EVモーター生産能力2倍へ、明電舎の不安
「新工場は既存工場で約10年育んだノウハウが生かされる」。甲府明電舎の天沼周二常務は、敷地内にできあがりつつある建屋を見つめる。
モーターの製造は、人手による作業が多い巻き線工程と自動化ライン中心の組み立て工程に大別される。甲府明電舎の阿部浩EV製造部長は「組み立て工程も2009年の立ち上げ当初はラインではなくセル生産。組み立て工程の全てを数人のメンバーで一人ひとりやっていた」と振り返る。
転機になったのは、PHVへの供給が決まった13年。生産量が上向いた。ただ、阿部部長は「正直、ここまでの規模になるとは」と本音を漏らす。明電舎は変圧器など受注品が多いため、「車用の量産ラインを手がけることは想像できなかった」(阿部部長)。
量産ラインの立ち上げには、甲府という地の利もあった。甲府明電舎は1943年に操業した明電舎の100%子会社。小型モーターの開発から生産までを一貫して手がけており、フォークリフト用モーターなどグループでは数少ない量産品のラインを置く。見よう見まねでラインを試作し、「一つの作業を1秒、2秒縮める積み重ね」(天沼常務)で、リードタイムは3割縮まった。
既存工場はフル稼働に近い。中国のEV市場などを見据えれば、新工場が稼働しても需給は逼迫(ひっぱく)する可能性が高く、楽観視できない状況にある。
懸念されるのが、人手不足の深刻化だ。18年の山梨県内の有効求人倍率は1・47倍で前年より0・11ポイント上昇した。9年連続の上昇で、3年連続1倍台となっている。有効求人数(月平均)は前年比6・8%増の1万8244人で統計開始以来最多となった。求人数が求職者数を大きく上回る状況が続いている。甲府明電舎の担当者も「10社以上の人材派遣会社に声をかけている」と悲鳴をあげる。
明電舎は官公庁や電力会社向けのインフラ事業が主力で、下期(10―3月期)に業務が集中するため、これまで上期に黒字を計上したことがない。経営資源の有効活用のためにも「上期と下期の平準化が一番大きな課題」(三井田健社長)。EV用モーターなど産業システム部門の全体に占める割合をどこまで増やせるか。収益構造の転換にはモーター新工場の安定稼働が一つのカギになる。
(文=栗下直也)
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