人間に代わってボットがジャーナリズムの仕事をするようになる、なんていうのは考えるだに恐ろしい未来予想図だ。だが、ジャーナリズム研究者のニコラス・ディコポロウス氏は、恐れることはないという。

最新の著書『ニュースの自動化:メディアを書き換えるアルゴリズム』(原題:Automating the News: How Algorithms Are Rewriting the Media)のなかで同氏は、AIはジャーナリズムの仕事を破壊するどころか、新たな仕事を生み出していると論じている。

米DIGIDAYは、ノースウェスタン大学でコンピューテーショナル・ジャーナリズム・ラボ(Computational Journalism Lab)のディレクターを務めるディコポロウス氏を訪ね、今後AIがジャーナリズム、ひいてはメディア業界全体にどのような影響を与えていくと見ているのかについて話を聞いた。なお、読みやすさを考慮して、発言内容には編集を加えてある。

──まずは一番重要な点を。AIはジャーナリズムの仕事を奪うのか?

ニュース編集室でAIが使われるようになるという話が出てきた初期の頃は、AIに仕事を奪われると皆が恐れていた。ただ、私の研究では、そういった結果は出ていない。テクノロジーを使って自動化できるのは、記者の仕事のうちわずか15%、編集者の仕事の場合もわずか9%であると推定されている。

仕事に関わるすべてをAIが担うようになるという話ではなく、一部のタスク、すなわち1日の仕事のなかで人間がやっていたようなことをいくつか、AIが片付けてくれるということだ。だが、撮影や録音、人の話を聞いて反応を返す、情報提供者との交渉、相手の意見に反論する、といった仕事はどれもAIにはできない。

AIにできるのは、ジャーナリストの仕事を補強するような作業であることが多い。仕事を効率化し、ジャーナリズムというプロセスの質を高めてくれる。

我々が検討すべきなのは、ジャーナリズムと自動化をうまく組み合わせることだ。仕事の内容が変わったり、新たな役目やタスクが生まれたりすることはあっても、仕事がなくなる心配をする必要はない。しかも研究では、AIの普及で新しい役目やタスクが生まれる以上に、新しいタイプの仕事が作り出されることがわかっている。

──新しい仕事とは、どんなものなのか?

たとえばAP通信は、記事の自動生成プログラムを導入している。これはシステムが新しいタスクを作成してくれるものだが、それは人間が設定し、パラメーターやナレッジベースを追加する必要がある。データセットのコンパイルや、テンプレートの作成も人間の仕事だ。だが、それはジャーナリストが行う通常の執筆プロセスとはまったく異なるものになっている。

こうした新しい仕事では、アプローチの中心にあるのはデータなのだが、そこには編集的な性質もある。現時点でジャーナリズムと言われて思い浮かぶ仕事とは、違うものに感じられるかもしれないが、純粋にテクノロジーだけを扱う仕事でもない。ふたつを組み合わせた、ハイブリッドな仕事なのだ。

──ハイブリッド化はどれだけ進むだろうか? AIが自動で処理する仕事の量、人間が手がける仕事の程度は?

その点については、まだ研究中だ。できれば新しい仕事も人間を中心に設計され、人間のジャーナリストがやらねばならない仕事を容易にするものになってもらいたい。形態もさまざまなものが考えられるだろう。

記事の自動生成システムを使用する場合、ジャーナリストは、私が「エイリアン・ワードプロセッサー」と呼んでいる、データとロジックを挿入することのできるワープロのようでワープロではないものを使う必要がある。これを使って執筆するためには、いままでとは少し異なる書き方や考え方を習得する必要があるだろう。そうしたテンプレートを使った執筆の実用化が進めば、データを扱うのに抵抗がないジャーナリストや、より要旨の骨格がはっきりしたものを書けるジャーナリストが求められるようになる可能性がある。

そうした点については、記事の自動作成をする場合、文章の執筆にまつわる基礎ポイントをまとめた「ライティング101(Writing 101)」についてはどう考えたらよいのかなど、クラスをひとつ持てるほど語るべきことがあるだろう。ただ、記事を自動で生成するシステムの活用はますます進んでいくはずだ。たとえばBBCは今後、選挙の報道には半自動化されたシステムを使用するとしている。

さらには、ジャーナリズムの基本理念を捉え、そうした理念をアルゴリズムや自動化に、どのように盛り込んでいくかを検討する、編集用情報に基づく自動化、という考え方もある。公共メディアで使われている、ニュースフィードに表示するコンテンツをキュレーションするリコメンド用アルゴリズムなどがこれにあたるだろう。AIは新しいメディアであり、ジャーナリストたちは自分が考案したコードを使って、そこに編集理念を注ぎ込み、表現することができるのだ。

──ジャーナリズムの世界における自動化には、ほかにどんなものが出てきそうか?

現在、ラボで研究しているテーマのひとつに、記事の内容自体をパーソナライズできるか、というものがある。読者が見ている場所や好みに合わせて、文章を調整できるのか。事実の整理の仕方を変えて、さまざまタイプの読者にそれぞれアピールできるのか、などについて、いくつか用法を検討しているところだ。

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)では、ホームページのどの部分をパーソナライズおよびローカライズするかを編集者が選んでいる。見ているページによっては、編集者が選んだ記事が表示されている場合もある。そして選んだ記事を表示させると、CTRが55%上昇するという結果が出たという。

個人的には、Google、Facebook、Appleなどと聞くと思い浮かぶようなアプローチを、ニューヨーク・タイムズのようなメディアが取り入れることで、アルゴリズムを使って読者一人ひとりに異なるコンテンツをキュレートするという、非常に興味深いチャンスが生まれてくると思っている。また、編集者がコンテンツについて、より多くの情報に基づく意思決定ができるようにするためのツールが構築されるきっかけにもなるだろう。

Deanna Ting (原文 / 訳:ガリレオ)