「取り調べ」を受けた後、カツ丼を食べる兼子光輝さん(左)。右は警察官役の女性=2019年12月22日、福島県猪苗代町

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 「カツ丼でも食べるか?」。

 刑事の温情に心が揺さぶられ、容疑者が事件の真相を語り始める。こうしたドラマでおなじみの取り調べを体験できる温泉旅館が福島県猪苗代町にある。東京電力福島第1原発事故で落ち込んだ観光客が回復しない中、温泉街の活性化につなげたい考えだ。

 「周辺への聞き込みで、あなたの目撃情報があったんです」。昨年12月22日、中ノ沢温泉の旅館案内所内の「取調室」で、警察官役の女性が「容疑者」を追及した。前日に付近の湖で水死体が発見されたという設定で、近隣住民の目撃証言から容疑者のアリバイを崩し、最終的に自供させた。

 この日、取り調べを体験した同県会津美里町の会社員兼子光輝さん(35)は、「厳しい追及で挙動不審になってしまった」と笑う。約15分の取り調べ後には、付近の食堂からカツ丼の出前が届けられた。緊張感から解放された兼子さんは、ほっとした表情でカツ丼を堪能した。

 一風変わったこの企画「出前カツ丼専門店取調べ室」を始めたのは、猪苗代町の元地域おこし協力隊の国分健一郎さん(40)。観光客減少に苦悩する温泉街を目の当たりにし、「ここでしか体験できない取り組みをしよう」と2018年5月に始めた。

 警察官役を演じるのは食堂の従業員らで、参加者とは事前にストーリーを打ち合わせる。当日は旅館「磐梯西村屋」のロビーで「逮捕」し、車で案内所に「連行」するところから始まる。申込者が希望すれば刑事役を演じることもできるという。国分さんは「徐々に認知度が高まり、県外からの申し込みも増えている」と手応えを口にした。

 なお、福島県警は「利益誘導に当たるため、カツ丼は提供していない」としている。