が隠されているのでしょうか。


多くの人に待ち望まれていた廉価版iPhone最新モデル!



●中古すら飛ぶように売れるiPhone
iPhoneというと「超高性能だが高価」というイメージが強くあります。
ですが実際の市場では、価格が程良く安価なシリーズほど多く売れています。
例えば2019年に発売された製品の中では、
ハイエンドとなるiPhone 11 ProやiPhone 11 Pro Maxではなく、ディスプレイ性能やカメラ機能などを抑えた普及モデルのiPhone 11が最もよく売れています。
さらに旧世代モデルとして販売価格を下げたiPhone 8なども人気がありました

それでもiPhoneは、現在のスマートフォン市場においてすべての製品が高価格帯に属していることには変わりはありません。

安価なiPhoneへのニーズが高いことを裏付けるもう1つの理由が、中古スマートフォン市場での圧倒的なiPhone人気です。

iPhoneはリセールバリューが高いことでも知られており、ハイエンド機種は発売から1年後でも、買い取り価格が新品価格の6割や7割に達することもあります。当然、中古での販売価格も高くなりますが、それでも中古iPhoneは飛ぶように売れています。

つまり、
安価なiPhoneの需要が非常に高く安定していることから、
新品で圧倒的に安価なiPhone SEシリーズは、
「売れることが約束された機種」
こう言っても良いかもしれません。


某買い取り専門店でのSIMフリー版iPhone 11 Proの買い取り価格。このクラスでは新型が発売される秋以降でも新品価格の6〜7割の買い取り値がつくことが多い



●iPhone SE(第2世代)を購入すべき、たった1つの理由
iPhone SE(第2世代)の最大のメリットは、なんと言ってもその安さです。
公式オンラインストアでのSIMフリー版では、
・64GBモデル:44,800円(税別)
・128GBモデル:49,800円(税別)
・256GBモデル:60,800円(税別)
このようになっており、現在発売されているiPhoneシリーズの中でも最も安価になっています。

それでいて、iPhone SE(第2世代)は基本性能を犠牲にしていません。
心臓部であるSoC(チップセット)にはハイエンドモデルのiPhone 11 Proと同じ「Apple A13 Bionic」を採用しており、その処理性能は基本的にiPhone 11 Proとほぼ変わりません。

廉価なスマートフォンと言えば、真っ先にコストダウンされるのが基本性能だというのが常識だけに、この仕様は驚くべきことです。
つまり、最新の3Dゲームアプリなどでも非常に快適に遊べるのです。


最新のハイエンド機種と同じ処理性能でこの安さは信じがたいほど



●安さの秘密は筐体設計にある
驚異的な安さを実現できた理由は、本体設計や部品にあります。

iPhone SE(第2世代)は、その基本構造がiPhone 8とほぼ同じなのです。
そのため、ハイエンド機種で採用しているフルディスプレイデザイン(ノッチデザイン)ではなく、従来のホームボタンデザインを採用しています。
背面カメラも1基のみとシンプルです。

つまり、iPhone SE(第2世代)は、iPhone 8のSoCを強化しただけのアッパーモデルとも言えます。
デザインや部材をiPhone 8と共通化したことで、新たに設計するコストを削減し、生産でも在庫部品を活用したからこそ圧倒的な低価格を実現できたのです。


ほとんどのデザインをiPhone 8と共通化しているiPhone SE(第2世代)だが、背面パネルだけは新規造形である点が同社のこだわりだ



●市場ニーズとブランド維持 ジレンマから生まれたiPhone SE
初代iPhone SE発売以来、長年市場で求められ続けながら、アップルがかたくなに拒否してきたのが「廉価版iPhone」です。

それを何故このタイミングで市場投入してきたのでしょうか。

背景には、スマートフォン市場における同社シェアの落ち込みと、消費者ニーズの変化が考えられます。

現在のiPhoneは、日本市場でこそ未だに50%近いシェアを誇っていますが、世界的には全スマートフォン市場の2割程度に留まっています。とくに新興国などでは廉価なAndroidスマートフォンに押されてシェアを徐々に減らしています。

超低価格のAndroidスマートフォンに対抗したくとも、iPhoneのブランディングから、性能を犠牲にしてまで超低価格モデルをラインナップすることはリスクの高い選択です。

そこでiPhoneブランドを傷つけない戦略として
・基本性能は高く
・価格は安価に
この2つを満たす「ミッドレンジモデル」市場向けの製品を投入することで、iPhoneブランドの優位性を活かしつつ、しかしiPhoneブランドは損なわずに、市場シェアを獲得しようという狙いが伺えます。

また「廉価なiPhoneが欲しい」というニーズを満足させるという効果もあります。
アップルとしては、
・iPhone 11 Proシリーズと差別化できる低価格モデル
・比較的安価なiPhone 11とも競合しない(価格、性能、機能、デザイン面での差別化)
・基本性能を犠牲にしない
・最新のiPhoneブランドとしての整合性
こういったジレンマがあったと見られ、その摺り合わせの結果こそが、「iPhone 8を継ぐ製品としてのiPhone SE(第2世代)」であったのではないでしょうか。

逆に言えば、こうしたアップルのジレンマが、初代iPhone SEの後継機種を4年間も発売できなかった理由でもあります。


ロングセラーを誇った初代iPhone SE。それだけに後継機種に求められる性能やブランド力が大きな課題だった



●「今」だからこそ買いたいiPhone SE(第2世代)
iPhone SE(第2世代)はiPhone 8と比較しても、性能を向上させつつ価格は同容量モデルで8,000円も安い上に、iPhone 8ではラインナップされていなかった256GBモデルも用意されています。

iPhone SE(第2世代)は、現在iPhone 8やX以降のシリーズを使っている人には機種変更するほどの魅力はないかもしれませんが、iPhone 7以前の利用者であれば、十分に機種変更する理由となる仕様と価格を備えています。

とくに大きな購買層となるのは、中高生などの学生層ではないでしょうか。
iPhoneシリーズは10代の若者に圧倒的な人気を誇りますが、2019年の電気通信事業法の一部改正などに伴うMNO各社の端末販売方式の変更などもあり、通信料金プランとセットにした安価な販売が難しくなりました。

一方、MVNOによるSIMフリー版iPhoneの販売なども徐々に認知が進み、安価な通信回線と安価なiPhoneという組み合わせが、子どもに持たせるスマートフォンとして最適である、という認識も広がりつつあります。

iPhone SE(第2世代)は、こういった市場の変化にピタリと合致する商品なのです。

iPhoneは高性能で高い。
そんな「常識」を打ち破るiPhone SE(第2世代)は、国内でも落ち着きつつあったiPhoneブームに再び火を灯すかもしれません。


執筆 秋吉 健