日本中にブームを巻き起こした大ヒットドラマの続編がついに始動です(写真は2013年放送の前作ポスター、撮影:今井 康一)

5月23日、マスコミ各社がドラマ「半沢直樹」(TBS系)の続編決定を報じました。待望の続編は2020年4月からの放送で、主人公の半沢直樹を演じるのは、もちろん堺雅人さん。第一弾が放送されたのは2013年だけに、7年ぶりの続編となります。

当時を振り返ると、視聴率は19.4%、21.8%、22.9%、27.6%、29.0%、29.0%、30.0%、32.9%、35.9%、42.2%(ビデオリサーチ、関東地区)と、一度も下がることなく右肩上がり。なかでも最終話の42.2%は平成の連ドラ最高記録であり、「令和という新しい時代の続編はどんな結果を残すのか」と早くも期待が集まっています。

ただ、7年後の続編に、「待ってました」「絶対に見る」と歓喜の声をあげる人だけでなく、「遅すぎる」「機を逸した」という冷めた目線の人も少なくありません。「半沢直樹」の続編は、なぜ7年の年月を要し、どんな内容が予想されるのでしょうか。

主要キャストは絶対に変えられない

これほどのヒット作になると、当然ながら主要キャストの変更は避けたいところ。日本中の人々が、キャラごとに「この俳優」というイメージを持っている中、相当な事情がない限り変更したことに対する失望は免れないからです。

さらに問題を難しくするのは、視聴者の批判が、制作サイドに対する「なぜ変えた?」だけでなく、俳優個人に対する「なぜ降りた?」「なぜ受けた?」にも及ぶこと。役を降りる俳優も、新たに演じる俳優も、批判の対象になってしまうため、「他作のように断れない。受けられない」という難しさがあるのです。どちらも、第1弾の放送以降、ドラマに対するSNSの書き込みが定番化したことによる弊害と言っていいかもしれません。

半沢直樹」で言えば、半沢直樹を演じた堺雅人さん、宿敵の大和田暁を演じた香川照之さん、金融庁検査官の黒崎駿一を演じた片岡愛之助さん、営業二課部長の内藤寛を演じた吉田鋼太郎さん、頭取の中野渡謙を演じた北大路欣也さん、妻の半沢花を演じた上戸彩さんは、変えられないところ。さらに、同僚であり友人の渡真利忍を演じた及川光博さんと、近藤直弼を演じた滝藤賢一さんも人気キャラであり、変えたくないところでしょう。

また、「半沢直樹」放送後にそれぞれの俳優がキャリアアップしたことも続編を難しいものにしました。堺雅人さんが大河ドラマ「真田丸」(NHK)の主演を務めるなど国民的俳優になっただけでなく、片岡愛之助さん、吉田鋼太郎さん、滝藤賢一さんなどは、なかなかスケジュールが取れない人気俳優になりました。

ただ、原作小説の続編には、大和田や花の出演機会がないなど、「人気キャラの見せ場があるとは限らない」のも大きな問題。人気キャラが出ないと「なぜ出さない」と言われ、原作を脚色して登場シーンを作ると「余計なことをするな」と言われてしまうため、制作サイドにはできるだけ多くの人を納得させる適切なプロデュースが要求されます。

続編が制作されない理由をめぐる憶測

第1弾の放送後、続編が制作されない理由について、さまざまな媒体で憶測を含む記事が錯綜。「堺雅人が避けている」「俳優のスケジュールがまとまらない」「TBSが俳優と原作者を怒らせた」などの声が挙げられていました。

ただ事実として揺るぎないのは、原作者の池井戸潤さんとTBSの関係は、2013年の「半沢直樹」以降、良好そのものであること。2014年に「ルーズヴェルト・ゲーム」、2015年に「下町ロケット」、2017年に「陸王」、2018年に「下町ロケット2」が放送され、いずれもヒットしました。

さらに2019年も、2月公開の映画「七つの会議」をTBSのスタッフが手がけたほか、7月から「ノーサイド・ゲーム」が予定されるなど、一年に一作ペースで実写化してきたことから、池井戸さんが「半沢直樹」の続編にストップをかけることは考えられません。

一方、主演の堺さんは、「半沢直樹」以降、2013年と2014年に「リーガルハイ」(フジテレビ系)で毒舌の弁護士、2015年に「Dr.倫太郎」(日本テレビ系)で穏やかな精神科医、2016年に「真田丸」で知略に長けた武将、2017年に映画「DESTINY 鎌倉ものがたり」で怪事件を解決するミステリー作家、2018年に映画「北の桜守」では老いた母に寄り添う米国企業の日本社長を演じてきました。

ほぼ1年に1作ペースであり、それぞれ役柄のギャップが大きいことから、堺さんがいかに出演作を吟味しつつ全力投球している様子がうかがえます。そのおかげで、今ではすっかり、「堺さん=半沢直樹」というイメージは薄れ、堺さんにとっては「演じられる引き出しのひとつ」という位置づけになりました。

また、堺さんは「リーガルハイ」の続編に出演する際、「息の長い作品に参加できることは、役者にとって大きな喜び」とコメントしたように、必ずしもシリーズ作を避けているわけではありません。ただ、完成披露試写会では一転して、「マンネリ気味で現場にいい空気が流れていない」と話す一幕もありました。会場を盛り上げるブラックジョークの意味があったにしろ、まったく感じていなければ出ない言葉だけに、「やはり俳優の醍醐味は続編ではないと感じているのだろう」とみなされるようになっていたのです。

成功した第1弾の熱量を再び持てるか

堺さんに限らず俳優は、さまざまな人物を演じることが仕事であり、醍醐味そのもの。ある役柄を立て続けに演じることは、幸せな部分こそあれ、仕事の幅を狭め、醍醐味を減らし、技量の進歩を止めかねない上に、視聴者に役柄を自分と同一視されかねないリスキーなものです。

「それを望んでいる視聴者やスタッフがいる」「拒否するのは原作者を含めて多くの人々に失礼」という配慮から公の場でコメントすることはありませんが、私が直接会って尋ねた主演クラスの俳優たちは、続編に出演することのジレンマを隠そうとしませんでした。

その点、役柄と自分を同一視されることを承知でシリーズ作に出演し続けている「相棒」(テレビ朝日系)の水谷豊さん、「科捜研の女」(テレビ朝日系)の沢口靖子さん、「ドクターX 〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日系)の米倉涼子さんは、例外中の例外。ただ、多くのファンを喜ばせている反面、他の作品に出演しづらくなっているのも事実であり、いかに覚悟をもって演じ続けているかがうかがえます。もちろん両者に俳優としての優劣はなく、「活動スタンスが異なる」というだけのことにすぎません。

続編制作にあたる際、モチベーションの点でネックになるのは、俳優だけではなく、プロデューサー、演出家、脚本家などのスタッフも同様。よほどの大作でない限り、「続編ありき」で制作する連ドラはほとんどなく、全力投球で挑むことが多いため、「第1弾の熱量を再び持てるのか?」「あのときを超えるのは難しいのではないか?」という自問自答を余儀なくされるのです。

実際、私は民放各局のプロデューサーや、連ドラの脚本家に会うと必ず、「『〇〇〇』の続編はありますか?」と尋ねるようにしていますが、「やろうと思っても第1弾を超えられない」と難色を示すか、「視聴者と局内の声に押されてやるしかなかった」という発言をする人がほとんど。「作り手たちは、それくらい1本の作品に賭けている」ということなのです。

加えて「半沢直樹」は、「相棒」「科捜研の女」「ドクターX」のような一話完結型ではなく、5週間をかけて大きなテーマを追う複雑な物語。原作こそありますが、それを1冊5話に分割した上で、各話の終盤に盛り上がるようなストーリーに脚色するのは、想像以上に難しいことなのです。

2部構成で物語の面白さは鉄板

半沢直樹」の続編は、「半沢直樹シリーズ」の残り2作である「ロスジェネの逆襲」「銀翼のイカロス」の映像化として予定されています。

第1弾の最終回は、銀行内の不正を明らかにした半沢が「出向を命じられる」という衝撃のシーンで幕を閉じました。続編は半沢が出向先の東京セントラル証券に赴任するところからスタート。

つまり、登場人物たちがガラッと変わるのですが、もちろん出向元の東京中央銀行も大きく関わってくるだけに、第1弾と同様に「絶体絶命と下剋上」「二転三転の逆転劇」の物語が見られるでしょう。ここで詳しい内容は書けませんが、第1弾に続いて小説2冊を贅沢に使った2部構成が予定されている上に、「ロスジェネの逆襲」は「シリーズ最高傑作」の呼び声も高いことから、「物語は不安なし」と言っていい気がします。

ただ、演出の面で第1弾の世界観を踏襲するかは未知数。「現代版『水戸黄門』と言われたほど、けれんみたっぷりの勧善懲悪は7年過ぎた2020年でも受け入れられるのか?」と言われれば疑問を持たざるをえないからです。

事実、そのほかの池井戸作品も勧善懲悪をベースにした点は変わらないものの、「陸王」「下町ロケット2」の敵役は「半沢直樹」ほどの憎々しさはなく、それぞれ事情のある悪人というイメージでした。「半沢直樹」以降、「倍返しだ」のような決めゼリフがなかったことも含めて、演出の面では、令和になり2020年代に入ったことに合わせた変化が見られるのではないでしょうか。

また、伊與田英徳プロデューサーは、これまで池井戸作品で、吉川晃司さん、松岡修造さん、古舘伊知郎さん、阿川佐和子さんなど、サプライズ色の濃いキャスティングで視聴者を驚かせてきただけに、この点でも期待していいでしょう。

気は早いですが、もし来年春放送の続編が成功したら、さらなる第3弾や映画版の可能性もふくらみます。続編で「半沢直樹シリーズ」の計4冊を出し切る形になりますが、「下町ロケット」の続編をスピーディーにリリースした池井戸さんなら実現可能であり、放送局のTBSや出版社にとっては願ってもない話でしょう。

2017年に7年ぶりの続編が放送された『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)、2014年に13年ぶりの続編が放送された『HERO』は、おおむね好評でした。やはりヒット作の続編は、「賛否はあっても見たくなる」「けっきょくコンテンツの力が強い」だけに、「半沢直樹」の続編にも期待していいのではないでしょうか。いずれにしても、あのBGMを聴けば興奮がよみがえるのは間違いありません。