「ケーキ販売」コンビニだけが儲かる決定的理由
クリスマスケーキを購入する方も多いと思いますが……(写真:Natural Box/PIXTA)
小売りの現場では、早いところであれば、10月早々からクリスマス商戦に入る。クリスマスは数ある催事の中でも最も販促期間が長い。事実、あるスーパーでは秋から、「あわてんぼうのサンタクロース」と銘打っており、サンタクロースやトナカイの飾り、イルミネーションが備え付けられるなど、店内はクリスマスムード一色だった。
さて、クリスマスと言えば、ケーキがつきものだ。今年1月に実施されたマイボイスコムの調査によると、クリスマスにちなんで行うことの約3割は「クリスマスケーキを買う」が挙げられている。
低迷する「クリスマスケーキ需要」
とはいえ近年、クリスマスケーキの需要は減少傾向にある。その原因として、催事そのものの感覚が日本人に薄らいでいることが挙げられる。先述のマイボイスコムの調査では、「クリスマスを普段と変わらず過ごす」と回答した人々が全体の5割弱。2017年のクリスマスを含む催事ケーキの市場規模が前年比97.5%(富士経済)だったことからも、クリスマスケーキの不振が伺える。
この苦境に、特にあえいでいるのが個人洋菓子店だ。かつて、クリスマスは「1年分の売り上げを稼げる季節」だと認識されていた。しかし、日本人のクリスマス意識が薄らいだこと、顧客の多くがコンビニ業界に奪われたことで、個人洋菓子店の閉店が相次いでいる。
さらに原料の高騰も、それを加速させている。2017年から原料はじわじわと上がり、人件費も相まって原価50%(飲食店を継続して運営するうえで、目安となる原価率は30%と言われている)。結果、個人洋菓子店の倒産件数は今年10月までに43件、過去最多を更新すると予測されている。
ケーキを囲む状況の変化に苦しむのは、百貨店業界も同じだ。2019年11月の各社の売り上げを見ると、2カ月連続で前年同月比を下回っている。減少となったのが三越伊勢丹、高島屋、J.フロント リテイリングの3社。スイーツの贈答用としての需要減少が続く中、いちばん稼ぎ時である12月のクリスマスケーキは軽減税率の対象品であり、彼らにとって頼みの綱とも言える。
ケーキを販売する会社の多くが苦しむ中、唯一成功している業界がある。それがコンビニ業界だ。コンビニ各社は、10月1日から始まるクリスマスケーキの「予約販売」にも積極的である。
今年のローソンのカタログを見ると、まず1ページ目からチョコレートでコーテイングされた高級感漂うクリスマスケーキをどんと載せている。価格はなんと7560円(税込)。ローソンと言えば、コマーシャルでも頻繁に高級感漂うブランドとコラボした商品が紹介され、通常のスイーツ価格は300円以上に設定されることが多い。消費者には「ローソンのケーキは高級感がある」というイメージが定着しており、それが強気な価格設定を可能にしている。
セブンーイレブンは人気アイドルグループKing & Prince プロデュースの2000円台のケーキを充実させた。ファミリーマートは、食品ロスを減らすためケーキすべての販売を完全予約制に切り替えた。
売り場からも、各社のこだわりが見える。11月からセブンーイレブンとミニストップ、ローソンは「ザッハトルテ(チョコレートケーキの1種)」を販売している。総務省が発表する家計調査を2000年から年ごとに見ると、チョコレートはじわじわと支出が増え、2016年にはせんべいを追い越した。今では首位のケーキの支出額と僅差だ。
統計局「家計調査通信第540号(2019年2月15日発行)」より
ザッハトルテなら、ケーキ好き、チョコレート好き両方の需要を取り込める。11月にザッハトルテでケーキのクオリティーを確認してもらい、12月のクリスマスケーキの販促につなげるといった施策も成立するだろう。
ケーキを売る業界に求められること
コンビニ業界が消費者の動向にいかに敏感かがわかる。では、不調の百貨店業界や、個人洋菓子店はどうすればいいのか? あえて提言するなら、2つのことが言える。
まず、「ショートケーキからの脱却」が必要だろう。ケーキといえば、多くの人にとって生クリームにいちごを組み合わせたものが定番だ。いちごは1980年代から、日本人の好きな果物ランキングで不動の1位である。しかし、対象を60歳以上に絞ると2位に落ちる。その理由は、イチゴのつぶつぶが入れ歯に挟まって、痛みにつながってしまうからだという。
高齢化に伴って、ショートケーキの代わりとなるケーキの需要が高まるはず。先述したザッハトルテが好調のように、ショートケーキ以外の定番商品を考える時期に来ているのかもしれない。
2つ目は、「潜在ニーズの掘り起こし」だ。総務省によると、今年だけで日本の人口は約44万人減った。ケーキを食べる人も今後、確実に減っていく。そんな中、ごく当たり前のことだが、1人ひとりの客の好みに丁寧に開拓することが求められる。
2007年、ファミリーマートが「男のシリーズ」という男性向けスイーツの発売をきっかけに、男性客の開拓に成功した。2009年には、ローソンが「プレミアムロールケーキ」で、「コンビニロールケーキ」ブームを牽引した。
今年は、定着しづらいと言われるチーズケーキの分野で、ローソンの「バスチー(バスク風チーズケーキ)」が発売3日で100万個を売り上げるなど大きな注目を集めた。
コンビニ各社は、新商品による潜在ニーズの開拓に余念がない。百貨店業界も個人洋菓子店もここに力を入れないと、さらにコンビニ業界の勢いに呑まれてしまうにちがいない。