韓国では「ボイコットジャパン」運動の一環で、日本行き観光客が激減している。写真はインチョン空港のチェックインカウンター風景(2019年7月撮影、写真:YONHAP NEWS/アフロ)

今年7月から始まった日本政府の経済報復(輸出規制)に驚愕した韓国は、不買運動で対抗中だ。

植民地支配の時代から重なり続けてきた根深い反日感情から、不買運動を行っているのではない。韓国が長期間、日本との貿易などの経済面で莫大な損害を被っており、今回はその深刻さを改めて感じ、危機意識が生じたという側面もある。

その危機意識とは具体的に何か。そのためには国際取引での主要指標である、経常収支の推移を確認する必要がある。経常収支とはモノの輸出入やサービス取引、対外直接投資の収益などの合計で、貿易収支はこのうち、モノの輸出入の収支を指す。

2004年以降は毎年200億ドル以上の赤字

韓国の貿易収支を見ると、対日貿易収支の赤字幅は想像を超える規模だ。韓国貿易協会によれば、1965年の国交正常化以降2018年までの54年間、韓国の対日貿易赤字の累積額は6045億ドル(約64兆円)に達する。1965年に1.3億ドルだった赤字規模は、1974年に12.4億ドル、1994年には118.7億ドルへ膨らんだ。


1998年に一時的に46.03億ドルにまで減少したが、2000年代に入り幾何学級的に増加した。2010年に361.2億ドルと過去最悪の貿易赤字を記録して以降、同年代に年間貿易赤字額が200億ドルを下回ったことはない。2018年も240.8億ドルの赤字となり、韓国の貿易相手国のうち、対日赤字が最大だった。

1965年以降、対日貿易で韓国が黒字になったことは一度もない。今年上半期も、100.5億ドル以上の貿易赤字となった。

2018年に赤字となった主要品目を見ると、「原子炉・ボイラー・機械類」(▲85.7億ドル)、「電気機器・録音機・再生機」(▲43.3億ドル)、「光学機器・精密機器」(▲35.7億ドル)となっている。

このほか輸入額が多い品目としては、半導体製造装置の52.4億ドル、中央演算処理装置(CPU)とメモリーなど集積回路19.2億ドル、精密化学原料19億ドル、プラスティックフィルムとシート16.34億ドルなどがある。それぞれ韓国の製造業で大きなシェアを占める半導体とディスプレイ製造に核心的な部品と素材だ。

今回、日本政府が輸出制限を発表した3つの品目も、これに該当する。赤字総額240.8億ドルのうち、150億ドル以上が部品・素材から発生したものと把握されている。

2000年代以降、対日赤字が急増した理由

共通しているのは、これらの部品・素材は不買運動を繰り広げる一般消費者にとってなじみの深い「消費財」ではなく、企業向けの「産業財」であるということだ。この機会に韓国製造業が持つ現在の体質を強く改善しない限り、産業財に対する高い依存度と対日貿易赤字を解消することは簡単ではない。

1965年から1980年代までは対日貿易で赤字を出しながらも、その規模は深刻なものではなかった。ところが、2000年代以降、その規模が急増した。その理由は何か。専門家らは、この頃から韓国の対日輸出の規模が減少した背景に注目する。

韓国の中央銀行である韓国銀行の金融通貨委員だったチョン・スンウォン氏は「昨年の韓国の輸出全体において、日本が占めるシェアは5.3%へ急減した」と言う。2000年のシェアは11.9%で、30年前は20%程度だった。G2(主要2カ国)として浮上した中国が急速に経済成長したうえ、貿易相手国の数が増加したことで、貿易全体に占める日本の存在が相対的に低下したこともある。

輸入に占める日本の割合も、2000年の19.8%から2018年は11.5%へ縮小した。ただ、日本市場で韓国製品がこれまでのように売れなくなったことも指摘されている。とくに中国が低賃金の労働市場で確保した価格競争力や短期間で積み上げた技術力を蓄え、製造業の分野で韓国のライバルとして急浮上した。その結果、中国産製品が世界市場で韓国産に置き換わるケースが2000年代以降急増した。

日本でも2010年以降、状況はさらに悪化した。POSCO経営研究院のチャン・ユンジョン所長は「2010年代以降、半導体を除く製造業すべての業種が、生産と輸出において2000年代よりも厳しい状況に直面した。この10年間、韓国製造業の生産額のうち、輸出が占める比率が10.5%から2.8%へ、付加価値創出額の比率も9.2%から4.5%へと減少した」と指摘する。2012〜2018年、韓国の製造業の生産額の増加率は年平均2.9%、同期間の国内総生産(GDP)成長率は3.0%にも届かなかった。

韓国からの輸出品の影響力が日本で弱まる間に、韓国は対日輸入シェアの減少とは関係なく、部品と素材の日本への依存度を下げることができなかった。原材料をつくる主力産業(輸出)分野で、日本の部品・素材技術に依存せざるをえなかったためだ。

1970年代から中間財を海外から購入し、国内で組み立てる加工貿易中心の輸出戦略を駆使した韓国としては、日本は地理的に近く、低コストな流通が可能だったことに加え、技術力と資本力を兼ね備えた日本企業が多かったため、中間財導入ではすべて日本に頼ってきた。

1990年代から高い対日依存度を引き下げ、技術力を育てて国産化比率を高めるべきという声が高まった。しかし、1990年代末のアジア金融危機と2008年のリーマンショックなどで企業の苦境は拡大し、これといった成果を出すことができなかった。

大企業に部品・素材を供給する中小企業をきちんと育成するよりは、大企業は中小企業から搾り取ることしか頭になかった。いわば、偏った産業構造を改善できなかったということだ。結局、これといった代案がないまま日本産の部品・素材に頼り続けた結果が、2000〜2010年代の巨額の対日貿易赤字だった。

旅行などの貿易外収支も対日赤字が続く

韓国は旅行に関する収支などからなるサービス収支でも、対日赤字を記録中だ。韓国銀行によれば、2012年のサービス収支は36億ドルの黒字を記録したものの、2015年には赤字となり、2018年まで赤字続きだ。2018年の対日サービス赤字は28億ドル。これは、日本に旅行する韓国人旅行客が急増したことが大きい。

旅行収支は2012年以降悪化し、2014年から赤字幅が拡大している。昨年の対日旅行赤字だけでも34万ドルとなった。韓国観光公社によれば、2010年に韓国を訪れた日本人は302.3万人で、日本を訪れた韓国人は243.98万人だった。しかし、2018年に日本を訪問した韓国人は753.9万人となり、韓国を訪問した日本人294.9万人の2.5倍となった。

最近の不買運動の流れで日本への観光旅行のキャンセルが増えていることで、今年の旅行収支は改善される可能性が残されている。旅行業界によれば、韓国トップの旅行代理店ハナツアーの日本行き商品の新規予約者数は7月、1日平均500〜600人程度。1100人程度はいた以前の予約者数から比べると半減している。他の旅行代理店も同様な状況のようだ。ただ、日本国内で反韓感情が深まり、韓国を訪れる日本人観光客が減る場合、ある程度相殺することもありうるだろう。

また、韓国資本が日本で企業を設立することよりも、日本資本が韓国で企業を設立するケースが多い。昨年、韓国への外国人直接投資残額269億ドルのうち、日本からは21.4%を占めていた。

(イ・チャンギュン記者、2019年8月12日号。
編集部で原文を一部編集、改変しています)