Image by iStock

写真拡大

医者の技術不足

都内の大学病院に勤める麻酔科医が明かす。

「私が実際に立ちあった手術の話です。胸椎と呼ばれる胸の脊椎が神経を圧迫していたため、上から10、11個目の胸椎の一部を切除する手術を行うことになりました。

手術する胸骨を間違えないように、体の表面にマーキングをしていましたが、手術する部位を開いた際に、目印と手術部位がズレてしまったのです。通常ならば手術中にX線写真で位置を確認するのですが、それを怠ったせいで、誤って1個上の9、10個目の胸椎に施術してしまった。術中に誤りに気付き、急遽11個目の胸椎も切除しました。

明らかなミスですが、麻酔から目を覚ました患者に『開けてみたら、1個上の胸椎にも問題があったから、一緒に手術しておきました』と説明していました」

Image by iStock

脊椎の場所を間違える。信じられないようなミスだが、実はこうした初歩的な勘違いは決して少なくない。「医療事故情報収集等事業第18回報告書」によれば、'04年10月から'09年6月までの約5年間で報告されているだけでも同様の事故が17件も起きている。

前出の麻酔科医は語る。

「麻酔をするためにさまざまな科のオペに呼ばれますが、婦人科や耳鼻咽喉科など、専門分野が狭い医師は、知識が偏っていて術中の急な事態に対応できなかったり、そもそも手術の技術が不足しているケースが多いと感じます」

実際に、卵巣がんの手術を行った産婦人科医が、転移の見られたリンパ節や腸の切除を行った際に、誤って、膣から膀胱にかけて穴をあけてしまうことがあったという。

「膀胱膣瘻といって、膀胱と膣の間に穴があき、膣から尿が出るようになってしまうのです。直腸膣瘻といって、直腸と膣の間に穴があいて、膣から便が出てしまうケースもある。一生、感染症を抱えて生きていかなくてはならないのです」(前出の麻酔科医)

腸を切るなら、消化器外科医と連携して手術しなくてはならなかったのに、自分たちで勝手に施術して、とんでもないミスを犯しているのだ。

偉い医者ほどミスする

患者は、病院の院長や大学の教授に執刀してもらえるということになったら、「偉い先生に執刀してもらえることになったから、安心だ」と言って喜ぶだろう。だがここにも落とし穴がある。フリーランスの麻酔科医の筒井冨美氏が話す。

「毎週2回以上、コンスタントにオペをしている医師は失敗しにくいですが、病院の院長や教授など、管理職にあがった医師は現場から退いている場合が多く、手術の技量が落ちていることもあります」

外科医は執刀経験がものを言う。現場から離れていたら、技術の低下は避けられない。特に、注意しなくてはならないのは血管だ。

「血管がどう走っているかは、個人差が大きい。だから、術前に造影CTを撮って血管の様子を確認しておいても、また実際に開腹しても、すべての血管の位置を瞬時に把握できるわけではありません。

特に、脂肪があると血管が隠れやすいうえに、脂肪自体にも毛細血管があるため、肥満や内臓脂肪が多い人は施術が難しい。手術の勘が鈍っていると、大量出血させて死なせてしまうことさえあるのです」(赤羽病院副院長の森田博義氏)

麻酔で眠っている患者が知らないだけで、手術室という密室では、日常的にミスが起こっている。

『週刊現代』2019年8月10・27日号より