デジタル版有料購読者の数を増やそうとするニュースパブリッシャーにとって、海外の読者は重要な存在であり、その重要性はますます高まってきている。

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のCEOを務めるマーク・トンプソン氏は11月6日、同紙デジタル版購読者数の20%を海外からのオーディエンスが占めており、2025年までの獲得目標としている購読者数1000万人のうち、少なくとも5分の1は海外からの読者になるだろうと予測していることを明らかにした。

英紙ガーディアン(The Guardian)が世界的に成長を果たした裏でも、海外の読者が大きな役割を果たしていた。同紙の2018年度総収入を見ると、アメリカとオーストラリアの読者からの収入が全体の14%を占めている。また、同紙の海外在住購読者のうち、アメリカからの読者が占める割合は30%なのにもかかわらず、2018年度にガーディアンが受け取った寄付額のうち、50%がアメリカの読者から寄せられたものだったという。

ワシントン・ポスト(The Washington Post)も、海外の読者に向けた大規模なプランを用意している。同紙は11月20日、インドのモバイルアプリユーザー向けに、ジオターゲティングを活用したサブスクリプションプランを提供すると発表した。これは、毎月99ルピー(約150円)で、すべての記事が読めるというものだ。

一部だけでもグローバルな読者を対象とした記事を掲載しているニュースサイトが、海外からの有料購読者獲得に取り組むのは当然だろう。ニューヨーク・タイムズのようなパブリッシャーともなると、野心的な有料購読者数目標を達成する必要があるのかもしれない。しかし多くの市場において、ニュースサブスクリプションというコンセプト自体が、まだ足場固めの段階にあり、パブリッシャーのほとんどは依然として自社のコアなオーディエンスに力を入れている。アプローチとしても、既存の製品を国際市場で販売できるよう最適化するにとどまっており、記事やプロダクトの一部分を切り出したり、海外の読者向けに別バージョンを作成したりといった取り組みはそれほどなされていない。

やれることからやるNYT

「グローバル市場へのアクセスは、世界各国にコストセンターを構築するといった大規模な取り組みからではなく、当社のコアであるニュース報道の強さと、価格設定とマーケティング戦略の改善から主に実現できると考えている」と、ニューヨーク・タイムズCEOのマーク・トンプソン氏は、最新の収支報告カンファレンスコールでアナリストたちに語った。

「(有料購読者数)目標を達成するために、現場のジャーナリズムを大きく拡大していく必要があるとは考えていない。パーソナライゼーションを強化し、購読者の傾向に注目し、価格設定とマーケティング戦術イニシアチブを改善することで目標を達成していく」。

ニューヨーク・タイムズの海外有料購読者数は、2012年にマーク・トンプソン氏がCEO就任して以来、ほぼ10倍に増加しており、現在では約52万5000人に達している。同社は今後6年間で、その数が4倍に増加すると予測しているという。

こうした成長を大きく支えてきたのが、米国のニュースと政治に関する報道記事だ。だがニューヨーク・タイムズは、そのアプローチを若干変更してきている。今年9月には、スペイン語のオリジナルニュースとスペイン語に翻訳したニュースを取り混ぜて毎日公開していたプロジェクト、NYTエスパニョール(NYT en Español)が終了した。元スタッフによれば、NYTエスパニョールは独自のCMSを含め、独立した製品として運用されていた、ほかとは性質が異なるプロダクトで、専用のセールスインフラやサブスクリプション用インフラも整備されていなかったという。ほかにも同紙は、フランス語版と中国語版を毎日公開するなど、いくつか実験的取り組みを行っていた。同紙の広報担当者は、こうした取り組みがどのように行われているかについての質問には回答を避けた。

ガーディアンは大胆に展開

この秋、ガーディアンが7年ぶりにブランド広告キャンペーンを展開すると決めた理由のひとつには、世界中に同じメッセージを伝え、同じ価値提案をしたいという狙いがあった。屋外広告から従来型のテレビ放送、ポッドキャスト広告まで、さまざまな媒体に出された広告のメッセージは、全世界で同じものに統一され、読者からの収益増に焦点を当てたものになっていた。ガーディアンは、有料会員と寄付者を2022年までに200万人にまで拡大することを目指しているという。

またガーディアンは、異なる市場の異なるプロジェクトに同じような戦術を用いて成功を収めてもいる。同紙は現在までに6つの報道プロジェクトを立ち上げており、そのうち4つはアメリカに拠点を置くものだ。過去12カ月間に30万人のアメリカ人読者が、1回限り支払う形で、またはデジタル版の定期有料購読を通じてガーディアンに何らかのお金を支払っているという。

グローバルな有料購読者基盤構築には、多くの課題もある。ロイター研究所(Reuters Institute)の調査によると、ここ1年でニュースに対して何らかの料金を支払ったことがあるアメリカ人の割合は全体のわずか16%であり、ほかのほとんどの国でも、この割合が下がるとまではいかなくても、ほぼ変わらないことが判明している(ノルウェーとスウェーデンは、これに当てはまらない注目すべき例外だ)。

まずは市場を創出するWP

また、国際決済システムを導入すると複雑さも増してしまう。EUの場合、どの加盟国でもその国の市民に販売されるデジタル商品やサービスには付加価値税がかかるが、その税率は国によって異なっており、会計処理がいっそう複雑になる。

しかもデジタルサブスクリプションというのは、各国市場において比較的新しいコンセプトだ。一部ニュースパブリッシャーの動きが、短期的な収益の最大化よりも、市場の教育に重点を置いているように見えるのも、そのあたりに理由があるだろう。

たとえば、ワシントン・ポストがインドでスタートさせたアプリのサブスクリプションは、有料購読者1人あたりの年間売上が約17ドル(約1846円)で、そこからさらにAppleとGoogleそれぞれのアプリストアが取り分を差し引くというものだ。同紙が提供している通常のデジタルサブスクリプションは、有料購読者がデジタル版のコンテンツに無制限にアクセスできるもので、年間料金は100ドル(約1万800円)だ。

「まずは実験するしかない」

「特定の市場について、自社のブランドがどのようなポジションにあるのかは実験してみなければわからない」と、ペイウォールプロバイダーピアノ(Piano)で戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるマイケル・シルバーマン氏は語った。

Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)