スーツにリュックというスタイルは珍しくなくなった(写真:ablokhin/iStock)

3月中旬、「仕事用バッグ」の選び方を、第一線で働くビジネスパーソンに聞いてみた。

「私はリュック派ですが、バッグを選ぶときは、最初にPC(パソコン)がきちんと入るかどうか。そして、たくさん荷物が入るかを基準にします。外出先でもPCを使う機会が多く、仕事柄、紙の資料や本も持ち歩くので」(30代前半。企画職の女性会社員)

「ぼくは、かなり早くからリュックに変えました」

30代後半の男性はこう語る。PR会社の役員でもあり、選び方の変化を明かす。ちなみに立場上、服装はジャケット姿が多いが、バッグは使い勝手を重視する。

「かつては2wayバッグで、日によって、手持ちにしたり肩掛けにしたりしていたのですが、年々荷物が増え、重い中身を支えられるのか不安になりました。そこで大きめのトートバッグに変えましたが、歩行中に電話がかかってくると、すぐに対応しにくい。結局、両手が自由に使えるリュックにたどりつきました。それ以来、リュック一筋ですね」


2019年11月に実施された「吉田カバンの新商品展示会」(画像提供:吉田カバン)

新型コロナウイルスの影響が続くが、4月から新年度を迎える会社も多いだろう。実は例年、3月や4月は、12月とともにバッグが最も売れる時季だ。

今回は吉田カバン(※)にも話を聞いた。創業85年になる老舗、「PORTER」(ポーター)などの人気ブランドを持つ、商品の耐久性にも定評がある、などの理由で選んだ。「仕事用」と言っても、業種や職種、役職も変わるだろうが、一般的な視点で考え、メーカーのこだわりも紹介しながらバッグ選びを考えたい。

(※)正式社名は株式会社吉田。名称は「吉」の「士」の部分が「土」

仕事でPCを持ち歩くかどうか

「仕事用であっても、現在は圧倒的にカジュアル化が進んでいます。根底にあるのは職場意識の変化。かつては固い業種と言われた金融機関や公務員でも、例えばスニーカー出勤が認められるなど、通勤スタイルも変わってきました。当社のお客さまでも、PCが入れられて、背負えて、本体が軽い――という商品を求める方が多いですね」

吉田カバンの阿部貴弘氏(広報部マネージャー)は、最近の傾向をこう話す。

同社では毎年、春と秋に新商品展示会を行う。筆者も視察するが、近年はリュック型も目立つ。「背負える」という意味では3Way(手持ち・肩掛け・背負う)もあるが、「手持ちと背負うだけでよい」と考える消費者が増えたとも聞く。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、リモートワークに取り組んでいる人も多いだろう。会社所有のPCを自宅作業に持ち出せるかは、何年も前から話題になっていたが、一時よりも持ち出し基準が緩和された会社が目立つ。

PCの持ち運びとなると、リュックは重宝される。2年前、阿部氏はこうも話していた。

「以前よりは、デイパックやリュックサックが増えています。当社の直営小売店に来られるお客さまからは『外出先でも、スマホに仕事関係のメールが来るし、初めて行く場所はスマホの地図を頼りに歩くので、両手が空くリュックは使い勝手がよい』という声もあります」

クルマ移動が多い地方とは事情が異なるが、都市部で電車通勤・移動をする場合、「両手が空く」のは何かと便利だ。コロナ対応の余波で通勤電車の混雑も緩和された結果、「混んだ電車内でのリュックが邪魔」という声が減ったのは興味深い。

毎日使うなら「耐久性」や「ストレス」の少なさ

個人差はあるが、男性に比べて女性は、日によってバッグを変える人が多い。

「女性は服装とのコーディネートもあると思います。当社でも『ポーターガール』という女性向けラインを展開していますが、売れ筋の色は当社らしいブラック、ネイビー、カーキと、着る服が変わっても親和性があるベーシックな色合いが目立ちます」(阿部氏)

毎日の通勤時なら、性別や年齢に関係なく、耐久性やストレスの少なさも大切だ。

これから暖かさが増すと、バッグの中身が増える傾向にある。例えばペットボトル飲料を携帯する人が増え、降雨やゲリラ雷雨に備えて、晴天でも折りたたみ傘を常備する人も目立つ。前述のPCに限らず、荷物は増えがちだ。バッグ本体が重いと、より重さを感じる。

小物が増えると、収納や出し入れがスムーズにいくかもポイントだ。ドリンクや携帯電話が取り出しやすいか、ファスナーがスムーズに開け閉めできるか、にこだわる人もいる。例えば、混雑する駅で改札が近づいた時に、定期入れが出しやすいと便利だろう。

「外出先で、予想以上に荷物が増えた」という経験を持つ人は多い。

取材結果では「出張」と「商品展示会・新商品発表会」が目立つ。前者は「職場や家族へのお土産を自分で買うことが多いが、相手先から、たくさんもらう場合もある」。後者は「商品サンプルやカタログなどが、思いのほか増える」という話をよく聞く。

用意のいい人は、大きめのバッグで外出したり、中に小さな布バッグを入れたりして、荷物増加に備えている。2019年5月に吉田カバンの新商品展示会(2019年秋冬用)で目を引いたのが「ポーター フォーダブル」という商品。現在は販売中だという。


「ポーターフォーダブル」(写真:吉田カバン)

「この商品は3タイプあります。普段はサコッシュ(フランス語でカバン・袋の意味)の背胴側に収納されているバッグが、開くとトートバッグ、ショルダーバッグ、デイパックとして、それぞれ使えます。表面の素材はコットンポリエステルオックス、裏はナイロンオックスを用いており、軽いのに丈夫で、シワにもなりにくく、旅行先や外出先で荷物が増えたときに便利です」(阿部氏)

例年であれば、春は展示会の多い季節だ。これも新型コロナの影響で開催が延期となったり、中止に追い込まれたりしているが、参考になる情報だ。

プレゼンや会食など、あらたまった場でも

ここまでは、主に普段使いのシーンを紹介したが、「あらたまった場」でのバッグ選びをどうしているのか。こちらも当日の服装と関係があるだろう。女性の中には、発表会に出席する日(主催者側)は、ブラック系のワンピースを着る人も目立つ。

そうした服装に対する、大手食品メーカーの基準を紹介しよう。

「ふだんの職場はノーネクタイで、夏場の内勤の日はポロシャツ姿の社員もいます。食品業界にふさわしい清潔感を損なわない服装が基本で、Tシャツ姿は見かけません。一方、株主総会などの式典や、商談の際は、ネクタイを着用する場合もあります」

さまざまな会社に、服装だけでなくバッグについても聞いてきたが、基準はないものの、上質感のあるバッグに変える人もいる。昔に比べて、革バッグ派は少なくなったが、愛用者は一定層いる。近年は責任ある立場に就く女性も増え、「雨にも強い、女性向け革バッグ」を販売し、好評というメーカーもある。男性も年齢や役職が上がると、ブリーフケースのバッグを持つ人もいる。社内外で接する相手が変わるのも大きいようだ。


「ポータークレド」のブリーフケース(写真:吉田カバン)

「当社には『ポーター クレド』(6万5000円+税)というシリーズがあります。表面の素材は牛ステアで、熟練職人の石井種次郎氏の製作です。石井氏は、日本に5人しかいない“ジャパン・レザー・グッズ・マイスター”という鞄職人の名工です」(阿部氏)

TPOでの服装選びに関係するが、社会人として「場の空気に浮かないか」を意識する人は多い。取材結果では、派手な色使いでない限り、リュックを気にする声は少なかった。

実店舗で選ぶか、通販で選ぶか

外出自粛・自重のご時世で、気軽にウィンドウショッピングもしにくいが、実店舗と通販(主にネット通販)で買う場合は、それぞれこんなことを考えたい。

「お店で買う場合は、自分が気になることは気軽に、店員さんに聞くほうがいいと思います。例えば、ブリーフケースを買うつもりで行ったけど、展示品を見て、ほかの商品がいいと思うこともあるでしょう。その場合もお店の人に相談してみる。説明を聞いて、商品の特徴を教えてもらうと、さらに自分に合う商品が見つかるかもしれません」(阿部氏)

一方のネット通販では、目的買いになるので、あらかじめ使用目的を整理して選びたい。家電や日用品購入と同じように、実際に買った消費者の声を参考にする手もある。

国内の鞄・バッグ市場は「1兆1000億円弱」で推移してきた。矢野経済研究所の発表した「国内鞄・袋物小売市場」の調査では1兆1570億円(2018年度見込み)だった。この10年では、2012年度に9300億円台になって以来、回復基調にある。ただし2020年度は不透明だ。

低価格の品を選ぶ人、数万円以上の品を選ぶ人などさまざまだが、高額のバッグや日本製の品質のよい商品は、コロナ騒動以前はインバウンド(訪日外国人)にも人気だった。

バッグ選びには消費者心理も透けて見える。今年は、気持ちが前向きになる春にはなりにくいが、新年度や新学期の参考となれば幸いだ。