Amazonのジェフ・ベゾス氏が4月11日、株主への年次書簡を公開した。その内容は、いつものように、Amazonが次にその力をどこで行使しようとしているか、ヒントが詰まったものとなっている。

まず明確にしておくと、Amazonの力は絶大だ。ベゾス氏はAmazonの規模と市場における影響力を小さく見せようとして、「Amazonは現在、グローバル小売のなかではまだ小さなプレイヤーだ」と書いたうえで、小売の約90%はまだオフラインであり、Amazonの市場シェアはまだ1桁だと指摘している。それはそうだが、2018年に2320億ドル(約26兆円)を売り上げた企業を小さなプレイヤーだとするのは、誤解を招く。

ベゾス氏は、Amazonのとんでもない規模を小さく見せようとしている以外に、Amazonのファーストパーティとサードパーティの小売事業に関する詳細、単独で300億ドル(約3兆円)の事業であるAmazon Web Services(AWS)の今後の計画、およびAmazonの小売実店舗の状況を説明し、また、従業員向けにAmazonでの生活についてうかがわせている。この記事では、年次書簡の押さえておくべきポイントを手短にまとめる。

重要な数値



小売り:



58%:Amazonにおけるフィジカル販売の総商品売上高に占めるサードパーティセラーの割合(2018年)。最初の1999年が3%で、以降、着実に増大している。
1600億ドル(約18兆円):2018年のサードパーティの売上総額。年成長率は52%。
1170億ドル(約13兆円):2018年のファーストパーティの売上総額。年成長率は25%。
950億ドル(約11兆円):イーベイ(eBay)の2018年の総商品売上高(比較のため)。

ストア:



10:Amazon Goのストア数。

Alexa:



1億:これまでに購入されたAlexa対応デバイスの数。
150:市場のAlexa対応製品数。
8万:Alexaの既存のスキル数。

サードパーティセラーの興隆



ベゾス氏は書簡でまず、サードパーティの売上がファーストパーティの売上を上回っていることを強調している。在庫管理、決済処理、発送トラッキング、国際発送、売上レポートといったセラー向けツールのほか、フルフィルメント by Amazon(FBA)とプライム会員の成功をベゾス氏は取り上げている。

サードパーティセラー向けツールへのこうした投資は、ショッピング体験を向上させセラーがAmazonによる小売事業と競争できるようにするものであり、小売業界では類を見ないとベゾス氏は述べている。そして、水面下ではこれ以外のものが進んでいる。Amazonは現在、ファーストパーティセラーおよびサードパーティセラーにまたがる小売事業の手直しを進めており、中小のセラーをファーストパーティから外し、代わりに有名ブランド、Amazon限定ブランド、およびAmazonのプライベートブランドによるビジネスに注力することを目指している。引き換えに、サードパーティのマーケットプレイスでは、セラーの自主性が高まるだろう。これは、セラーができることを増やすとともに――ちょうど先日、Amazonは顧客のデモグラフィクスデータを含む改良したサードパーティ向けであるブランドアナリティクス(Brand Analytics)向けのプログラムの追加を発表した――Amazonの従業員をほかの取り組みのために開放することにもなる。

オーカ・パシフィック(Orca Pacific)のCEOのジョン・ギオーソ氏は、「セラー関係へのAmazonのアプローチは『手放し』に向かっている。つまり、サードパーティセラーができるだけ自律的に、独自に営業できるようにするための取り組みを目にすることになるだろう」と語った。

AWSのレベルアップ



ベゾス氏はまた、Amazon Web Services(AWS)を重要と位置付けている。AWSはAmazonのクラウドコンピューティング部門(収益は300億ドル)であり、情報を大量に処理するニーズが高まるなか、クライアントパートナー向けの専用データベースを稼動させている。現在、マイクロソフトやGoogleといった競合企業が同じような事業で小売クライアントの獲得に躍起になっており、AmazonはAWSの機能強化を進めている。

次なる取り組みは機械学習だ。ベゾス氏によると、AmazonはAWSの顧客が機械学習機能を構築するのを支援する方策の考案を進めており、1年半前には「セージメーカー(SageMaker)」をローンチした。現在、ビジネスに機械学習モデルを組み込もうと取り組んでいるAWSの多くの顧客がSageMakerを利用しているという。機械学習はAIとひとくくりにされて、業界の次のフロンティアとして小売業者にもてはやされてきた。AmazonがAWS向けの機械学習機能に向けてアクセルを踏むと、クラウドコンピューティング事業のために別のパートナーを探してきた小売業者には大きな転機になるかもしれない。

Amazon社内



ベゾス氏が共有したがっている内容から、Amazonは25万人いる従業員のスキル向上に取り組んでいることがうかがえる。「キャリア・チョイス(Career Choice)」と「キャリア・スキル(Career Skills)」という、授業料を負担してレジュメ作成やコンピューターの基礎といったスキルの授業を提供するふたつのプログラムを同氏は宣言している。

また、Amazonが従業員の最低賃金を15ドルに引き上げたことに言及し、福利厚生も含めて同様の対応をすることを小売の競合他社に呼びかけた。

この書簡で触れられていない水面下の事柄もある。Amazonの殺人的な配送スケジュールや、Amazonの倉庫における時に命に関わるようなひどい条件などだ。また、最低賃金の挑戦状に対しては、ウォルマート(Walmart)のコミュニケーション責任者が、Amazonは税金を払うべきだとTwitterで応酬した。Amazonは2018年、110億ドル(約1兆2300億円)の利益を上げながら支払った税金はゼロだと報じられている。撃ち合いがはじまった。

Hilary Milnes (原文 / 訳:ガリレオ)