日本でiPhoneの売り上げが「不振」に陥ったワケ
アップルはアメリカ時間1月27日、2020年第1四半期決算を発表。低迷していたiPhoneの売上高は前年同期比で8%増の559億5700万ドルだった。写真は2019年9月のアップルのイベントにて(筆者撮影)
アップルはアメリカ時間1月27日、2020年第1四半期決算(2019年10〜12月)を発表した。iPhone不振で始まった2019年を振り払うような決算だった。
売上高は918億1900万ドルで前年同期比8.9%増、税引き後の1株当たりの利益は4.99ドルで、いずれも過去最高を記録した。低迷していたiPhoneが、新モデルによってペースを取り戻し、売上高は前年同期比で8%増の559億5700万ドル。
またウェアラブル・ホーム・アクセサリー部門は前年同期比37%増の100億100万ドルとなり、Mac、iPadを大きく上回る、製品として第2の売上高を誇る部門へと成長した。サービス部門も引き続き16.9%の高成長を維持し、127億1500万ドルを売り上げた。
ただし、日本での売上高は前年同期比で約10%減となった。もともとiPhone販売比率も高かったはずの日本で、アップルが不振に陥った理由は、総務省による電気通信事業法の改正にあった。
復活を遂げた「iPhone」
ちょうど1年前、2019年1月にアップルは株主に対して「利益警告」を出した。四半期ごとに予測される売上高をガイダンスとして示すが、これを大きく下回る業績が予想されることが原因だった。これを受けてアップルの株価は142ドルまで下落し、アメリカ企業初の時価総額1兆ドルを半年前に記録したのが嘘のような状況に陥った。
しかしその後、アップルは2019年第3四半期(4〜6月)から、回復の兆しを見せた。Mac、iPadのテコ入れと、ウェアラブル、サービス部門の急成長が持続したことが奏功した。そして2019年9月、iPhone 11、iPhone 11 Proシリーズを発売。
iPhone 11 ProではiPhoneとして初めての3つのカメラを備え、バッテリーとディスプレーを強化する順当な機能進化を遂げた。一方iPhone 11にも2つのカメラを用意し、プロセッサーは上位モデルと共通化しながら価格を引き下げ、より買いやすくした。この価格戦略から、iPhone 11の売り上げは好調で、採用されているA13 Bionicチップの増産も報じられた。
アップルは2020年、5種類のiPhoneを計画しているとも言われており、第1四半期にも廉価版iPhoneが登場すると見られる。廉価版のiPhoneは、1台当たりの平均販売価格は低下することになるが、ハイエンドスマートフォンが伸び悩んでいる市場環境において、iPhoneの販売台数を拡大させることは得策だ。
アップルは現在、サービス部門の成長拡大に力を入れており、2019年はニュース、ゲーム、エンターテインメント、そしてクレジットカードに至るまでサブスクリプションサービスを拡充させている。
アップルによると、2020年第1四半期決算時に、サブスクリプションサービス利用者は4億1800万件に上り、3月までに5億件、2020年末までに6億件を突破するとの見通しを披露した。iPhoneのアクティブデバイス数もまもなく10億に到達し、サービス部門の拡大はiPhoneが牽引していることがわかる。
「5G」で日本だけ取り残される可能性も
アップルは今回の決算で、中国市場の成長基調への回復をアピールした。後述の理由でその明るい材料は消失することになるのだが……。
アメリカ、欧州、アジア太平洋地域も好調な中、日本だけが9.9%の売上高減少に沈んだ。
日本市場でも、iPhone 11をはじめとした各モデルは好調で、販売ランキングでは上位を占めている。それでも1割減の要因について、アップルのCFO、ルカ・マエストリ氏は電話会議で次のように述べた。
「日本は規制の変更で厳しい状況となっている。2年契約を前提としたキャリアの値引きに制限がかけられた」
これは2019年10月の電気通信事業法の変更を指しており、過去のモデルも製造し続けている「在庫モデルが存在しない」iPhoneの販売が不利になっていることを反映するものだ。
電気通信事業法で値引きが制限されているのは、型落ち在庫ではないモデルのことで、すでに製造が終わっていて店頭に在庫があるモデルについては値引きの制限がない。iPhone 8は2年前のモデルだが、現在も製造が続いているため、型落ちの在庫モデルとならず、値引きが制限される対象になってしまっている。
2020年モデルのiPhoneには5Gモデルも加わると見られているが、インフラが整っても端末が対応しなければ5Gが利用できない。5G対応iPhoneの買い替え鈍化は、iPhoneのシェアが半数にのぼる日本の5G端末の普及を妨げる要因にすらなる。
世界を見渡せばiPhoneのシェアは15%以下で推移しているが、開発者はその開発コスト、収益性から、iPhoneからアプリを作り始める「iPhoneファースト」の傾向を崩していない。つまり5G時代ならではのアプリも、iPhoneからそろい始めることが予測される。
アメリカをはじめとした各国のモバイルキャリアは、4G同様、5G対応iPhoneの登場を、5G普及の旗印にしようとしている。
国の規制がビジネスに影響を与えるのは、日本だけの話ではない。
例えば欧州では、電子機器のゴミを減らすため、スマートフォンの充電ケーブルをUSB-Cに統一する法案を可決した。アップルは2012年からLightningポートを採用してきたが、方針転換の可能性も出てきた。しかも、その理由は環境問題と言うことで、アップルも方針転換しやすいかもしれない。
そのアップルは、現在世界的に拡大が続いている新型コロナウイルスは、業績の押し下げ要因になるとの見方をしている。
新型コロナウイルスという「不確定要因」
2020年第1四半期決算の電話会議で、新型コロナウイルスに関する質問が飛んだ。これに対して、次の期の売上高のガイダンスが売上高630億〜670億ドルと幅がある点は、「新型コロナウイルスへの懸念と不確実性」を織り込んでいるためとしている。
中国市場はアップルにとって、2つの意味合いがある。アメリカに次ぐ第2の消費国である点、そして多くの製品の組み立てやサプライヤーが集中する国である点だ。その双方でアップルのビジネスを毀損する可能性が高い。
アップルは中国内の直営店と事業所を2月9日まで閉鎖することを決めた。中国国内ではそのほかの店舗も閉まっていることを考えると、その間アップルは中国での売り上げを失うことになる。1週間店舗が閉まると、アップルの売り上げは8億5000万ドル減少すると試算できる。2月10日に開店できるかは不透明だが、閉鎖が解かれても、消費が回復するとは考えにくい。
中国は春節の休暇を1週間延長しており、1月末の決算発表の際には、アップルに関連する工場は2月10日から工場が稼働すると述べていた。しかし感染と死者数は拡大し続けており、むしろ状況は悪化しており、そのとおりになるかは微妙だ。
そこで問題となるのが、製造が需要に追いついていない製品の売り上げへの影響だ。アップルは現在、Apple Watch Series 3とAirPods Proで品薄状態が続いている。いずれも急成長を遂げているウェアラブル部門に属する製品で、iPhone不振をカバーしてきた。
Apple Watch Series 3については2020年第2四半期に品薄状態が解消するとしてきたが、工場の稼働が遅れれば難しくなる。また3月には新製品も予定されているとみられ、とくに廉価版iPhoneのような戦略商品が出遅れると、2020年の業績全体に影響を及ぼしかねない。
2020年のアップルは、各国の規制や新型コロナウイルスといった外的要因との戦いが強いられることになった。事態の打開に向けて、グローバル企業がどんな貢献をするのかについても、より開かれたアイデアで検討すべきだろう。