東京・世田谷区にあるレリアンの本社。「下請けいじめ」はあったのか(記者撮影)

「”下請けいじめ”という言葉が先走りし、お客様や取引先などから問い合わせを多数いただいた。このままでは会社が立ち行かなくなる」

百貨店を中心に高級婦人服「レリアン」や「ランバン オン ブルー」を展開する、伊藤忠商事傘下のレリアン。同社が2月19日に急きょ開いた記者会見で、小谷建夫社長は険しい表情でこう語った。

「下請けいじめはなかった」

事の発端は、2月14日に公正取引委員会がレリアンに出した勧告にあった。レリアンの商品を製造している下請け13社に対し、レリアンがセール値引き分の一部を負担させたり、売れ残り品を返品したりしたことについて公取委が下請法違反と認定、再発防止を求める勧告を行った。

違反と認定された金額は2018年〜2019年までの約1年間で総額約23億円と、同法違反としては過去2番目に大きい。レリアンは公取委の発表後すぐに、社内研修などを行って再発防止に努める意向をホームページ上に掲載した。

ところが2月18日に事態は急展開を迎える。取引先13社のうち10社が共同で会見を行い、レリアンとの取引で値引き負担や返品があったことを認めながらも、双方にメリットのある契約であり、下請けいじめではなかったと主張したのだ。取引の実態が知られないまま、相次ぐ報道により下請けいじめとの印象が先行し、ブランドイメージが悪化することを危惧したという。

翌19日にはレリアンも冒頭の会見を開催。取引の詳細を説明し、取引先とは共存共栄の関係だったと主張した。

下請法は、立場の弱い下請け事業者の利益を保護するための法律だ。その違反行為があったにもかかわらず、なぜ親事業者と下請け業者がそろって「下請けいじめではない」と声を上げる事態となったのか。背景には、レリアンと取引先との長年にわたる特殊な取引関係がある。

レリアンは1968年に創業。主力のレリアンブランドは、品質やデザイン性の高さから中高年女性を中心に多数の優良顧客を抱える。同じ百貨店向けの衣料品ブランドを展開するオンワードホールディングスや三陽商会などと異なり、レリアンは社内に製造機能を持たない。レリアンブランドについては社内に専属のデザイナーもパタンナーもおらず、商品の大部分を数十年にわたって取引してきた下請け13社から仕入れている。

レリアンと公取委の対立点

レリアンは創業当初、一部の商品を除き、これらの下請けが企画・提案した商品を下請け各社のブランドのタグを付けて販売していた。レリアンの知名度が上がるにつれ、レリアンのタグを付けたほうが消費者へ訴求しやすいと考えた下請けからの要望を受け、レリアン以外では販売しないことを条件に、下請けが企画した商品をレリアンのタグで売ることを認めた。

レリアンは下請けに約1年先のトレンドなどについて説明を行い、下請けはその情報に沿って商品を企画。レリアンは店頭情報を基に、「この部分はこう改善したほうが売れる」などと下請けにアドバイスを行う。最終的に絞り込まれた商品がレリアンのタグを付けて店に並べられる。

納品時にレリアンは下請けに商品代金を支払う。レリアンによれば、値引きや返品の条件をつける代わりに、業界内で一般的な買い取り価格よりも25%ほど高い価格で仕入れていたという。

返品条件付きの取引により、レリアンは在庫リスクを回避でき、下請けにとっては自社が企画した商品をできるだけ多く置いてもらうようレリアンに強く要請できる利点があった。過去にレリアンと取引があったアパレル企業の社員は「レリアンは多品種の商品を売りさばく販売力が強みで、その販売力の高さに期待して取引を行うメーカー(下請け)が多かった」と振り返る。

レリアンと公取委の見解が大きく対立したのが、この取引が下請法の規制対象となる「製造委託」に該当するかどうかだった。製造委託とは、物品販売などを行う事業者が規格やデザインを指定して、他の事業者にその物品の製造・加工を委託すること。製造委託に該当すれば、不良品以外の返品や値引きは下請法違反となる。

レリアン側は、取引先が自発的に企画した商品を売る「販売委託」の取引であり、レリアンが仕様を指定する製造委託には当たらないと主張。これに対して公取委は、レリアンブランドとして商品を製造させていたことや、「踏み込んだ意見やアドバイスをして、それを基に下請け事業者が商品の見本を作り直すなどしていた」(下請取引調査室の担当者)ことを理由に製造委託と認定した。

公取委の判断に対し、レリアンの小谷社長は「ウィンウィンで成り立ってきたビジネスモデルだったが、(下請法)違反と認定された。本当にショックだ。下請けいじめでも、優越的地位の乱用でもなかった」と強調する。

業界内ではレリアンに厳しい声

今回の勧告を受け、ブランドイメージへの影響の長期化を避けるため、レリアンは返品・値引きなしの取引形態に変更。違反と認定された代金の返済も順次進める方針だ。ある下請けの首脳は「返品なしの契約になれば、レリアンは在庫を抱えることを恐れて確実に売れる商品だけに仕入れを限定する。取引数量は大幅に減ってしまう」と先行きを危惧する。


2月19日に開いた記者会見で、取引先とは共存共栄の関係を築いてきたと主張したレリアンの小谷建夫社長(右)(記者撮影)

レリアンと取引先との関係は双方の合意の下で長年続き、その結果、多種多様な商品が並ぶ独自の売り場を実現してきたことは事実だ。ある小売り企業幹部はレリアンの主張に一定の理解を示したうえで、「長年築いてきた商慣習の是非を外部から法律で一括りに判断しようとすると、ビジネスの自由度を阻害しかねない」と語る。

もっとも、アパレル業界内では今回の一連の展開に対して厳しい見方が多い。アパレルOEM会社の幹部は「昔は普通だった返品も値引きも、最近は特に上場企業との取引で大きく減った。持ちつ持たれつの関係だったにしろ、コンプライアンスが重視される時代に伊藤忠の子会社でありながら、『返品しても下請けいじめではない』と主張するのは違和感がある」と語る。

別のアパレル業界関係者も「レリアンのタグを付けた商品はレリアン以外で販売できず、返品後はタグを外す加工をしたうえで、底値で転売する道しか残されない。いくら高値で取引していると言っても、それをわかって返品する行為は公取委に勧告されて当然」と指摘する。

レリアンへの依存度の高い下請けの間では、返品なしの取引への変更で仕入れ数量が減ったり、売り場が陳腐化したりすることを懸念する声もある。一時的な取引量の落ち込みは不可避とみられるが、前出とは別のアパレル業界関係者は「レリアンが本当に売れる商品の必要量を見極めたうえで仕入れを行えば、結果的には返品や値引きが減り、商品一点一点の利益率も上がるようになる。それが本来の商売のあるべき姿だ」と話す。

衣料品の海外生産が9割を超える中、レリアンブランドの商品の7割は今も国産が占める。レリアンの小谷社長は「日本のメーカーの新しい商品を世に出す役割を担っていたという自負がある」とも語った。取引先との特殊な関係の下で品質の高い商品を作り出し、優良顧客をつかんできたレリアン。新たな取引形態に改めた今、魅力ある商品を世に出し続けられるか。これから真の販売力を問われることになる。