スペックが高い男性でも、中年になると結婚が難しくなっていくのはなぜなのか(写真:Kazpon/PIXTA)

お見合い写真を交換すれば、それで結婚が決まっていた昔とは違い、ネット婚活ができる現代は、200回も300回もお見合いをしている人たちがいる。

仲人として婚活現場に関わる筆者が、毎回1人の婚活者に焦点を当てて、苦悩や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく連載。今回は、お見合いを300回したがいまだ未婚の男性の体験から、「なぜお見合いを繰り返しても、結婚に結び付かないのか」について考えてみたい。

婚約まではたどり着くのに、結婚には至らない

「これまでの約10年で結婚相談所を3カ所渡り歩き、300回近い見合いをしてきました。その中で、結婚が決まりそうになったことも3回ありましたが、どれも直前になると話が壊れて、結婚に至ることができませんでした」


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婚活相談にやってきた、米村隆一(仮名、46歳)は、言った。身長は170センチを越えていて高く、清潔感のある顔立ちで、体型も年齢相応だ。聞けば有名私大を卒業後、上場企業に就職をし、年収も800万円近くあるという。見た目や兼ね備えている条件においては、結婚できない要素は何も見当たらなかった。

「20代の頃は、“そのうち結婚できるだろう”と高をくくっていました。でも、あっという間に30歳になり、35歳を過ぎても1人だったので、慌てて結婚相談所に入りました。それでも結婚ができない。いいところまで行くのにダメになってしまうんです。何か僕に問題があるのでしょうか?」

こう言うと大きなため息をつき、ダメになった3人の女性の話をし出した。まずは、親御さんに会った直後に態度が急変した女性の話から始まった。

「アラフォー女性でした。真剣交際に入って間もなくのこと、彼女の親御さんが地方から東京に遊びに来ると言うんです。いい機会だからと、親御さんと彼女と僕の4人で食事をすることにしました」

レストランの個室を取り、簡単なコース料理で会食をした。値段は平均よりもやや高めのお店だったが、そこの会計は女性の親御さんが支払ってくれた。

「僕は値の張るお土産を持っていったし、あちらのお父さまがスマートに会計を済ませてくださったので、遠慮なくご馳走になりました。そこから近くのホテルに移動して、ラウンジでお茶をしながら、今後の結婚に向けて具体的な話をしたんです」

しかし、その会食を終えた数日後に、彼女が、「やっぱり結婚は取りやめにしたい」と言ってきた。

「どうして態度が急変したのか、彼女の心変わりがわからなかった。あれこれ理由を自分なりに考えたんです。“親御さんが、僕を気に入らなかったのかな”とか、“最後のホテルのラウンジのお茶代を割り勘にしたからかな”とか。その日、親御さんに僕の会社の名刺を渡していたんですが、後日、お渡ししたお土産が、『これはいただかないほうがいいと思います』という手紙とともに、会社に送り返されてきた。いらないなら、捨ててくれたらよかったのに」

1度相手に贈ったものを返されるというのは、贈り手側にしたらいい気持ちはしない。それをあえてしなければならないほど、女性の両親は、彼を不愉快に思っていたのだろうか。

また、隆一には結婚が破談になった理由で、もう1つ思い当たる節があった。彼女が付き合い出した当初にしていた話にはウソが多く、それが真剣交際になってから次々に露呈していたのだ。

「お付き合いに入った当初、『貯金はどのくらいあるの?』と聞いたら、『1000万円近くある』と言うから、『随分堅実に貯めたんだね』と言ったことがあったんです。そうしたら真剣交際に入ってから、『貯金? あんなのウソに決まってるじゃない』と。最初に自分を大きく見せすぎて、ウソが次々にバレていくうちに、彼女自身がきまりが悪くなってしまったのではないかなって」

しかし、婚約が破談になった今では、真相は藪の中だ。

相談所でもブラックリストに上がった女

2人目の結婚破談女性は、前出の女性とは別の結婚相談所で出会った人だった。

「初めてのデートで彼女から手をつないできたので、“随分積極的な人だな”と思いました。ただモデルさんのように美人でスタイルがよく、男性の心のつかみ方も上手だったので、僕も急速にひかれていきました」

そして、お見合いから3カ月でプロポーズをした。

「ところが結婚を決めてから、“この女性は自分の経済力では手に負えない”と思うようになりました」

婚約指輪の話になったときのことだ。

「『婚約指輪って、いくらぐらいのものを買えばいいのかな?』と聞いたんです。そうしたら、『給料の3カ月分だから、100万円くらいでしょ』って。しかも高級ブランド品で、例えばティファニーでもデパートの中に入っているティファニーではなく、銀座のティファニー本店のような路面店で買いたいと言うんです」

また、お見合いからデートまで、1度も自分のお財布を開いたことがなかったし、結婚後も男性のお金で生活するのが当然のことだと言われた。

「お見合いやデートの費用を男が払うのは、結婚相談所の暗黙の了解事項なので、しょうがないかとも思っていました。でも、結婚したら共働きなのだから、2人のお金を合わせて家計をやりくりしていくものだと、僕は考えていました。ところが彼女は、自分が働いたお金は自分で自由にする。僕の給料で生活をしていくと言うんです。その提案には面食らいました」

彼女との結婚に戸惑い出していたときに、仲人から連絡が入った。

「『彼女との結婚はやめたほうがよい』と言われました。『彼女の言動が、結婚相談所内で問題になっている』と言うんです。どうも婚約を持ちかけられていたのは、僕だけじゃなかった。指輪もうんと高いものをねだって、買ってもらった後にあれこれ理由をつけて婚約破棄をして、その指輪だけを手に入れるか、もしくは売ってしまおうという魂胆だったんじゃないかな」

仲人からの助言もあり、婚約破棄を隆一から申し出ると、彼女はあっさりとそれを承諾した。そしてその後女性は、結婚相談所からも姿を消していた。

相手方の親の「上から目線」

3人目の破談話も、隆一のほうからだった。

「シフト制で働いている女性でした。ある習い事のインストラクターだったので、土日は忙しい。会うのは、ウイークデーの彼女が休みの日の夜でした。それも、2週間に1回のペースでしか会えなかった。デートはもっぱら彼女の地元の居酒屋さん。昼間どこか一緒に遠出するようなデートもしてみたかったので、『休みの日に合わせて、僕が休みを取るよ』と言ったんですが、休みの日の昼間は自分の時間に使いたかったようです」

とはいえ、LINEを毎日送りコミュニケーションを取るようにしていたので、なんとか婚約までたどり着くことができた。

「それで、彼女のご両親にごあいさつに行くことになったんです。彼女のご実家は、お父さんが都内下町で町工場をやっていた。小さな工場でしたが、一国一城の主。そのせいなのかすべてが上から目線で、何だか話をしていて疲れてしまいました」

隆一は、車の免許を持っていなかった。運転自体が好きではなかったし、車がなくとも、何の不自由も感じることなく生活できていたからだ。免許を持っていないと知ると、彼女の父親が呆れたような口調で言った。

「えっ、今時車の免許を持っていないの? 横浜郊外じゃ田舎だろうし、車がないと不便でしょう?」

田舎と言われたことにカチンときた。横浜郊外と言っても電車の便がよく、横浜駅や都内に出ていくには便利な場所だ。都内の中心地にある職場への通勤にも1時間かかっていない。

3年ほど前、隆一はそこに一戸建てを購入していた。

「えっ? 家を買っちゃってるの? だとすると、身動きできないねぇ。年老いたお母さんと一緒に住んでるって? 結婚したら、お母さんはどうするの? まさか同居ではないよね」

娘のことが心配なのは理解できたが、何でもズケズケと聞いてくる父親に苦手意識を持った。

「母は僕が結婚したら、“支援型サービスの付いている老人施設に行って、そこで気ままに生活をする”と言っています。自分が嫁姑問題で苦労したから、嫁さんとの同居は希望していません」

親御さんと話し、彼女の家を後にしたときにはどっと疲れ、結婚する気持ちも萎えてしまった。加えて、彼女は当初、隆一の家の近くでインストラクターの仕事を探すと言っていたのに、今の職場は辞めたくないと言い出した。

「彼女のお客さんは、仕事を終えた後に来る人たち。夜の10時くらいまではお客さんを相手にインストラクターの仕事をしないといけない。そこでの仕事を辞めないとなると、都内に住まないと難しい。僕は、せっかく買った家を手放して都内に新居を構えるのは、考えられなかった」

結局結婚後の話を詰めていくうちに、お互いの気持ちもズレていき、最終的には、隆一から婚約を白紙に戻すことを申し出た。

中年になるほどに、難しくなっていく結婚

「3回の婚約破棄を通じて、結婚が決まれば、なんらかの問題が出てくるのがわかりました。もちろん女性側にも問題がありましたが、僕自身も最後の最後で結婚へと駒を進められなかった。何かこのまま婚活を繰り返して、独身のまま一生終わるのではないかと懸念しています」

さらにこんなことも言った。

「結婚を義務だと考えないと、僕はもう結婚できないのかもしれない。一方で、そこまでして結婚しなきゃいけないのかなという気持ちもある。またもしかしたら、本当は無意識のうちに結婚から逃げているのかもしれない。相手が言ってくる条件と合わなかった。結婚詐欺のような女性に出会った。家がある、親がいる。その条件に合わない女性だから、結婚できない。そんな理由付けをして結婚を回避しているんじゃないかって」

すっかり婚活のブラックボックスに陥っていた。彼のように結婚をあれこれ理論立てて考え出すと、結婚すること自体がつらくなり、難しくなっていく。

彼だけではない。結婚相談所において中年の婚活者は、結婚に向かう真剣交際を終了したり、婚約を解消したりすることは、ままある事象だ。

なぜなのか。それは年を重ねてしまうと、背負うものも大きくなってくるからだろう。仕事のこと、家のこと、親のこと、お墓のことなど、いろいろなしがらみが出てくるのだ。

20代ならば、親も現役で働いているし、介護のことなど頭をかすめない。しかし、中年にさしかかってくると親も年老いてくるので、介護の問題が現実味を帯びてくる。今は元気でも、近い将来どうなるかわからないと思うと、親の介護を視野に入れ、住む場所や同居を考えるようになる。

また、「いい物件に出会ったから」と言って、結婚前に家を買ってしまう人がいるのだが、それは後に結婚するときの足かせになる。買った本人は、愛着があるので売ることは考えたくない。しかし、住む場所が限定されると、共働きの時代なので、その場所でいいと納得する女性も限定されることになる。

さらに親の考え方も、老いとともに変わってゆく。現役で働いていているときは「子どもの世話にはなりたくない」と思っている。しかし、現役を引退し、老いていくうちに心寂しくなっていく。そうすると、ずっと側にいた子どもを手放したくなくなるのだ。「早く結婚して出て行け」と口うるさかった親が、「結婚して、私を捨てて出ていくのか」と、真逆のことを言うようになる。

結婚とは、それまでの生活環境がガラリと変わることだ。頭で考え出し、変化を恐れると、その先の話が進まなくなる。

「何とかなる」「問題は起こったときに解決すればいい」そんなふうに思わないと結婚はできない。

“結婚”は“決断”である。

しかし、この結論にたどり着けるには、さまざまな問題が起こってもそれを凌駕できる、“この相手と一生一緒にいたい”と思う気持ちがないと難しい。それが中年になると、相手を好きになる動物的本能も鈍ってくる。恋愛スイッチが容易に入らなくなる。結果、婚活市場をさまよい続けることとなるのではないだろうか。