高校サッカー選手権の決勝で静岡学園が青森山田を3-2で下し24年ぶりの優勝を飾った。

 U-23アジア選手権で、サウジアラビア、シリアに敗れ、グループリーグ敗退が決まったその翌日だからというわけではないが、日本代表絡みの視点でこの高校サッカー決勝を見つめると、大島僚太(静岡学園/川崎フロンターレ)対柴崎岳(青森山田/デポルティーボ)を連想させられる。日本代表でポジションを争う両技巧派MFである。

 優位に立っているのは柴崎だが、所属チームでは出番に恵まれず苦境に立たされている。一方の大島は怪我に悩まされ、代表で本領を発揮できずにいるが、両者がいいライバル関係にあることは間違いない。それはさておきーー
 
 両校が激突した高校選手権決勝もスコア上では接戦だった。最後まで目が離せない好試合となった。しかしサッカーの質的に一日の長があったのは静岡学園だ。劇的な逆転勝ちではあるが、妥当な勝利だった。
 
 ドリブル、パスを主体に個人技でヒタヒタと相手ゴールに迫るサッカーがその伝統的なスタイルだと言われる。今回のチームも例外ではない。しかし、それ以上にこちらの目に新鮮に映ったのは、ボールを奪う力だ。奪われてもガックリすることなく、勢いそのままに奪い返す態勢に入る。まず1人目が行き、相手が少しコントロールを乱すところを2人目さらに3人目がタイミングよく続いて迫る。集団でまさに刈り取るように奪い返すディフェンス力だ。
 
 マイボール時に発揮する個人の力には確かに光るものがあるが、相手ボール時に発揮される集団性はそれ以上だ。強さの源泉と言っていい。
 
 レベルに違いがあることを承知で言わせてもらえば、俗に言うハイプレスをここまで上手く決めるチームは、Jリーグの試合で見ることができない。日本代表、U-22しかりである。
 
 相手陣内でプレーする時間が長くなる理由だ。個人技が上手いだけではそうはいかない。この相手ボール時における集団性こそ、巧いけれどけれど勝てなかった従来との違いだ。いの一番に強調されるべきポイントだと思う。
 
 しかし、実際の報道を見ると、そこはなおざりにされている。他のチームとの決定的な違いであるにもかかわらず、静岡学園が持っている従来の魅力ばかりが連呼されている。

 その方が解りやすいし、見出しになりやすいことは確かだ。しかし、相手陣内でプレーする時間が長い状態を「圧倒的な攻撃力を誇る静岡学園は〜」と、表現するばかりでは、サッカーの潜在的な魅力は伝わらない。サッカー的ではないのだ。日本のサッカー報道が抱える問題点だと思う。 

 静岡学園が準決勝で対戦した矢板中央は、自軍ゴール前を固める、将棋で言うところの穴熊のような作戦で臨んできた。シュート数は静岡学園が24本で矢板中央は2本。支配率は公式記録に掲示がなかったので推測になるが75%対25%以上の関係だったと思う。これ以上、一方的な展開はないと言いたくなるぐらい、攻める静岡学園、守る矢板中央の構図は鮮明になった。

 テレビの実況アナは矢板中央のスタイルを「堅守速攻」だと再三口にした。しかし、ディフェンダーがゴール前に壁を造るように並ぶ守りを、はたして堅守と言えるだろうか。90分間、ほぼ守りっぱなしで、速攻も1度しか決まらなかった。

 技術的な問題も少なからずあるだろうが、早々にボールを奪われてしまった原因は、やはり静岡学園が仕掛けてくるハイプレスにあった。矢板中央が失点したのは終了間際で、確かに最後までよく頑張って守備をしたが、静岡学園は、相手が自軍ゴールに近づく機会さえ滅多に与えなかった。

 どちらが堅守かと言えば、静岡学園になるのではないか。攻撃は最大の防御とはよく言われるが、相手ゴールから遠い位置でプレーし続けることの方が、サッカー的な意味では堅守になる。ところが世の中的には、前で守る行為より後ろに下がり、ゴール前を固める行為の方が堅守だと考える。

 プレッシングという概念が厳然と存在するサッカーを、他の一般的な守備の概念に基づいて語ろうとすれば、魅力や本質は浮き彫りにならない。とはいえ、このサッカー的な思考法を言葉で表すのは簡単ではない。多くの言葉を費やす必要が生じる。少なくとも見出しになりにくい。

 プレッシングがイタリアでスタートしたのは1980年代後半になるが、日本のメディアはこれまで30年間強の間、その表現方法の追求を怠ってきた。ネット社会になり、見出しが重要視される世の中になると、報道はますます非サッカー的になった。「堅守」あるいは「鉄壁の守備」は、それを象徴する代表的なフレーズになる。

 サッカーへの理解は思いのほか深まっていない。静岡学園はいいサッカーをしたにもかかわらず、その魅力の詳細がキチンと紹介されない現実を、つい嘆きたくなる。

 青森山田は、前半の途中からなぜ守勢一方になったのか。なぜ相手陣内にボールを運べなくなったのか。サッカー的には、静岡学園の個人技が冴えたからと結論づけるわけにはいかないのである。